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もうそろそろ良い頃か……
「良し!戻れ!」
カジロウは人形に命令し、人形達は衛兵の手をすり抜け、内ポケットに戻る。
「貴様ぁ〜!最初からそれをやれば!」
衛兵は腕を回しながら近づいて来る。
「衛兵!」
「はい!」
衛兵は城内から出て来た兵士に呼ばれて、ビチッと背筋を伸ばした。
「衛兵!この者は何をしたんだ!」
「はっ!この者が怪しい人形を城内に放った為、人形の捕獲を試みてました!」
「……そうか、回収は済んだのか?」
「はい!」
「良し!そこの者を魔道拘束具で拘束し、連れて参れ!」
カジロウは後手に手錠をガシャッと掛けられた。
魔導拘束具……だと!やばいんじゃないか?
魔法を拘束されるのか?……だとしたら……
カジロウは冷や汗をかきながら、人形を動かした。
人形が服の内側で動いているのがわかる……良かった……
「そこの者!名前は何という!」
「カジロウです」
「良し、カジロウ!国王様がお呼びだ!来るんだ!」
カジロウは兵士に背後から押されて、王座の間まで案内された。
いてて……この拘束具重いな……
王座に王が座り、横には鳥籠が吊るされ、大臣が立っている。
カジロウは王の正面に座らされ、頭を伏した。
王は兵士に耳打ちされて頷く。
「うむ……カジロウだったか……お前の噂は私の耳にまで届いておるぞ……よし、拘束を解いてやれ……」
「国王様!」
大臣が異議を唱えるが、国王は大臣を制す。
カジロウは拘束具を外されても顔を上げなかった。
「ありがとうございます」
王はその様子を確認している。
ふふふ……隊長の目から見えているぞ?
……しかし俺の事を多少知っているのは有難いな……
カジロウは部屋の様子を骨隊長に籠から確認させていた。
「ふむ、カジロウよ……何故、今回このような人形を城に放った……」
「はい……冒険者ギルドに制限を受けてしまった為、この度、布教と埋葬業を始める事になりました……その挨拶として王様に私の人形を献上したく参りましたが……衛兵に止められてしまって……せめて人形でもと……」
「ふむ?……布教は自由なのに、なぜ人形を送ろうとしたのだ?」
「はい……布教は私の故郷で信仰のある宗教です、その教えでは布教する土地の頂点の位を持つお方に人形を献上するしきたりでしたので……」
国王は髭を触る。
「そうか……確かに素晴らしい人形で子供達も気に入っていた、しかし故郷ではどうだったかはわからんが、突然訪ねるのは無礼だな……まぁ異国の者で、今回は子供達も喜んだようだし……不問とするか?……どう思う?大臣?」
「そうですね……カジロウの名は民衆の人気もそれなりに獲得している様子……それで良いと考えます……が、カジロウ……2度とするでないぞ?」
カジロウは更に深く頭を下げた。
「はい!」
国王は髭を再び触って話し始めた。
「それと……制限を受けた、と言っておったが、何故だ?」
よし、食いついたぞ!
「はい……聖職者とパーティを組んで、150のダンジョン攻略を5日で達成したら……攻略が早過ぎると……」
カジロウが伝えると王座の間はざわついた。
「何だと……嘘だろ?……」
王はやや身を乗り出してカジロウを見た。
「本当か?カジロウよ……」
「冒険者ギルドに確認して頂ければすぐにわかると思いますし……許可を頂ければ、ここで簡単な剣舞を披露致しますが?」
「良し!見せてみろ!」
カジロウは顔を上げて手を広げ、
内ポケットから22の人形に剣舞を踊らせた。
王座の間はその一糸乱れぬ激しい踊りに酔いしれている。
「こ……これは……」
国王は肘掛けを掴みながら固唾を飲んでそれを見ている。
よし……心は掴んだ様だな……
一通り見せ終わると人形達はカジロウの懐へと帰って行った。
王は深く息を吐き、椅子に深々と座って力を抜いて何かを考えているようだっだ。
「そうか……確かに……」
王は再び身を乗り出した。
「……して、この人形は安全か?」
うーん……軽く警戒されちゃったかな、今日は大人しく帰るとするか……
「安全です……王族の命令に従うように魔法を込めましたから…………しかし、心配なようですので、持ち帰ります……国王様……帰還の命令を人形にしてください……」
王はカジロウを観察してジッと押し黙った。
な……なんだ?……何を黙ってんだよ……
「いや……心配……と言うほどでも無いのだ……ロビンス、今の剣舞を見てどう思う?」
カジロウの背後に控えていた兵士が口を開いた。
こいつが……ロビンスか……
「はい!確かに演舞としては一糸乱れぬ素晴らしい動きでした、恐らく兵士で再現することは大変でしょう……
唯、個々の力量は脅威を感じるものではありませんね」
まぁランクD程度だったしな……
騎士から見ると……そんな所なのか……
よく見てるなこいつ、隊長の動きも分析してくれないかな……
「ふむ……カジロウ……今後、どう布教するつもりなのだ?……私が言うのも何だが、既に殆どの民がブリアン教を信仰しておるが?」
「はい……この人形達を信者に配布して布教致します……今朝も貴族の方が大変興味を持ったみたいでして……」
「貴族だと?名前は?」
「名前は聞く暇がありませんでしたが、凄く欲していたので……
墓地の開演時に特別製を準備して
受け取って頂こうと思っております
貧しい人には人間サイズの人形を労働力として貸し出す事も検討しています」
大臣は国王に耳打ちした。
まぁ近くに居る骨隊長からカジロウには筒抜けだが……
「国王……カジロウの人形は民に好評です……先程の王子様の様に欲しがる者も少なく無いでしょう……
沢山の信者が生まれます……
戦闘に関してはあの様な評価ですが、貧しい者ほど労働力を欲するでしょう……
恐らくブリアン教以上の布教となります……
王の取る行動は2つに1つ……
ブリアン教を見限り
開園セレモニーに王が最初の人形を受け取り、この者の宗教の第一人者になって
増税で離れた民衆の心を再び掴むか……
今ここで、カジロウを処刑するかです……」
処刑!……今、大臣は処刑と言ったな……
王や大臣は意見を聞くくらいだ……
大した力量は無いと見た……
ロビンスに集中攻撃だ……
ロビンスが強かった場合は仕方ないとして……心配なのは戦う前に俺がロビンスから逃げ切れるか?
カジロウは心臓をバクバク言わせて国王の決断を待った。
……緊張で腕が痺れる。
チャンスは決断してから発言するまでの間だ。
ロビンスさえ殺せば!
王が口を開く。
「ふむ……」




