CASE2 オフ会会場inカラオケ屋
オフ会会場であるカラオケハウスに着くと、すでに団長が店の前でみんなを待っていた。
「やあ、ダーク君」
それなりに人通りがある昼間の繁華街で、普通にゲーム内の名前で俺を呼ぶ団長。いやマジ恥ずかしいんですけど!
「ちょっと桐原さん、こんな往来でその名前呼ぶのやめてくださいよ!」
「あー、ごめんごめん黒部くん」
ニコニコ笑いながら俺に謝ってくる。団長こと桐原礼二さんとは、とあるネットカフェで知り合ったのが縁で、実は面識があった。
俺はその時、ネカフェのオープン席で漫画を読みながら友達と待ち合わせをしていたんだけど、ちょうどその時そこでゲームをプレイしていたのが団長だった。
団長は奥さんの明海さんと一緒にゲームをやっていて、時々楽しそうな声が聞こえてきてたんで、「リア充爆発しろー!」とか本気で念じていたんだけど、ふと彼らが使ってるPCのモニター見たら、なんかゲームやってたんだよな。
で、時々チラ見してたら「興味あるの?」って団長から声かけられたのが知りあったきっかけだった。なので団長とは、ゲームでじゃなくリアルで知り合ったんだよ。
団長が遊んでたゲーム【ザ・ブラックアース】は、3Dグラフィックスを使用したゲームで、俺のPCではとてもとは言わないけど、快適に遊ぶには性能が足りてない事が判明した。
なので、PCに詳しいという団長に詳細なスペックを教えてもらい、後日親と一緒にPCショップへ買いに行ったんだ。
親には「これからは、コンピューターグラフィックやCAD(コンピュータを使った設計技術ね)を覚えておくのは将来においてうんたらかんたら・・」などともっともらしい理由をつけたら、あっさり許可が出た。
まあ、PC代金を、こつこつと貯めてきたお年玉とお小遣い貯金を崩して自腹で出すつったのも大きかったかも・・。小学校の時からコツコツ貯めてた貯金がほぼ無くなった時は、一瞬後悔したりもしたが、今となっては買ってよかったなあと思っている。
「じゃあ、あと一人来たら全員揃うね」
うをっ、もうほぼ全員きてるのか!?早いなあ。
俺も早く来たほうだと思ったんだけどな。
いやでも気持わかるよ。俺だって今日楽しみで仕方なかったもん。
俺がエリナ師匠と会えるの楽しみだったように、みんなそれぞれ楽しみにしてる事があるんだろう。
「じゃあとりあえず中入っててよ。」
「了解っす」
そう促されて、俺は店の中の結構広めの部屋へと店員に案内された。
ガチャっとドアが開くと、部屋の中の視線が全て自分に向くのがわかる。
うわ、どうしよ、めっちゃ緊張してきた!なんか言わなきゃ!と、あたふたしていると、
「やっほー!君もブラックアースのオフ会に来たんだよね?」
と、明るくお姉さんが話しかけてくれた。
「あ、はい。えっと、自己紹介とかまだしないんですよね?」
「そうなの~。ちょっとどきどきするよねー」
などと屈託なく笑う。やべえこの人めっちゃ美人な上にすげえ話しやすい。
この人がエリナ師匠とかだったら、めっちゃ嬉しいかも!
しっかし、なんだなあ。やっぱりこのギルド、女性比率が高いんだなと改めて思う。
今日来てる半分は女の人だよ。
大体どこのギルドも圧倒的に男が多いらしいんだけど、うちはギルド員の半分近くが女の人だった気がする。
他ギルドの友人が、いっつも「お前のとこいいよな~」って愚痴ってくるくらいだしな。
そんな事を考えてると、団長の奥さん、アッキーさんこと桐原明海さんと目が合った。
ニコニコと笑いながら手を降ってくる。
「あ、こんにちはー!ダークk・・・あ、名前言っちゃいけなかったんだった」
てへっと、軽く拳をにぎって自分の頭をこつんとする。
その瞬間、わーっと盛り上がる室内。
「君、もしかしてダーク君なの?」
「え?お前ダークかよwww」
「ダーク君、開始前に名前バレとかさすがだね!」
などと、完全にキャラ名がばれてしまった。
「ちょっと明海さん!何やってくれちゃってんですかあああ!」
「ごめんごめん、ついいつもの感じで言っちゃった。てへっ♪」
テヘッ♪じゃねええええ!
俺だって今日この日の為にいろんな挨拶を考えてきたんだよ?
抱腹絶倒爆笑間違いなしの挨拶から、エリナ師匠へ向けた挨拶などなどをね!
それがこの一瞬で全部おじゃんだよ!
ごめんねーと謝りつつも、ニコニコしてる明海さん。
まーでも、この人のやることだから許せちゃうっつーか、なんかこうやることなすことイチイチ可愛らしいんだよなアッキーさん。団長がマジでうらやましいぜ。
と、俺が情けない顔でアッキーさんに抗議していると、アッキーさんの後ろ側にいる女の子と目があった。
黒を基調としたワンピース風の服に白のショートパンツ、そして黒と白のシマシマのニーソ。ショートカットの小さめな顔にぱっちりした目。
あれだ。俗に言う美少女だ。
へたしたらゴスロリになりそうな服だが、それを違和感なく着こなしている。
あ、ぷいっとそっぽ向きやがった。無愛想な奴。
あんな可愛いのになんかもったいないな・・。
「お、なんか盛り上がってるねえ。」
ガチャっとドアが開いて団長が入ってくる。
「団長~~、明海さんがいきなり俺のキャラバラしちゃいましたよ!」
「ありゃ?そうなの?でもまあ、ダーク君だし仕方ないよ。ね?」
「仕方なくねーし!なんすかその横暴な理論はっ!」
そのやりとりで再びカラオケ屋の一角が爆笑の渦に巻き込まれる。
全く不本意だぜ・・・。
大体この中にエリナさんが居るかもしれないんだぜ?
できればかっこ良く決めたいと思うのが、男心というものだろう。
「あーそれはそうと、最後の一人が揃ったから、そろそろオフ会始めるよ。場も良い感じに温まったことだしw」
そういうと、外に向かってここだよ~と誰かに手招きする団長。 たぶん最後に来た人をここに呼んでるんだろう。
「失礼しまーす。こんにちは、はじめまs.。。。。。。」
「ぶっうぉっへごっほごっほごっほ!」
そう言って入ってきた女の顔を見た俺は一瞬絶句した後、めっちゃ派手に咳き込んでしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
さっきの美人できさくなお姉さんが背中をさすってくれる。
普段だったら美人のお姉さんに介抱されてる状況に「うひょおおおおお」とかなってるとこだが、今はそんな余裕はない。
ふと見ると、最後に入ってきた彼女も顔面蒼白になって、信じられないものを見るような目でこちらを凝視している。
な、なんで姉貴がここにいるんだあああああああああああああああああああああああああああああああああ!