85
カジロウの7人の子供達は思い思いにテーブルの上のフルーツを食べている。
「ぱぱぁ!まんまぁ!」
一番下のポラにはまだブドウの皮を剥いたりはできない為、皮をむいたブドウを膝に乗るポラの口に運び、再び皮をむく。
「お父さん!剥くの上手!ジェスにも!ジェスにも」
「サテラも食べたいなぁ〜?」
他の子供達に見つかってしまった……
カジロウは急いで皮を剥いては皿の上に落とすが、子供達は我先に手を伸ばしては食べてしまうので追いつかない。
ポラは口の中が空になるとブドウをまた催促する。
普段は皮を剥く面倒が嫌で食べないが子供達の為なら何となく剥いてしまうが……
剥くのが追いつかない
「バナナでも食べないか?」
カジロウは皿の上にバナナを一房置いたが子供達は皿の外にすぐに避けた。
「やだぁ!ブドウ!ブドウ!剥いて!」
子供達は俺に皮を剥かせるのが目的らしい。
ゼスタに視線を送るが酒瓶片手にグビッとやりこちらをボーっと見ているだけだった。
本当に空気を読まない野郎だよ!お前は!
「骸王様、私がやりましょう」
「私も手伝います」
ドリーもパエリも指を紫色にしていたが、それでも間に合わない……当然だ、ブドウなんかいくら食べてもお腹一杯には……
……肉や魚も食べさせるべきだ……健康バランスを崩しかねないからな!
「ドリー、子供達はザンガン達を待てそうに無い……何か腹に溜まるものが欲しい」
「かしこまりました」
ドリーは机の上に置かれているオーブに手を置いた。
「ジャンスネークの切身をお願いします」
「ほぅ……楽しみだな」
椅子の上で丸くなっていたマタタンが顔を上げて口周りをペロリと舐めた。
ドリーが呟き、しばらくするとと闘技所の司会者がマイクに口を当てる。
『皆々様方!ご注目ください!今2568番席様から!ご注文が入りましたぁ!ジャンスネークです!』
『おぉ〜!』
他の席から歓声が上がっている。
……なんで注文に歓声なんだ?
照明が突然落ちて辺りは暗闇になった。
「えぇ〜?何もみえないよ!」
子供達は不安でざわついていた。
『さて……注文されますはジャンスネーク、
その蛇の毒はあらゆる物質を溶かし、
密林で出会ったなら命はありません、
ある部族では神の使いと崇められ、
またある部族では悪魔と言われ恐れられています』
カジロウの骨達が闘技場の一角……閉じられた柵の向こうで蠢き始めた生き物を確認した。
その対角線上にある柵の向こうにも何かが居る。
ああ……そういう事か……闘技場のだものな
『しかし!その恐ろしい蛇の肉は美味で知られます!
この個体を捕獲した時も討伐者が何人も……
捕獲時に出来た傷口の匂いに誘われ……
毒が含まれると知りつつも理性を失い食しましたが、
やはり血や肉に含まれる毒で死んで行きました!その為、ジャンスネークの肉は天使の肉とも呼ばれております!』
おいおい……マジか……
『ご不安なことでしょう?……
ご安心ください!
当店のお客様に死者は出しません!
当店自慢の職人が、養老の滝から汲み取った酒で調理し、毒抜きをしてから食して頂きます』
「養老の滝……」
酒ゴリラが呟いている。
『グルルルル!』
……近くで犬の様な声が聞こえた
「なんだ?」
「恐らく……隣の席にいた犬の様な奴だ……彼も鼻が良いのだろう……我輩も仄かに漂う匂いに高ぶる気持ちを抑えるのがやっとだ……」
マタタンの声も何処と無く落ち着きが無い感じだった。
『準備が整いました!それではご紹介致しましょう!ジャンスネークです!』
スポットライトが対角線上の柵2つに当てられ、一方の柵が音を立てて上がっていく。
静かになった場内に何かが這いずる音が響き渡る。
突然一体の大蛇が場内へ剥いだし、唸りながら上体を起こしていく。
その唸る頭の高さはみるみる持ち上がりカジロウのいる観客席を超えていく。
観客席と闘技場の間に薄い膜の様なものが貼られていった。
……なんだ?……
大蛇は突然頭を動かし、カジロウの観客席に飛び込んでこようとしたが、膜に弾かれて悲鳴をあげた。
「あわ!」
「きゃはははは!楽し〜い!」
子供達は無邪気に喜んでいるが、カジロウはついつい声を上げて驚いてしまった。
……不覚だ、子供達にカッコ悪いところを見せてしまったなぁ……
まだ空いていない柵にスポットライトが掛かる。
『今回紹介します料理人はスコッティ!』
料理人がスポットライト当たると歓声が上がった。
スコッティと言う赤鬼は両手に持った巨大な包丁を構え、ジャンスネークはその姿を確認して威嚇し始め、身体から粘液が染み始める。
余談ですが、幼児達の名前は上から
長女パエリ(16)
長男クエトロ(12)
次男サージェ(12)
三男タイラン(11)
四男ピエト(11)
五男ジェス(5)
次女サテラ(4)
六男ポラ(2)




