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作者: 益田 つばぱな

 清々しい休日の朝。

 カーテンの隙間から溢れんばかりの春の日差しが、私の頬をかすめる。

 暖かく、やさしい繊細な光。

 実に心地がいい。


 体を起こすと、軽く伸びをする。

 仕事で疲れた筋肉がほぐれて気持ちがいい。

 カーテンからもれる光で今日の天気の想像がつく。

 時計は朝7時をさしていた。


「今日は何をしようかなあ。」


 そんなことを考えられるほど平凡な休日。

 しかし、それがここ最近で一番の幸せだ。


 カーテンを開き、体全身で春を体感する。

 朝の日のぬくもりが心の中でじんわり広がった。

 

 私は春が好きだ。

 このなんとも言えない、私を包み込むような優しさが好きだ。


「もっと春を肌で、耳で、鼻で、体の五感すべてを使って感じたい。」


 その一心で鍵のかかった窓を開けるべく、ロックに手をかけた。

 

 その瞬間、嫌なものが目に飛びこんだ。




 何者(むし)の卵・・・・。




 部屋の隅々まで「綺麗」が広がっている私の部屋には、ふさわしくない汚らわしいもの。


 変な胸騒ぎがやって来る。

 そして、全身に軽い衝撃が走る。


 一気にテンションが落ちた。

 最悪だ。


 とりあえず「卵」を処理し、気持ちを切り替えることにした。

 せっかくの大事な休日を「卵」ごときに台無しにされたらたまったものじゃない。


 朝一番の不快な出来事を忘れるかのように朝食の準備を始めた。

 いつもは仕事場への出勤時間に追われているため、朝食などただ胃に物を詰める行為にすぎない。


 しかし、休日ぐらいは朝食を楽しみたいものだ。


 食器棚からオシャレな洋風皿を取り出す。

 バターロールをトースターで軽く温める間に、厚切りベーコンと自慢のスクランブルエッグを焼いた。

 鮮やかな緑の水々しいレタスと、それを映えさせる真っ赤なトマト。

 どれをとっても「新鮮」の二文字で、輝きを放っている。

 デザートはヨーグルトにブルーベリージャムの、私のお気に入りの組み合わせに決まっている。


 ドリンクはどうしようか。

 パンに合うのは牛乳だが、オシャレにブレンドコーヒーも有力候補だ。


 しかし、そんな迷いを吹き飛ばす名案がふと私の頭に舞い降りて来た。

 最近私がはまっている珈琲屋で、先日買ったコーヒー豆があることを思い出したのだ。

 そこのマスターが淹れるコーヒーはとてつもなく絶品で、正直食事のドリンクには惜しいものだった。

 しかし、今日は朝食を豪華なものに仕上げたかった。


 思い切って豆を挽く。

 素人の私相手でも豆は優秀で、香り高いコーヒーを物語っている。

 コーヒーをカップに注ぎ終えた頃、テーブルにはその日一日の印象を良くするような朝食が並んでいた。






 幸せな時間はあっという間に過ぎるものだ。

 何もなくなったオシャレな洋風皿を眺めながら、残ったコーヒーを味わう。

 最高に満足だ。




 しかし、またしても幸せな時間をぶち壊すように奴が現れる。




 左手で持っていたコーヒー皿に、




 またしても「卵」。




「カッシャーン!!!!」


 驚きで右手のコーヒーカップを落としてしまった。

 床にコーヒーがぶちまかれた。


 頭の中は混乱状態に陥り、冷静になるまで時間がかかった。


「な、なんで!さっきまでは綺麗な皿だったのに・・・!」


 非常に気味が悪い。

 しかし、このままにしておく訳にはいかない。


 すぐさま椅子から立ち上がる。


 目に付いたティッシュで皿の汚らわしいものを拭き取った。


 私の体にただひたすら「気持ち悪い」という感情が駆け抜けた。


 床にぶちまけたコーヒーの香りが鼻につく。


 雑巾を取りに行くため出した右足。




 その時、気がついた。




 床にも「卵」。




 その瞬間、私の金切り声が部屋に響いた。











 目が覚めた。


 まるで悪夢を見たあとのような気分に襲われる。

 最悪な目覚めだ。

 それにしても、床に倒れこむようにして寝ていたのだから、よほど疲れていたのだろう。


 ぼやける視界がはっきりしていく。


 私の眼球が捉えたのは、


 自分の周りを囲むように目立つ




 「卵」。




 きっと幻覚だろう。

 私は疲れているのだ。

 今度はちゃんと布団で寝よう。


 と、その前に。

 床に散らばったコーヒーと食器を片さなければ。

 足早に雑巾を用意しコーヒーを拭く。

 その時、ふと気になった。




 反射している自分の顔がひび割れしている・・・。




 今の季節は冬ではない。

 それ以前に私は乾燥肌ではない。


 焦った私は、反射的に自らの手で顔を探る。


 肌の質感の異変に気づくのに時間はかからなかった。




 固い。




 まるで卵の殻のような肌触りだ。


 ただ、自分は夢を見ているのか?

 そう錯覚させた。

 むしろ、そう信じたかった。


 恐怖と焦りで動揺が隠せない。

「自分は死んでしまうのか。」ただただその言葉がメリーゴーランドのように脳内を回った。

 その時だった・・・。




「パキッ・・・・・。」




 軽い音が部屋中にこだました。

 それと同時に、床に固い破片が落ちる音がした。


 コーヒーの反射を利用して自分の顔を確認する。


 震えが止まらない中、私は懸命に「嫌な予感」を否定した。


 しかし、予感は素直だった。




 皮膚の一部が砕けて散ってしまった。











 目を覚ますとあたりは闇に包まれていた。




 月光が部屋にほのかな明かりを届けてくれる。




 私は全てを思い出した。




 私は、人間の殻を破り生身の体をあらわにした。






 そして、本能のまま卵を産み続けるのだった。






最後まで読んでいただきありがとうございました!

今回は短編にしては少し短い内容でしたねww

自分で読んでて「あぁ、まだまだ課題だらけだなぁ」と思う今日この頃。

これからも頑張っていこうと思う作者なのでした。


感想とか批評とか気軽に送ってくださいね~!正座して待ってま~す♪

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