81
カジロウがマタタンの毛を摩りながら日光を浴びてうたた寝をしていた頃、
キョウトのある酒場からは天狗達が大合唱した歌が道に漏れていた。
「うぉ〜♫我らの指導者!鴉王様♫
アイ!ハイツ!ホー!
アイ!ハイツ!ホー!」
白い羽を持つ鴉王とその隣のゼスタを囲み、
天狗達は鼻を真っ赤にして全力で歌いながら
全力で給餌に声を荒げて催促する。
「おい!早くしろ!鴉王様達がお待ちだ!ついでにこっちのテーブルの酒も無いぞ!」
「はい!只今!」
給餌の鬼は酒場と倉庫を忙しく走り回り酒樽を運び、ゼスタと鴉王の前に樽を置く。
「ほっほっほ!店長……すまんのぉ、みんな酔ってるのでな…多少の無礼は大目に見ていただけると有り難い」
「何をおっしゃいます鴉王様、何時もひいきにしていただいているのです、感謝こそすれ不満などありません」
店長は鴉王がまだ少ししか酔っていないことを確認し、給餌の肩を叩き走らせる。
「うぉー♫酒樽の〜♫準備が出来た〜ら♫……」
「ほっほっほ!ゼスタさん……やめたい時はいつでも……」
「何言ってるんです?私はまだ飲み足りないですよ?」
「ほっほっほ!」
1人の天狗がハンマーを両手に持ち、気合を入れて大声を出しながら樽を叩き、鏡開する。
「アイ!ハイツ!ホー!」
ゼスタと鴉王は開かれると同時に樽を持ち上げグイグイと一気飲みする。
「うぉー!スゲーぜ!人間のネーチャン!鴉王様と同じペースで飲むたぁ!大したもんだ!」
その様子を天狗達は騒ぎながら見守っていた。
その様子を眺めていた店長に倉庫から戻ってきた給餌は泣きそうな顔で耳打ちをする。
「店長……店長!」
「いつ見ても……なんだ?」
「あと50樽しかありません!このペースだと数十分で酒が底を尽きそうですぅ!」
「何だと……」
「いつも通り、鴉王様達が飲む量の1.5倍は用意していたんです……ですが……」
「マズイぞ……それは……」
店長は冷や汗を垂らしながら、鴉王が酒が切らした前店長を八つ裂きにねじり切ったことを思い出す。
店長の背後のカウンターの上で座っていた天狗はそんな店長に語りかける。
「どうしたぁ?給餌よ……鴉王様の酒が切れているぞ?早く持っていけ!」
「はい!只今!」
給餌は再び樽を持ち、その天狗は店長に話しかける。
「どうした?店長……心配事か?」
この天狗は鴉王軍のナンバー2で店長は仲良くさせていただいている……今回の件、この方なら……
「カラショウ様……お話が……」
店長は必死にカラショウに酒が付きそうな事を説明をした。
カラショウは話を静かに聴き、そして口を開く。
「……なるほどな、準備は念入りにしていたのだから許して欲しいと……
その気持ちは分かる……が、過程は関係ない結果的にお前は酒を切らした……
私が鴉王様を説得する事は無い……運が悪かったと思え……この町全ての酒を集めておくべきだったな」
「そんなぁ〜」
「おじいちゃん!やりますねぇ〜!」
ゼスタは口の周りをグイグイ舐め拭きながら鴉王に呼びかけた。
「ほっほっほ!お嬢さんも中々……」
突然一匹の天狗が店内に入り、鴉王に呼びかけた。
「鴉王様!」
「なんだね?今は楽しんでいるところだが?……水を差す……それがどういう事になるか……分かるだろう?……」
天狗は唾を飲み込み、言葉を続けた。
「う……だ、大魔王様から召集の命を受けて……」
「ほっほっほ!なるほど!それは仕方が無いなぁ……ゼスタさん、すまんがこれで失礼するよ……また今度飲みましょう……今日はワシの奢りですじゃ……どうぞ飲んでいってください」
ゼスタはニコリと笑うと再び樽を抱えて飲んだ。
「……護衛はそうじゃな……カラショウのみで良いじゃろ……」
「はっ!」
店長は深く安堵した。
「それとの店長……今回は運が良かったが、次は切らす心配をするなよ?」
「も!申し訳ございませんでした!」
「ほっほっほ!」
鴉王はカラショウと共に飛び立ち、大魔王の城へと向かった。
「店長さーん!お酒くださいなー!」
「はっ……はい!」
