43
「よし、そろそろ行くか……」
カジロウは新聞を畳み、ゼスタを見た。
「え?……どこ行くんです?」
「ゼスタにしては感が悪いな……ふふふ」
「悪い事ですね?」
「いや?ちょっと悪い司教をぶっ殺すだけだ!異論はないだろ?何人も魔女裁判に掛けた極悪人だ!」
ゼスタは少し考えているようだった。
「……まぁ良いでしょう……私も悪人とはいえ人を殺しました……ですが、キチンと聖スケルトンの教えに従って、悪人しか殺しませんからね?」
「あ?もういいだろ?邪魔なのはみんな殺して骨にしてやるんだよ!」
あんな適当に作ったルール関係ないね。
「私は聖人ですよ?」
こいつ……また邪魔するつもりだよ……
もういいや、狂信はパァになるけど、ウザすぎる!
「関係ないね……邪魔だから死ね!」
カジロウの隊長と2小隊がゼスタに襲いかかった。
「ふぅ……攻撃は得意なんですよ?【光爆弾】」
ゼスタから光の波動が三回発生し、
一回目の衝撃で骨兵が崩れ、
二回目の衝撃で小隊長が崩れ、
三回目の衝撃で隊長の全身にヒビが入る。
隊長とゼスタのグルカナイフが交差し、脆くなっていた隊長の腕が耐えきれずに崩れ落ちる。
う……嘘だろ!なんだよそれ!
ゼスタは走り、隊長の横を抜け、逃げるカジロウの横腹を拳で打つ。
「か……あひゅっ……はひゅ……」
カジロウは息が止まり、空気が吸えなかった。
あふぅ……苦しい!
「どうします?聖スケルトンの名の下に、清く正しくしますか?」
ゼスタは隊長の腰を殴り、行動不能にした。
この野郎……裏技持ってやがった!……息が、苦しい!……あと何発打てるんだ?今のは……
「ゴボッ!」
カジロウは血を吐いて倒れた。
他の部屋に居たスケルトン達は危機を察知してカジロウのいる鍵のかかったドアを叩き割って開けようとするが、何重にもした鋼鉄製……カジロウの指示で隊長の力でもビクともしない設計にしていた。
「確かに……命を救っていただきました……子供達の事も感謝しています……
私は貴方の宗教の教えと実力に感動しましたし……
あの教え通りなら皆が豊かになれるでしょう……
私は聖スケルトンの為、これからの人生を捧げる事を誓いました……
しかし、カジロウさんは暴走する傾向にありますよね?」
「くそぉおおおおお!」
悔しい……俺は……こんな馬鹿みたいな善人にやられるなんて……
善人なんて!みんな心無いやつに喰い物にされるだけだ!
「カジロウさん……何に怒ってるんですか?……
貴方の目には偶に憤怒の光が宿ってますよ?……
何故必死に怒りにしがみつこうとするのですか?
子供達を見る眼はあんなに優しいのに……何故です?」
そんな事……
『今日は本当に楽しかったよぉ〜』
くそっ!また思い出した!俺の頭から離れねぇんだよ!あの光景が!全てぶっ壊して〜!
「うるせぇ!」
カジロウは殴り掛かったが、簡単にゼスタは掌で受け止め、捻りあげる。
「はぁ……カジロウさん、自分で気が付かないですか?……熱くなった時のカジロウさんはハッキリ言って弱いです……行動が直線的ですから……普段なら自分で殴りかかるなんてしないでしょう?」
「痛っ!」
ああ……それは少し納得……
ゼスタはカジロウの手を引き寄せ、抱き締めた。
ゼスタに持ち上げられ、カジロウは地面から浮いた。
うっぜーな!そんなんじゃ俺の心は晴れねーんだよ!
カジロウは暴れるがゼスタのホールドは強烈にカジロウの腰を掴み、全然離れない。
カジロウは力一杯ゼスタの顔を手で押した。
「離れろぉ!俺に触んじゃねぇ〜!」
ゼスタは表情変えず、カジロウに語りかけた。
「わかりました……じゃあこうしましょう……私がカジロウさんのリミッターになります……善人を殺したくなったら私を殺してからにしてください……」
「ああ……わかったよ……」
カジロウは降ろされ、シュンと床に膝をついて力なく俯いた。
ヒヒヒヒヒヒ!隊長でヒビなら、将軍ならブッ殺せる……
いや?オーバーヒートしたら防御力も上がるのか?……
聖職者隊長に魔力注入して、今度、早速試そう!
目の上のタンコブはすぐ治療してやる!
「また……直ぐに殺そうと考えてるんですね……まぁ私も日々訓練しますから……簡単にはやられませんよ?……」
「今の技……聖職者なら使えるの?」
「……多分波動一回ならBランク程度の聖職者ならみんな使えるでしょうね、最高位の聖職者は十回は行けると聞いた事がありますね」
「そうか、十回……司教は……?」
くっそー……反則だろ!俺の能力を殺すためにあるような技だな!
将軍は何回耐えれるんだ?
「彼の方は魔法は使えませんよ?商売が上手い方ですから……使えたら教会も冒険者と共に守ったでしょう?」
「そうか……良かった……」
……ん?……こんな事してる場合じゃねえ!
「おい!ゼスタ!早く出掛けるぞ!馬車に乗れ!」
「司教……ですか?」
「ああ!馬車で追い掛けて殺すぞ!」
カジロウと5隊長と25小隊、ゼスタは馬車に乗り、司教達の馬車を追いかけた。
司教達の馬車は意外とのんびり走っていた為、直ぐに追いつく事ができた。
遠くに見える馬車が止まり、冒険者らしき者達が馬車の周りに展開した。
『カジロウ様……数は5……です……1人は馬車の下に張り付いて隠れています』
「ゼスタ……冒険者は5だ!他は周り、1は馬車の下に……」
またBランクか?……
「殺すつもりですか?」
「当然だろ……悪人に加担した者は同罪だ!」
「説得してからにしますよ?」
「勝手にしろ!」
……説得されるなよ?冒険者共!
替玉作戦描写は……次回……嘘ついてすみません




