二十話・シンデレラ7
日常編です。
朝食を食べた後、王子、杏と杏璃の三人で登校していた。杏は中学生なので途中で別れ王子と杏璃の二人だけになった。
「ねぇ、タカちゃんは杏が機嫌良い理由知ってる?」
一緒に登校中、いつもはあんまり表情を変えない杏が別れ道で別れるまでニコニコ笑顔だったのだ。
「いや、知らないが」
心当たりはあるが、愛の伝道師の事を思い出したくないので、敢えてスルーする。
「だって、あんな笑顔の杏なんて気持ち悪いってなにものでもないよ」
「おい、俺の妹に何て事言うんだ」
「あははははっ、ごめんごめん」
「こら、待て」
「ヤ・ダ・よ。きゃぁぁぁ」
学校まで追いかけっこが始まり、男である王子の方が足が速いと思いきや杏璃の方が速く距離が拡がる一方である。
━━━王子の学校━━━
ガラガラと教室の扉を開け、疲れた表情で教室に入る王子。
「ゼェゼェ、ハァハァ……めっちゃ疲れた」
「どうしたの?タカちゃん」
「どうしたのじゃない。な、なんでお前は疲れてないんだ」
「えぇー、あんな程度で疲れるなんて年だよ。タカちゃん」
元陸上部に勝てるはずがない。杏璃は生徒会に入るまでは陸上部に入部しており、大会上位の常連者なのである。部の顧問や部長が部に残ってくれと頼まれたらしいがそれを断って生徒会に入った訳だ。何故生徒会に入った理由は王子にも知らない。本人がどうしても話してくれない。
「おっ、朝恒例の夫婦漫才か」
「「誰が夫婦漫才だ!」」
「おっ、珍しく嫁の方もつっこんだ」
「そ、そうだったかな?それに、誰が嫁よ!」
「わははははっ、本当にお前らは面白いな」
「おいっ、駿。いい加減にしないと怒るぞ」
ピンコーンカンコーンとチャイムが鳴る。
「おっ、チャイムが鳴ったな。また休み時間にでも話そうぜ」
ガラガラと扉が開き担任の先生が入って来ると、全員が急いで席に着く。
「はい、委員長号令を」
「起立」
ガラガラ━━━全員席を立った。
「礼、おはようございます」
『おはようございます』
「はい、おはようございます」
「着席」
ガラガラ━━━全員席に着いた。
「はい、それでは出席を取ります」
順番に生徒の名前を言っていく。
「はい、全員いますね。それでは、一時間目は歴史ですので準備して待ってて下さいね」
担任の先生は教室から出て行き、代わりに数分後歴史の先生が入ってきた。
「はーい、それでは授業を始めます。委員長号令を」
「はい、起立━━礼━━着席」
歴史の授業は生徒が答える声と先生が教える声以外、ノートに書く音しか響かないまま━━━━いや、前言撤回しよう。数名だが寝てる生徒はいる。王子も残念だが、その中の一人だ。
そして、終了のチャイムが鳴り休み時間になった。
「おーい、キング眠いようだが夜更かしでもしたか?」
「だから、キングって呼ぶな。お前のせいでその呼び名が浸透して嫌なんだが………」
どうせ言ったところで変える気は全然ないのは知ってるから、この問答は最初の数秒で終わる。これも、王子周辺で当たり前の習慣になってる。王子本人はけして認めないが。
「それは一緒にゲームをやっていたからだよね。タカちゃん」
王子の代わりに答えるのは王子の席の近くに来た杏璃だ。
「おっ、とういう事は夜にキングの家にいたって事か?それで、泊まったのか。半同━━━」
「それは違うからな。親が居たし」
速攻で否定する王子だが、何故か杏璃が悲しい顔をした。それを王子はもちろん周りの人は気づかない。
「でも、キングが一人暮らしになったら、まじで同棲をしそうだな」
「それは………ないと思う」
「おっ、今の間は案外満更でもないと言うことか。成る程、進展はないと思ってたが俺の知らぬとこで合ったとみえる。さぁ、吐け吐くんだ」
王子に詰め寄る駿だが、誰が投げたのか後頭部に消しゴムが当たった。
「痛っ、誰だ。これを投げたのは」
後頭部に当たった消しゴムを広い上げ、犯人を探す。数秒後、すんなりと挙手する人物がいた。
「はーい、私だけど悪い?ただ、手が滑っただけなの。許してくれる?」
なんと、消しゴムを投げたのは委員長だった。
委員長は駿の所に消しゴムを受け取りに来た時に一瞬、王子と杏璃に駿にはバレない様にウインクする。もしかして、俺達の事助けてくれたのか?
キンコーンカーンコーン━━━チャイムが鳴ってしまった。駿のせいで休み時間が終わってしまった。後で何か奢って貰うとするか。
━━━そして、放課後━━━
「あっ、委員長あの時はありがとな」
「あの時?」
「ほらっ、駿に消しゴムを投げたじゃん」
「あぁー、あれね。私も聞いててムカついたから良いのよ。イライラしてたから………それで、本当のとこどうなの?」
「はっ?何が?」
「だから、杏璃の付き合ってるかってことよ」
駿の事をさんざん言っておきながら、自分は聞くのかい。まぁ、良いけど………
「別に付き合ってないけど、これで良いのか?」
「えぇー、何か納得出来ないのだけれど」
「はぁー、じゃあどうすれば良いんだ?」
「だって、夕飯やお泊まりしたりするんでしょ。好きじゃない男の家に行かないって」
「………それじゃ、バイトがあるから行くな」
「あっ、こら待ちなさい。逃げるな!」
王子は委員長から逃げるように学校を後にするのだった。バイトをあるのは本当で、委員長の声をスルーして取り敢えず帰宅する。