「おおー!スゲーぜ!ゼスタさん!俺らも飲むゾォ!」
『アイ!ハイツ!ホー!』
鴉王は飛びながら副将に話しかけた。
「カラショウよ……何故、突然召集をかけたとみる?」
「恐らくは骸王の事……でしょうか?」
「まぁそうだろうのぉ……カラショウ……以後は気をつけなさい……」
「……何を?……クップッ!」
鴉王はカラショウの首を握り締めつける。
「お主は今、骸王に対し、敬称を忘れたな?……お主と骸王は今現在、位はどちらが上か?」
「グッゥッ……ムグロ…ゴウザマ…デヒュ……」
「相手は所詮人間という驕りが見えていたぞ、油断してたるむなよ?カラショウ……一兵卒なら笑って流すが、お前は副将なのじゃ!相手を見誤って仲間を危険にさらす事はあってはならん……常に敬意を払い、油断せずに驕るな……出来るか?」
「ばい!ッカハッ……はぁはぁ……申し訳ございませんでした……」
「さて……付いてくるんじゃ!」
「はい!」
鴉王が大魔王の部屋へ到着し、ヒメロウの案内で席へ着く。
既に他の席には他の王達が数人座っていた。
「よぅ鴉王、宴会中にすまなかったなぁ」
「いえ!大魔王様の召集とあればいつでも駆けつける所存でございます!」
「ふふふ……さて、察しが付いている者もいると思うが、召集したのは骸王の事だ……」
鴉王の向いに座る龍王が巨大な手でテーブルを叩く。
「大魔王様!その事だが!」
「龍王……お主の態度……許せんな……無礼」
「なんだ?ジジイ!やるかよ!」
龍王と鴉王は魔力を練りながら睨み合ったが、大魔王ディアボロに止められる。
「良いんだ鴉王よ……龍王も落ち着け」
「大魔王様!俺の話を聞いてくれ!
前回の会議で大魔王様は次の王を
第一功労者のドラゴシャに任命すると約束してくれたじゃないか!
それがよりによって弱い人間に!」
「確かに……龍王、お前の言う事も分かるが、骸王の勢力拡大は著しくてな……」
《ドゴッ》
龍王はテーブルを叩き、怒りをあらわにする。
「ディアブロ様……じゃあなんですか?うちのドラゴシャより人間が強いとでも……龍族より強いと?……」
鴉王が創り出した風の刃が龍王に殺到し、龍王は尻尾でその風をガードして怒鳴る。
「糞爺が!」
「お主!いい加減にしないと次は……」
「あらあら……やめなさいよぉ〜」
『全員黙れ』
ディブロに一喝され、部屋は静まり返る。
「龍王……俺の話を黙って聞け……良いな?…………よし、それじゃあ臨時会議を始めるぞ……今回の議題は骸王の試験についてだ、確かに次の王はドラゴシャを任命すると言い出したのは俺だ……そこで考えたのだ……ヒメロウ、例の物を配れ……」
ヒメロウは出席者達に紙を手渡した。
「……大魔王様……これは……」
「みんなそれがなんだかわかるな?……そうだ、次期の王として候補が上がったもの達のリストだ……この者達を3日後に骸王とぶつける……もちろんドラゴシャの名前もあるぞ?龍王……どうだ?」
「ふ……ふはは!ははははは!最高だぜ大魔王様!ただよぅ1つ心配だぜ!」
「なんだ?」
「ドラゴシャが殺る前に骸王が死んじまったらどうすんだよ?」
「ははは……お前らしいな……心配するな、骸王を殺した者を殺せば次期王だ!」
「かははは!分かりやすくて良いじゃねぇか!」
「それでは皆の者、リストの人物を必ず集めるように」
「はっ!」
他の王達が席を立った後、鴉王はディブロに話しかけた。
「大魔王様……良かったので?」
「何がだ?」
「骸王は自らが戦闘するのに向いて居ないのはロリポッパーとの戦闘報告で分かっているのでは?……死ぬような事があれば骨兵達を失う事になるやもしれないですぞ?……」
「確かにお前の心配も分かる……彼の骨兵達は戦力だ……
だが、考えてみろ?
世界征服の真っ只中、ここぞという時に彼が暗殺される様な事があれば、骨兵達を全て失うかもしれない……戦況が覆る事すらあるだろう……今回の戦闘を生き残るぐらいの力量が彼に無いと信用できん……リストにはカラショウも入っている……頼んだぞ?」
「了解ですじゃ」




