CASE17 悪かったな
「ねえ、今から何が始まるのかな?」
「あの人2年生よね?あのショートカットの子に告白?」
「えーやだー!」
「えーでも、中庭に入ってくるなりあの子に声をかけてたっぽいよ?」
そして視線は、中庭で一人静かに食事をしていた古名燈色に注がれる。
せっかく目立たないように食事してたのに、俺のせいで全部台無しになってしまっている。
あー、燈色の奴、見てるこっちが気の毒に思うくらい完全にカチコチになっている。
「こ、ここここここんにちは!」
お前誰だよ?って思わず言っちゃいそうなほど、あいつの声は緊張してた。
そもそもちゃんと見りゃ、かなりの美形なのも、注目を集めやすい一因になってるかもな。
「と言うか、お前ここの生徒だったんだな。知らなかったよ」
燈色は「こくん」と頷く。
いやそりゃ、中庭にこいつが座ってるのを見た時はびっくりしたよ。
だって、ずーっと連絡を取りたかった相手が、実は同じ高校の後輩の1年生でしたとか、俺の今までの悩みはなんだったんだ。
まあ、今ここでそんな事を言っても仕方ない。なので、俺は簡潔に用件を言うことにした。
「あー、実はこの前の件なんだけどさ」
俺がそう言うと、さっきまでとは違う緊張が燈色に走ったのが表情からもわかった。
ここ大事だぞ俺。間違うなよー。
「悪かったな、なんかあんな事になっちゃって」
俺がそう言うと、燈色は「え?」というような意外そうな顔をする。
今の対応、やっぱこいつ、俺が怒ってると思ってたんだろう。
正直な所、あれは事故みたいなもんだし、仕方ないかなと俺は思ってる。姉貴もパニクってたし。
「ちょっとさ、今日の放課後でも話し出来ないか?お互い・・つーか、むしろ俺がこのまま終わるのがなんか嫌っていうかさ。」
これは俺の正直な気持ちだ。
ホントの事言うとさ、俺と姉貴と、この色々と微妙な美少女「古名燈色」とのゲームは、結構楽しかったんだよ。
それはなんでかって言うと、燈色がなんで俺たちを脅すようなことしてたかって所に理由があると思ってる。
「私を狩りに一緒に連れて行って下さい」は目的であって理由ではなかったんだ。
なので、そこんとこをちゃんと燈色と話したかったんだ。
「どう・・かな?」
俺はなるべく燈色に圧力を感じさせないように務めた。
一緒に行動するようになってわかったが、この子は結構プレッシャーに弱いんだよ。
まあ、その甲斐あってか、燈色は「こくり」と頷いてくれた。
「じゃあ、放課後に玄関先で待ち合わせでいいか?」
再び「こくり」と頷く燈色。
良かったああああああああああああ!これで拒否られたらどうしようかと思ったぜ。
こいつとの事をちゃんと解決しなきゃ、姉貴も俺もなんかもやもやしちゃって、ゲームなんか楽しむどころじゃないからな。
話が一段落つくと、燈色は「じゃ」と言って。そそくさとその場から立ち去っていった。
そそくさっつーか、顔を真っ赤にしながら全速力で走っていったな、うん。
そして、燈色との会話を終えてほっと一息ついた瞬間、自分がどういう状況にいたかを急速に思い出した。
「ねえ、あれって絶対別れ話を撤回しないか?ってことだよね?」
「あの子かなり可愛いのに、なんであんな冴えない男子を彼氏に選んだんだろ?」
「まあ、元々つり合わないんだから別れて正解な気がするよねー」
そういえば、中庭で、大勢の女子に囲まれて会話してたんだったよ!
そして俺は、燈色に別れ話を持ちだされて、それをなんとか繋ぎとめようとしている先輩って設定が、彼女達の中に出来上がってるらしい。
てか、冴えない男子ってなんだよ冴えないって・・・。まあ、冴えないけどな。
そしてふと、自分のクラスがある教室を見上げると、クラスに残って昼食を取っていたほぼ全員が、教室から俺のことを覗いていた。
たぶんさっきのやり取り全部見られてたんだろう。
これ、クラスの奴らになんて言い訳すればいいの俺。