二十三話・シンデレラ10
渚と雫を送って帰った後、お風呂を頂き自室に戻って直ぐにGWOをログインした。
「ふぅ、ここはヴェーロンの宿屋か。シャルルはいるか」
前回ログアウト前に泊まった宿屋の一室にいた。ログアウトする時は宿屋に泊まる事がプレイヤーの暗黙の了解になっている。
ログアウト直後だとアバターが意識を失う様に無防備になり、装備を奪われることがあるのだ。なので、よっぽどの初心者ではない限りログアウト時は宿屋に泊まるのだ。
「はい、王子様シャルルはここです」
「さてと、皆と合流する前に確かめたい事があるから付いてきてくれるか?」
「私は王子様が行く所にこのシャルルがいるのです。もし、置いてきぼりにしましたら、怒りますよ?」
ヤンデレ気質みたいな発言で怒られるより後ろから刺されそうで怖い。気を付けよう。
そして、シャルルと一緒に到着したとこが昨日シンデレラの家と判明した建物だ。再度来たのは何か新しいクエストが発生しないか確かめるためだ。
「ここが二人目の女の家ですね。あぁ、憎たらしい。私の王子様を誘惑するなんて」
ただ、エラが落とし物して王子がそれを拾ってあげただけの面識なのに、むしろ王子の方がストーカーに近い事をしてるのだけれど、その事をシャルルに伝えたら━━━
「それはあの女が王子様を誘惑するからです」
「俺は誘惑されてないし、まだ仲間になるとも決まってないんだよ」
「そ、それはそうですが━━━」
「それに仲間になったらシャルルには仲良くなってほしいな」
「ふにゅぅ、王子様にそう言われては断れるはずないじゃありませんか。その代わりなんですけど、後で私を愛でてくださいませ」
もじもじと頬を赤く染めながら甘えてくるシャルルに頭を撫でながら約束する。
二人でイチャイチャしていたら足下に二匹のネズミがこちらを見上げチューチューと鳴いている。何かを伝えようとしてるが生憎動物の言葉はわからない。
「あ、確かスキルにあったような……」
王子は何か思い出したかの様にステータスウィンドウを開きスキルの項目にある言語をタッチすると、さらに細かく表記されそこに"動物言語"というスキルがあった。それにスキルポイントを一つふった。
『動物言語を習得致しました』
頭の中にアナウンスが流れ早速"動物言語"を使用した。使用後直後、ネズミの声が鳴き声から言葉に変換されて聞き取れる様になっていた。
このスキルはこの先、使い方によっては便利かもしれない。どうやら、一回習得してしまえば念じる様にスキルのON/OFFが可能らしい。
『おーい、俺達の声聞こえてるか?』
『この人間、グズそうだから分かりっこないよ。エラの時とは大違いだよ』
『女の方なんかエラの比べるとブスで不細工なんだよな』
『そうそう、男は男で弱そうだしパッとしない感じなんだよな』
何かこのネズミ共自分の言葉が分からないと思って俺達の悪口言ってないか。何かイライラしてきたなと思っていた矢先、隣にいるシャルルが何かガチャリと音を立て王子がそれを見ると驚愕した。
「ねぇ、王子様こいつら撃っていい?」
何とシャルルは赤ずきんの話世界で王子と戦った時の装備である銃を持っていた。あの時だけの装備じゃなかったのか!
どうやら、王子のスキル"動物言語"はシャルルにも影響を及ぼした様でネズミの言葉を理解してしまったらしい。なってしまった事はしょうがない。どうにかして、シャルルの説得に試み得る。
「シャルル、それはダメだよ。お願いだから我慢して」
自分以外の人が代わりに怒ったりすると意外に冷静になれるものだ。こうやって止めたり出来るのだから。
「王子様、そこを退いて。そいつらを撃てないないじゃない」
シャルルがネズミを撃たない様に王子はネズミの盾になる。これでシャルも下手に撃たないだろうと思いたい。
「まぁまぁ、落ち着いて。ネズミにムキになってもしょうがないよ。俺はこのネズミに用があるんだから」
「むぅ、王子様のお願いだからここは引いてあげる。ただし、借り一つだからね」
えっ!何をされるか怖いな。うーん、シャルルなら大丈夫か。大丈夫だと信じたい。
━━━杏の部屋━━━
「はっ!何か兄さんの身に危険が迫ってる予感が…………」
翌日の準備をしている最中に杏の手が止まった。風呂上がりで髪を乾かしていた杏璃はただならぬ様子の杏に尋ねた。
「うん?杏どうしたの?」
「杏璃、私は先にログインします。杏璃はゆっくりと来てくださいまし」
「えっ!ちょっと━━━」
隣にいたはずの杏がベッドの上に瞬間移動したかの如く移動していた。理由を告げずにログインしようとする杏を止めようとするが、まだバスタオル一枚という杏璃の姿で止められるはずもなく、すでに杏はアルタイル装着してベッドに横たわってログインした後だった。
数分後、杏璃も寝間着に着替え杏の後を追いログインするのである。
━━━シンデレラの家・外壁━━━
シャルルの行動に震えあがるネズミ二匹に王子は両手乗せる。相変わらず、シャルルが脅したせいで震えあがっている。普段なら害獣扱いされるネズミでも言葉が理解出来ると何故か愛着が湧くものだ。
「話を聞かせても良いかい?」
『俺達の言葉がわかるのか?』
「あぁ、もちろんだ。それで、エラに何かあったのかい」
『エラと同じ人間に会えるなんて!あの女はエラと大違いだ。エラとは違って短気で━━━』
「ウフフ、良く聞こえませんでしたが何か言いました?このクソネズミは」
笑顔だが目が笑ってない。おい、ネズミ挑発するなよ。怖いだろうが。こっちに飛び火したらどうしてくれる。
『ひいぃー、殺される』
「シャルル、抑えて抑えて。それより、話を進めてくれないか」
『そ、そうですね。すみません、兄さんが失礼な事を』
兄弟だったんか。一回別れたらどっちが兄か弟か当てる自信がない。
「ふん、そっちのネズミは物分かりが良いようで多少好感は持てるわ」
『それはありがとうございます。それで話を戻しますと、一週間後にあのお城で舞踏会とやらが開かれるらしいんだ。ただ、エラはイジメる継母と姉二人によってこのままだと行けないんだ。どうにかして欲しい』
━━━━クエスト発生!━━━━
・クエスト:エラが着るドレスの材料を集めよ
・クリア条件:ホワイト・スパイダーの糸×20
ダイヤ鉱石×10
・クリア報酬:EXP1000、エラの好感度50
受諾:イエスorノー
もちろん、イエスを押すと瞬時に次のクエストが発生した。
━━━クエスト発生!━━━
・クエスト:エラのティアラの材料を集めよ
・クリア条件:銀鉱石×10
ダイヤ鉱石×5
・クリア報酬:EXP100、エラの好感度25
受諾:イエスorノー
ポチッ、もちろんイエスだよ。
━━━クエスト発生!━━━
ガクッ、一体いくつあるの!
・クエスト:エラのイヤリングの材料を集めよ
・クリア条件:銀鉱石×5
ダイヤ鉱石×2
・クリア報酬:EXP50、エラの好感度5
受諾:イエスorノー
ポチッ、イエスを押す。今度は出て来ないようだ。ただ、被ってる材料があるのは幸いだ。
ネズミ兄弟を下ろし、ログインしてるであろう皆と合流するために宿屋に戻る事にした。