CASE5 あーもういい!
オンラインゲーム「ザ・ブラックアース」のギルド「自由同盟」初めてのカラオケ屋オフ会は、かなりの盛り上がりを見せていた。
ギルドの長である「団長」提案の、自己紹介までゲーム内のキャラクター名を内緒にしておく作戦が、思った以上に受けが良かったんだ。
現在自己紹介は終了しているが、みんな思い思いに気になった人と話したり、カラオケしたりしている。
で、そんな盛り上がりとは全く無縁の「3人」が、部屋の端っこの方にいるわけなんだが。
一人はヒイロ(古名燈色)。
最初は団長に話しかけられて、仕方なく付き合ってはいたようだが、最終的には一人でスマホを触っている。団長も無理強いは良くないと判断したのか、強引に会話に混ざるようには言ってないみたいだ。
残る二人は、俺「黒部真司」と姉の「黒部里奈」だ。
あの自己紹介で、俺が尊敬してやまない憧れの師匠である「エリナ」だったことが判明した。え?「師匠」とか「さん付け」しないのかって?なんで自分の姉に向かって「エリナさん」と呼ばねばならんのだ。気持ち悪いっ!ぺっぺっ!
しかし姉貴の奴が、俺と姉弟だってことを周囲に隠したもんだから、周りからは理想のカップル誕生か?みたいな目で見られている。その上、気を利かせた団長が「シャッフルターイム!」と叫んだかと思うと、俺と姉貴を隣同士にさせやがった。
色々考えた末、丁重にお断りしようと思ったのだが、
「えっちな事しちゃだめだよぉ?」
「誰がするかあああああああああ!」
という、明海さんの悪乗りについ突っ込んでしまい、遠慮するきっかけを逸してしまった。
それにしても今日の明海さんは絶好調だ。
被害は全部オレが受けてるけどな!
そういうわけで、俺と姉貴は(ついでに燈色な)、集団からやや離れた場所を提供されていた。
「はぁ・・・」
里奈のやつから大きなため息が漏れるのが聞こえた。あーでも、今は気持ちわかる。俺もため息つきて~もん。しかし、二人して黙りこくってるわけにもいかんだろうなあ。
「なあ」
「・・・なに?」
「姉貴って、このゲームやってたんだな。全然知らなかったよ」
そんな俺の言葉に一瞬間があってから、
「はあ!?」
俺が何気なく聞いた言葉に里奈の奴異常な反応を示しやがった。え?なんか変なこと聞いたか俺?
「あんたそれ、本気で言ってんの?」
結構強い剣幕で言われたので、正直ちょっと驚いた。一体こいつは何を怒ってるんだ?大体、ココ最近の姉貴の俺への態度と言い、今日の事と言い、なんかおかしいんだよ。
なので俺としては、全くわけがわからない状態だ。だから俺は当然の如く、
「いや、このオフ会で姉貴に会ったからびっくりしてるんだけど俺」
そう、素直に言ったんだ。そしたら、姉貴のやつますますふくれっ面になりやがった。一体何なんだこいつは・・・。
「いや、マジでなんなんだよ?俺と他人のふりをするし、態度は素っ気ないしでわけわかんねーよ・・」
そう言ってもむすっとした顔をしたままソッポを向く姉貴。
俺と里奈は2歳違いなんだが、里奈の奴は昔から結構な甘えん坊な性格で、そのくせお姉さん風を吹かせたがる奴だった。
だから、俺はずっと姉と接するというより、妹と接するような気分だったのを覚えてる。油断すると、すぐ俺の布団に潜り込んでこようとしやがってたからな。まあ、そんくらい甘えん坊な奴だった。
そういう理由からかどうかはわからんけど、俺は同い年の奴と比べてもかなり我慢強い性格だと自負しているし、周りからもそう言われることが多いと思う。
だが、今現在のこの状況には、ちょっとばかり我慢の限界にきているかもしれん。
だって、今日こんな場所でさ、しかも姉弟で同じゲームのオフ会に来てるんだぜ?びっくりはするだろうけど、姉弟であることを隠すとかするか普通。そして今この態度だよ。俺だっていい加減頭に来るに決まってる。
「あーもういい!」
気付くとそんな言葉を里奈に言っていた。
