三十九話・シンデレラ26
「全く失礼ね。私を見て気絶するなんて」
「す、すみません。別に悪気がある訳でなく」
ここの店主?はシワシワの杖を持った老婆で店の雰囲気と相まって、山姥や魔女と言った方がしっくり来る。だが、口調は若くて容姿とギャップがありすぎる。
「うん?あぁ、すまんすまん。この姿だと驚くのも無理もなかったわね」
トンっと杖を床板を叩くとあら不思議、ピカッと老婆が光ったと思ったら姿がまるで十代の少女の姿に変わっていた。
いや、それだけではなかった。店の内装も幽霊でも出そうな雰囲気だったのが、キラキラと明るくなり装飾屋の名の通りにアクセサリーや装備というよりはお洒落に特化した服が飾ってあった。
「ふぅ、これくらいで良いわね。うん?おーい、大丈夫か?」
装飾職人フェアリー?が呆然としている王子の目の前で手を振り起こす。
「はっ!あれ?ここは………それにあのバ━━あの老婆は一体何処に?」
「おい、今ババァと言おうとしたな?」
「いえいえ、気のせいです。それよりも、これを」
王子はイベントリからクエストアイテムを出して目の前のバ━━━ゲフンゲフン、少女?に渡した。
「シンデレラのドレス一式ね。それは任しといて、時間が掛かるから後で来てちょうだい。それよりも、何も聞かないのね」
「…………な、何の事ですか?俺は何も見てないですよ。ドレスのお代はよろしいので?」
「最初の間は気になるけど………まぁ、良いわ。お代は………特に考えてないけど、そうね。あなた、お料理は得意?」
「まぁ、それなりには」
「なら、お代として何か作ってちょうだいな」
「何かリクエストありますか?」
「そうね、リンゴを使った物が食べたいわ。持って来る前にドレスを作って置くから」
・クエスト更新:装飾職人フェアリーに料理を作れ
・クエスト内容:リンゴを使用した料理を作る
・勝利条件:装飾職人フェアリーに美味しいと認められる事
・クリア報酬:ドレスのお代が無料
(ただし、失敗時はお金を支払う)
「分かりました。ほら、行くぞ」
「はれ、私は一体?」
アテナの魂を引っ張り口から入れ肩を揺らして、どうにか起こす事に成功した。そして、腕を引っ張り装飾屋を後にした。
店を出た後、外装を確認してみると変化は無かった。どうやら、内装だけが変化したらしい。
外にいたフローラ達に聞いてみたが中から悲鳴は聞こえはしなかったし、装飾職人フェアリーが魔法発動中も外には音は漏れてないらしい。遮音も魔法の効果なのかとシャーリーに聞くと、店の外と中ではフィールドとして区切られてるという事だ。
そこは、ゲームなのかと思った。もし、アテナの悲鳴で店内に入っていたら、確実にフローラとメリッサの二人は気絶必須なのだから。
「それで何を作る気だい?王子なら成功間違いなしなのは当たり前だからな」
「確かに喫茶店ではラテアート上手いですよね」
いや、それは料理技術は関係ないかな。どちらかというと美的センスだと思う。
「兄さんの料理は絶品です」
「ありがとう。うーん、買い出しは大丈夫だとして、キッチンは何処にあるんだ?」
「キッチンといよりは作業場ですが、案内しますよ。まずは、材料です」
そういうと、早速市場に来て材料を吟味する。まずは、リンゴを手に取り二個━━いや、四個を買った。王子の頭にあるメニューはリンゴの王道のお菓子・アップルパイである。他の材料もアップルパイ二個分をお買い上げた。
驚いたのがパイ生地も売ってた事である。無かったら、作るつもりであったがこれで時間短縮が出来る。
「ここが作業場か。ずいぶん中は広いんだな」
材料を買った後、シャーリーに連れられて作業場に来ていた。公共施設のように様々なプレイヤーが使っていた。個室もあるらしいが、お金が掛かるらしく一般の場所で隅の方で作る事にした。
「ごほん、知ってると思うにゃけど、料理もスキルにゃ。取得してにゃいと高確率で失敗するにゃり」
うーん、スキル使用しなくても上手くいってしまう予感がするんだが、シャーリーの忠告を聞きスキルポイントを1ポイント使い料理スキルを取得した。
これで残り9ポイントだ。スキルというのは一回ポイントを使用し取得すれば、そのスキルを使用する度にスキルEXPが上昇し一定値たまればレベルが上がる。
王子なら現実でも料理は大得意で戦闘系以外のスキル内では直ぐに上がるだろう。
「兄さん、何か手伝える事ありますか?」
「タカちゃん、私も手伝うよ」
うーん、そうだな。料理に関しては俺一人でやった方が手っ取り早いだが、どうしたものか。
フローラは現実での料理の腕前は王子に及ばないが店で出せるレベルだ。即戦力になり得る。
「フローラに手伝ってもらおうか」
「兄さん………はい、がんばります」
「えっ!私は?」
「あ~、フローラだけでいいや」
「ガーン!そ、そんな」
「あっはははは、料理をしてこなかったツケがまわって来たんじゃないか。クッフフフフフ」
「メリッサ、笑いすぎ!今に見てろよ。タカちゃんにギャフンって………これは違うか。えーと、私の料理の虜にしてみせるから」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
アテナは料理の修行………花嫁修業として料理を覚える事を決意した。王子の将来のために。
ただし、王子に料理を食べてもらう日が来るかどうかは神のみぞ知るのみである。