三十八話・シンデレラ25
「ふぅ、これでクエストに指定された数は揃ったはずよ」
一人で全てを鑑定していたせいでシャーリーのMPは空に近い状態だ。そのお陰でクエストはクリア出来るから感謝しかない。
「これを全て王子のイベントリに回収すれば、クエストは進むはずだ」
討伐系クエストならモンスターを規定数討伐完了すれば終了(例外はある)となるが、採取系クエストはアイテムをクエストを受理した本人のイベントリに規定数入れなければ進まない。入れると、ほぼクエスト情報が更新され届け先の場所が提示されるのだ。
・クエスト更新
・クエスト内容:装飾職人フェアリーに会いに行け
・クリア報酬:???
クエスト報酬が不明になってやがる。確か最初は経験値とシンデレラの好感度だったはずだ。まぁ、クリアしてみれば分かることだ。
「うん、クエストが更新されたみたいだな」
一先ずは前進したみたいで王子は安堵する一方、まだ誰もやってない事をやるのはワクワクしてしょうがない。
「それでどんな内容なんだ」
「装飾職人フェアリーに会いに行けと、クエスト内容が変わった。なぁ、このフェアリーって誰だ?有名な職人なのか?」
みんなは知らないようでフルフルと首を横に振る。自然とシャーリーの方へと視線が注がれる。
「うんにゃ、私も知らないね。けど、このクエストによる限定のNPCだと思うにゃ。とりあえず、街に戻れば何か分かるかもにゃ」
シャーリーの言い分も最もだ。誰もやったこと無いのに情報もへったくれも無い。
「それじゃ、街に戻りますか」
街に帰って来るなり、どっと疲れが襲って来た。ツルハシを持ってた手には握力がなかなか入らない。
現実でも、重い物を何回も振ってると動作を止めた途端に力が入らない事って、ここまで現実を再現しなくても良いのにな。
「さてと、地図を確認してみますか」
「どう?何か印出たにゃ?」
「これですかね?赤い丸が点滅してますね」
「そうこれよ、少ないけど移動系クエストはマッピングに移動すれば完了にゃ」
「では、早速行って見るか」
地図を見ながら、マッピングの箇所まで歩いて行く。最初は賑わいがある市場を通って行ったが、徐々に人通りが少ない道へと入って行く。
本当に大丈夫なのかと、一言で言うとね。スラム街だよ、ここ。あの賑やかな市場が嘘のように静まりかえっている。男の俺でも怖いよ。
「ねぇ、タカちゃん本当ここで合ってるの?」
「間違いないはずだ。もう少しで着くから我慢して」
アテナが王子の腕を組んできて、そのまま目的地へと歩んでく。その後ろでは━━━
「ぐぬぬぬぬっ、兄さんとあんなにくっついて………しかも、胸を兄さんの腕に何とも羨ま……けふんけふん、けしからん」
「それは仕方ないさ。恋人同士なんだからな」
「それはそうだけど………」
「今度、どこか食べ放題でも付き合うぜ」
「それはもちろん、メリッサ持ちだよね」
「………も、もちろんだぜ」
まだ、中学であるフローラにお金を出させる訳にはいかずに、後日実際にアテナとフローラに加えニムエも一緒に行く事になった。
ニムエによるとフローラの分をアテナと割り勘する事になったらしい。持つ者は友達だ。それでも、メリッサの懐は確実に寂しくなったのは確かだ。まぁ、それはまだ別の話として話すとしよう。
「おっ、ここだ」
目的地である建物の前まで来た。そこには装飾屋とだけ看板があり、いかにボロそうで崩れるんじゃないかと思われる店だった。本当に装飾職人フェアリーがいるんだろうか。場所の雰囲気と名前の響きが合致しない。
「ご、こめんください。だ、誰かいませんか?」
ギィギィと金具が錆びたドアを開け、今にも幽霊が出そうだ。クエストじゃなかったらこんなとこ絶対来ないよ。床は今直ぐに抜けそうだし、本当はお化け屋敷じゃないの。あぁ、早く帰りたい。
店の中に入ったのは、俺と腕を組んでるアテナだけだ。他の者は外で待っている。メリッサは、男勝りのとこがあるが幽霊系全般は無理だ。修学旅行で遊園地のお化け屋敷に他の班のクラスメイト無理矢理入れられて、お互いビックリして抱きついた記憶がある。
お化け屋敷の外に出たらメリッサが泣くもんだから泣き止むまで側にいたっけな。その事を言うと怒るから、今では禁句だ。よっぽど、俺に泣き顔見られたのが恥ずかしかったのだろう。
「ねぇ、タカちゃんもう出よう………よ」
ギィギィ、と王子とアテナは今は歩いてない。のに、床板が軋む音がこのホラー染みた雰囲気の中で響く。
やべぇ、もし俺一人だったら必ず悲鳴あげてるよ。
「おや、お客さんかいね」
部屋の奥から暗くて良く見えないが足はちゃんと付いてるし幽霊ではないようだが、頭では理解しちゃいるがこの雰囲気からか王子も声が出そうになる。
「ひぃ………で、出たああぁぁぁぁぁ」
アテナの顔に蒼白になりポッと魂っぽいのが出てきて口を開けたまま固まった。
アテナが先に悲鳴をあげてくれたお陰で王子は幾分か冷静になり声を飲み込む事が出来た。誰だって先に誰かが驚いたり、悲鳴があがると妙に落ち着くものだ。