CASE23 俺と後輩と屋上で
まるで、漫画やアニメに出てくるようなチャイムが学校全体に響き渡る。昼休みを告げる合図だ。
俺はいつもの様に、家から持参した弁当を持って屋上へと歩いていた。この学校では、屋上での飲食が許可されていて、昼休みになると俺のような大勢の学生が屋上へと押し寄せる。
俺の教室は屋上からそれほど離れていないため、結構良い席をゲットできた。そして、しばらくぼけっとしていると、屋上からは一番離れているであろう教室からやってきた小柄な少女が隣の席にストンと座る。
俺と、今やってきて隣りに座った小柄な少女「古名燈色」は、昼休みになるとこうやって一緒に昼食を摂っている。実は緋色から、剣士や武術家の戦闘での立ち回りについて教えてほしいと頼まれたんだ。
緋色自身、最近では奇術師としてのスキルはかなり上達しているんだけど、剣士や武術家のような前衛を任されるクラスを経験したことが無いらしく、今ひとつ、前衛の心理がわからないらしい。
で、前衛クラスでプレイしている俺に戦闘中考えてることとか、どういうタイミングで魔法が欲しいかとかを聞きに来てるってわけだ。
こいつ前も思ったんだけど、基本真面目なんだよな。
「そういうわけで、中ボス戦では、基本的に前衛の奴には常時補助魔法をかけるつもりでいたほうがいいかもな。」
「そうすると、MPの管理が凄く重要?」
「だな。」
「やっぱり、奇術師セット、早めに揃えたほうがいい?」
「いや、とりあえずは、MP回復補助のあるマジックリングだけで十分だろ。」
傍目からすると、先輩と後輩で付き合ってるカッポウが、昼休みに屋上で一緒に御飯食べながらイチャラブな会話をしているように見えるかもしれんが、その実、オンラインゲームでの戦闘の立ち回りと装備について熱く語っているという、色気もクソも無い状態だ。
「まあ、装備に関しては姉貴に聞くか千隼さんに聞いたほうがいいかもな。奇術師と僧侶では共通する装備も多いし」
「らじゃ」
「装備が充実すれば、狩中にMP回復の休憩を取らなきゃいけない回数も減ってくるしな」
俺は休憩という言葉で、昨日の深淵の森での休息中での出来事を思い出していた。千隼さんがグラマンの事を「グラン」とか呼んでたやつね。
「そういえばさ、昨日のグラマンと千隼さん、なんか変じゃなかったか?」
「ああ、なんかグラマンさんの事をグランとか親しげに呼んでた」
「あ、やっぱ親しげな風に見えた?」
「うん」
だよなあ。どーう考えても、何かこう、大人の事情みたいなものが垣間見えた一瞬だった。
あの二人間違いなく知り合いなんだろう。俺らとグラマンみたいな関係ではなく、もっと親しいという意味でね。
あと、二人のやり取りの仕方も気になってるんだよ。
あの時千隼さんが、シャイニングナイトギルドのギルドハントの調子はどう?って聞いた時、グラマンは自分にはわからないって答えたんだよ。で、千隼さんは「そう」とだけ答えてた。
自分のギルドのギルドハントの事も「わかりかねる」って答えたグラマンも変だけど、グラマンが「そう答える」って判ってて、千隼さんが質問した風に見えるんだよな。
まあ、今ココでそんな事考えても、なにかわかるわけでも無いので、俺達はすぐにまた、元の立ち回り論議に戻ったのだった。
学校も終わり俺はさっさと家に帰っていた。今日は宿題の量がかなり多かったんだ。なので、少しでも早く宿題を終わらせて、ブラックアースにログインしたい。
そう考えつつ玄関を開けると、里奈の奴が仁王立ちで俺を出迎えてくれた。
いやあ、そりゃもう立派な仁王立ちだったね。腕組みをし背筋を伸ばして、「あ、仁王立ちだ」と再認識させるくらいのどこに出しても恥ずかしくない仁王立ちだった。
「ただいま・・・・・?」
俺はただいまの挨拶を、焦りのあまり疑問形で発してしまった。だってめっちゃこええぞこれ。
里奈は、俺の挨拶には返事などせず、顎をリビングの方に「くいっ」と向けて、そっちに来いと俺に促す。
(なんで?なんであいつなんか怒ってるの?俺なんかしたか?)
俺は完全に姉貴の怒りの雰囲気に飲み込まれて涙目になってたと思う。いや、あんなの怖いに決まってるだろう!
「利公から聞いたんだけど」
リビングに入るや否や、開口一番「火雷利公」の名前を出してきた。
火雷利公は俺の中学からの友人で、高校でも同じクラスになっている。
この前は利公のせいで、中庭で緋色と話している所をクラス全員に目撃され、後で釈明会見を開くはめになってしまったのは記憶に新しい所だ。
あいつの家は近所なので、姉貴とも顔見知りだった。けど、今でも交流あったのか?知らなかったわ。
「あんた最近、お昼休みに年下の可愛い女子と一緒にお昼ご飯してるらしいわね!」
「・・・・は?」
「は?じゃないわよ!なんか、ショートカットの目がぱっちりした、小柄な女の子と一緒だって利公が言ってたわよ!」
あーはいはい、そういうことね。利公の奴、俺が毎日緋色と飯食ってるのを知ってるんだよな。
あいつ、俺が燈色と飯食ってるの見て「俺も混ぜろ」とか言ってきたんだよ。だけど燈色の奴、結構人見知りだし、利公のようなグイグイ来る奴は苦手だろうと思って、まあそのうちなって誤魔化したんだよ。
で、混ぜてくれない悔しさが大爆発したあいつは、弟大好きな里奈にちくってやろうと画策したわけだ。
しかし残念だったな利公よ!今の姉貴は昔の姉貴と違って、断じてシスコンではない!
あれ?じゃあなんで里奈の奴怒ってるの?いや、とりあえず今はこの場をなんとかすることが最重要課題だろう。
「あー、里奈さん里奈さん。」
「なによ?」
「あなたのお知り合いに、ショートカットで目がぱっちりした小柄な女の子はいませんか?」
「いないわ」
即答かよ!
いや、つい最近会っただろうが!今考えると、かなり恥ずかしい青春ドラマを俺の部屋で本気でやってたじゃん!お前の頭は鳥頭か!
でも今のこいつにそう言うのは怖いので、ゆっくり丁寧に説明する。
「あのさ、最近よく一緒に狩りに行く子いるでしょ?あなたが色々教えていらっしゃるあの子が」
「燈色?」
「そう!」
「なんで燈色がでてくるのよ?」
ああああああああああああもおおおおおお!察し悪いなこいつ!もうゆっくり丁寧は面倒なので、いきなりアンサーをぶつけてやることにする。
「だから!最近昼休みは燈色と一緒に飯食ってるんだよ!ブラックアースの立ち回り方とか話しながら!」
ここまで言って、やっと里奈の奴「ああっ!」とぽんと手を叩いて判った仕草をみせた。
「それならそうと早く言いなさいよ。察しが悪いわね」
おまっ!
ま、まあいいや。なんかこれ以上突っ込んでも疲れそうだ・・・。なので、俺は話を切り替えることにした。
「でまあ、今日も昨日のグラマンと千隼さん変だったよな~とか話してたんだよ」
「あー、そういえば、なんか千隼さんとグラマン、前から知ってるような感じだったわね」
「やっぱ姉貴もそう思う?」
「なんかこう、男と女の匂いがする感じじゃない!?」
駄目だこいつ。なんか別の方向へ思考が向かってる。