あり得ないだろ?まあ、ネトゲで弟と知らずにイチャイチャしちゃってたのは、まあ俺だって恥ずかしいのもあるし、ショックだったのもわかる。
ただ、たぶんここ半年くらいの、姉貴の俺に対する素っ気ない態度にたいする苛立ちとかも俺の中にはあったんだと思う。
「団長、そろそろ帰宅しないといけない時間なんで」
俺は席から立ち上がって団長にそう告げていた。もうこのわけのわからん不機嫌さに付き合ってなんかいられるか。
「あ、真司、ねえ、あの、ちょっと待って・・・」
里奈のやつ、慌てて俺を引き留めようとしていたが全部無視してやった。だってそうだろ?どんな理由かわからんけど、自分で勝手に機嫌悪くなってさ。
「ありゃ?そっか、残念だなあ。まあでも、また機会を作ってオフ会すればいいし、個人的に会うのもOKだよ~」
と、ニヤニヤしながら団長が俺に語りかけてくる。さすがに「無いです」とか言って、周りを凍らせるような事はしなかったよ。誤魔化すように苦笑いだけしといた。
「そっかー、ダーク君帰っちゃうのか~残念。色々お話したかったなあ」
千隼さん(桐菜さん)が俺に話しかけてきた。俺もエリナさんが千隼さんだったらどんなに良かったことか・・・。
「ははっ、俺もです」
そう千隼さんに答えてから俺は席から動こうとした。
が、後ろから何かに引っ張られて、俺は後ろ向きに倒れそうになった。何だよ一体と思い後ろを向くと、里奈の奴が俺の服の裾を引っ張っていた。
すんげえ泣きそうな顔で。
ええええええええええええ!?
なんだよ今度は・・・・・。なんで泣きそうな顔になってんの?情緒不安定すぎるだろ今日の姉貴は・・・・。
人生の経験値が、ゲーム中レベルよりも圧倒的に足りない俺は、姉貴がなんで泣きそうになってるかなんてわかるはずも無かった。
そもそも、もうちょっと俺も冷静だったら、俺が里奈に「このゲームやってたんだ?」って聞いた時のあいつの返事「はあ?それ本気でいってるの?」って答えの不自然さとかに気付いたはずなんだよ。
だってあいつがあんな発言したって事はさ、「俺がわかってて当然」の事をわかっていなかった事に怒ってた、って事だからな。
ただ、この時の俺はそんな余裕なかったので、その辺にも気付かずにキレて帰ろうとしてたわけなんだが、里奈の泣きそうな顔を見てちょっとだけ冷静になった俺は、さっきの帰るコールをキャンセルすることにした。
「あー団長。やっぱもうちょっと残ります」
「あれ?そうなの?こっちはいいけど時間大丈夫なの?」
「はい、時間1時間間違えてました」
「OKOK!みんな、まだしばらくは「黒を制する者」がご一緒してくださるそうだよ!」
ぶっ!このタイミングでそれを言うかこの人は!ふーっと溜息をつきながら俺は席に座り直した。
ちらっと里奈を見る。まだ半分泣きそうな顔で、俺の方をきょとんとした顔で見ていた。
まあ、あれだよ。泣きそうな顔見て情にほだされたとかじゃないんだよ?良い機会だから色々話したほうが良いと思ったんだ。だって、オフ会終わっても家で顔合わすんだぜ?こんなギクシャクした感じはお互い嫌だろ。冷静に考えた結果だよ。
なので俺は、里奈の方へ向き直って話しかけようとした。
「あー!ダーク君がエリナちゃんにエッチな事しようとしてるー」
「そうそう、俺はエリナにえっちなことを・・って違うわあああああああ!」
「えー違うのー?」
「断じて違いますぅ!」
またしても明海さんの横槍で話が脱線しそうになる。誰かあの人が余計なこと言わないよう、おやつでもやっといてくれよ・・・。
そして里奈の奴ははなんで顔真っ赤にしてるんだ・・・。
「なあ、姉貴」
「・・・何よ」
「あのさ、なんでそんなに怒ってるのか教えてくんない?別にわざとやってるとかじゃなくて、本気でわかんないんだよ」
俺は自分が思ってることを素直に話すことにした。色々取り繕っても仕方ないしな。
「だからさ、教えてくんないか?頼む!」
俺は両手を顔の前で合わせて、姉貴にお願いをした。
続きは、5月6日~8日の夕方に掲載予定です。