二十八話・シンデレラ15
「ふぅー、空気の美味しいとこで飲むお茶は格別だね」
「お茶菓子もあるから、どうぞ」
森の奥にフローラとシャルルが消えてから、皆で地面に座ってピクニック気分でお茶を楽しんでいる。
ただし、未だに鳴り響く銃器の音━━━自然破壊の音が鳴り響く以外は普通にピクニックだ。
「ありがとう、ニムエは将来良いお嫁さんになれるだろうね」
「えっ!そんな王子様のお嫁さんだなんて………ニムエ嬉しい♪」
「そ、そこまで言ってないけど!」
「あっはははは、これは聞いてないね。妄想のスイッチが入っちゃってるよ」
「成る程成る程、王子様は赤ずきんちゃんのみならず、他の女性プレイヤーにも手を出してると………」
メモ機能になにやら書いてる様子のシャーリー。
「おい、そこ何を書いている!」
「にゃはははは、ウソウソ書いてないにゃりよ」
メモを見せて貰うと白紙であった。ただ単にからかわれただけみたいだ。
「くっ、やられた」と王子は呟くと、シャーリーの目キラリと光った。
「にゃふふふ、新しいオモチャ……ゲフンゲフン、新しい仲間が見つかって良かったにゃ」
今、オモチャと言わなかったか!
「なぁ、今オモチャと━━━」
「そんな事よりも」
そんな事より!何かスルーされたんだけど。
「シャーリーはソロなのか?それに、何時の間にか姿と口調が変わってるのだけれど?」
ニムエは憧れのシャーリーに質問するためには王子をスルーするのは躊躇わない。
スルーされた王子は端で「俺なんて俺なんて」とイジケテる。
「私はソロにゃよ。だから、仲間に入れて欲しいにゃ」
「「あぁ、もちろん大歓迎だ」」
立ち直った王子とメリッサの声が重なった。ニムエはまだ妄想世界に旅たってるみたいだ。
「もう一つの質問に関しては、こっちのキャラがメインにゃ。口調もキャラに合わせてるだけにゃ」
「それじゃ、俺もサブキャラを作って━━━」
そう言った途端に王子の希望が遠のいた。
「それはまだ無理にゃ。サブを作成するにゃには、メインをレベル200以上育てないと出来ないにゃ」
このゲームはどんだけ俺に非情なんだ。くそっ、俺に何か恨みでもあると言うのか!
こんな、気持ちになるなら最初から知らなかった方が良かったよ。うわああぁあーーん、とゲーム内なのに涙が流れた気がした。
「ぐすっ、シャーリーのメインは何の職種なんだ?サブは僧侶ぽっかたけど………」
ショックからどうにか立ち直った王子はシャーリーに気になる質問をした。
「メインは猫族の武神にゃ。格闘家の最終職にゃ。サブは僧侶って合ってるにゃりよ」
「はぁ、凄いな。それで、委員長━━」
「にゃから、ここではシャーリーでお願いするにゃ」
「それで、シャーリーさっきから何もしてないのに、レベルが上がってるようだが………」
そう、ここでお茶をしている時からレベル上昇のアラームが何回も鳴っていたのだ。
「ほれ、情報は欲しいにゃら━━」
「まずはお金か……そこは情報屋ということか」
「そういう事にゃり━━━毎度あり」
誰でも知ってそうな情報なので、2マイルですんだ。貴重な情報なら5万マイルはするらしいので、本当に誰でも知ってるんだと痛感した。
「恐らく、私達は今パーティー組んでるのは分かってるよにゃ」
「あぁ、それは分かってる」
「パーティー組んでる時、経験値=EXP均等に分配されるにゃ。そうすると、原因はあの二人しか考えられないにゃ」
とすると、フローラとシャルルの大喧嘩に巻き込まれたモンスターのEXPが俺達にも入った事か。
「もっとレアな情報なら喜んで売買してるにゃけど、どうするにゃ?」
「それはまた今度と言うことで」
王子は、まだ新人の域を出てないので、今こういう話に乗ったら痛い目に合うのは目に見えてる。
「それは残念にゃ。もし優良な情報が手に入りましたら、情報屋シャーリーの元へお願いしますにゃ」
━━━ベルの森・奥━━━
ドカンドドドドカーン━━正にモンスターの地獄絵図と化している。
「ハァハァ、このいい加減にしなさいよ。ブタ女」
「それは……こっちのセリフだっつぅの。サル女」
バンバンとシャルルは二丁拳銃を撃ち、シュンシュンとフローラは投げナイフを投げ応戦する。
バンバン━━シュンシュン━━ガキンガキン
拳銃の弾が飛んでくるナイフに当たり、火花を散らす事でなかなか決着が着かないでいた。
前に説明した通り、フローラの職種は盗賊で俊敏さ=速さと回避に特化しており、回避率がそのまま攻撃力に変換するのに対して、シャルルは赤ずきん固有職種であるガンマンで命中率に特化してる、弓士の上位互換みたいな職種だ。命中率がそのまま攻撃力に変換するのだ。
回避と命中の相反する特化したステータス同士で勝負が着かないのだ。
『キシャアァ』
二人の近くに何かが近寄って来るが━━━
「「五月蝿い、この雑魚が」」
『キシャ!』
バンッバンプシャー━━━シュッザクプシャー
二人を襲おうとしたのは、王子達のパーティーで苦労したホワイト・スパイダーだ。
しかし、喧嘩中のフローラとシャルルに返り討ちされ、八本の足はフローラの投げナイフで全部切り落とされ、体はシャルルの二丁拳銃で風穴が空いて無惨な姿と化していた。