十九話・シンデレラ6
「ちょっ待って!ここは外だよ」
王子の言葉にピタッとシャルルの手は止まり王子の顔を覗き込む。
「うふふふっ、安心して王子様。優しくするから」
シャルルの表情がいつもより目が据わっており、誰かに操られてるような状況だ。
「さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうね」
王子は抵抗するが力が何故か入らず、剣士のズボンが脱がされるのも時間の問題だ。
しかし、後数㎝で剣士のズボンが脱がされるところで、ビューンと風切り音が鳴り鈍く光る何かが飛んでくると王子の後頭部にブスッと当たる━━━いや、刺さった。
「痛っ!」
王子の声でビクッとシャルルが驚き動きが止まったその隙にフローラがシャルルを蹴り飛ばし王子を助けた。
「大丈夫ですか?兄さん」
「あぁ、助かったよ。それよりも、これを抜い━━━」
「はぁー、そこです」
誰もいないはずの建物の角にフローラがナイフを投げつけるが、途中でカキンと何かに弾き返された。
「そこにいるのは分かってます。出て来なさい」
「それよりも、頭のこれ抜いて━━━」
「兄さんはうるさいです。少し黙って下さい」
「はい、すみません」
思わず謝ってしまった。だって、また般若が出てくると思うと反射的に体が動いてしまうんだもの。
でも、頭に刺さってるナイフ抜いて欲しい。フローラの武器からなのか自分では抜けなくて、ピゅーっと血が出て続けてる。現実なら出血死になってるだろう。
『ふぉほほほほっ、よもやそんなにレベルが低い相手に見つかるとは我もまだまだなようだ』
建物の影が陽炎のように揺れ現れたのは赤ずきんの話世界でシャルルから出てきた"心の闇に潜む者だった。
だが、姿形は同じなのだがどこか雰囲気が違うようなそんな感じがする。
「あなたは何ものです?返答次第では殺します」
ただ、やるって言ってるのに王子には物騒な言葉に聞こえたような気のせいだと思いたい。気のせい気のせいだ。
『おやおや、怖いね。でも、そんな強気なとこも好きだね』
「気持ち悪い事言わないで下さい。鳥肌が立ってしまいます。そんな事言って良いのは兄さんだけです」
『ふぉほほほほっ、その兄さんとやらは愛されてるだね』
「そうです。兄さんのことを愛してます。分かってるではありませんか」
王子は今の二人の話を聞かなかった事にする。般若は怖いが兄妹なのだ。兄妹の範疇ならただ仲の良いとすむだろう。しかし、フローラが言ってるのは男と女の関係だろう。それは断固拒否しなければ現実で王子は社会的に抹殺《追放》されるだろう。
『そりゃー、我は愛の伝道師だからね。愛の事ならお任せあれだよ』
「おい、お前らは心の闇に潜む者ではないのか」
『ほぉー、我の同胞と会ったのかい。これはまた面白い。元気だったかい?』
なに!同胞だとそれじゃこんな奴らが何人も居ることになるのか!
「あぁ、元気良く飛んで行ったよ」
『それは何よりな情報だね。嬉しいね。久しぶりに会ってみたくなったよ』
「兄さん、もうそろそろ良いですか?」
「あぁ、どうぞ」
途中で話を中断されフローラはイライラが貯まっていたのか般若らしきオーラっぽいものが出始めていたので王子はフローラに譲った。もう、見たくないというかトラウマになってるから逆らわないようにしている。
「その愛の伝道師とやらが愛に関して何か教えてくれるのですか?」
『ふむ、君はどうやら相手に自分をアピールしてるようだね。我のアドバイスはこうだ。押すばかりではなく引く事も大事だとね』
「押すだけではなく引く事も大事ですか………アドバイスありがとうございます」
あのフローラが初対面の奴にお礼を言った!今までそんな事なかったのに本当にフローラ………俺の妹なのか!
「兄さん、何か失礼な事考えませんでした?」
「いえ、滅相もありません」
あぁ、間違いない。俺の妹であるフローラ(杏)だ。俺の考えを見透したり、逆らってはいけない感じは間違いない。
『ふぉほほほほっ、構わんよ。後ついでに我を見つけた褒美をくれよう』
愛の伝道師が指をパチンと鳴らすとフローラだけでなく王子まで足下がピカッと光った。
『褒美として少しばかり経験値と称号をくれてやった。ステータスを確認すれば分かる。そこの赤ずきんは元に戻ってるので安心しても良いぞ』
そう言われ王子は後頭部にナイフを刺さったままシャルルに近寄って無事を確認した。無事ではないのは王子の方である。まだ、後頭部にナイフ刺さったままなのだから。
━━━王子━━━
・レベル14
・称号:心の闇に潜む者を知りし者
愛の伝道師を知りし者
━━━フローラ━━━
・レベル5
・称号:愛の伝道師の友
ステータスを確認するとレベルが王子が二つ上昇し、フローラが四つ上昇していた。後、変な称号がついており王子は微妙な顔をした。
『それではサラバだ。また会えるのを楽しみしてるぞ』
誰がするか!もう二度と来るな。塩があったら凄く撒きたい。
一方、フローラは愛の伝道師が去った方を見てそっと呟いた。
「あの方良い人でした」
「はぁー、もう会いたくないよ」
「何を言うのです!私の愛を………兄さんの愛を応援してくださったのです。また会って愛について語り合いたいです」
ダメだ。説得出来ない。出来れば二度と現れ無いことを祈るのみだ。
「それでフローラこれ抜いて欲しいのだけれど」
「まぁ、一体全体誰がこんなことを!少々お待ち下さい。んーしょ」
フローラが王子に刺さったナイフを握りブスッブスススと引き抜いた。
そして、何もなかったかの様にナイフの血糊を拭き取り懐に仕舞ったのである。
「フローラ、俺に何か言うことは?」
「何のことでしょう?はっ、もしかして兄さんはこのナイフを私が刺したと思ってるのですね。酷いです。そんな事………そんな事やるはずないのです」
フローラの目からうっすらと涙が垂れ両手で両目を押さえると地面に突っ伏した。泣く演技とは思えない程本気で泣いてる様に見えて当の王子もオロオロと動揺している。
「ご、ごめん。疑って酷いこと言って悪かった」
「解ってくれれば良いのです。みんなの所に戻りましょう」
その後王子はシャルルを起こし、みんなと合流しログインするのであった。