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俺の名前は川崎 次郎(25)
俺には付き合い始めて5年になる彼女が居る。
『カタカタ』
川崎は机に向かい、パソコンにプログラムを打ち込み、今日も残業していた。
周りの人はみんな帰ったが、川崎の仕事もこれを仕上げれば今日の作業は終わる……あと少しだ。
「ふぅ」
川崎は手を休めて、疲れた肩を叩きながら携帯のメールを確認する。
『ごめんね、風邪引いちゃった』
「待ってろよ」
最近は残業続きで、あまり会えていないが、今日はサプライズをしようと思う。
川崎の机には包紙に包まれた箱が置いてある。
そう、最近の残業代を全てつぎ込み指輪を買っていた。
「なんて言おうか……結婚しよう……いや、一生君と居たい……仕事仕事〜」
『カタカタ』
プログラムのテストも終わり、基本機能は確認した、残りの作業は明日でも良いだろう。
川崎は会社を出て急いで電車に飛び乗る。
電車に乗るのは酔っ払いのオッサンだけだった。
川崎は近くの席に座って電車に揺られる。
ああ……眠い……なんて言おうか……やっぱ直球に……
川崎はウトウト居眠りを始めた。
『………向…………向』
川崎は重い瞼を必死に開けて周囲を確認する。
「あっ!やべ!」
川崎の乗る電車は降りる駅『東向山』に着いて、発車ベルを鳴らしていた。
『プルルルルルル』
川崎は急いで鞄を取ってダッシュした。
『プシュー』
扉が閉まり、電車が走り出す。
「はぁ…はぁ……ふぅ、良かった」
川崎は降車に成功した。
川崎は暗い夜道を歩く。
彼女の家はここから歩いて5分の所にある。
彼女の家に近付いて行くたびに緊張感で胸がドキドキする。
そこを曲がれば彼女の家だ。
川崎は足早に歩いて入ると曲がった先から声が聞こえてきた。
『今日は本当に楽しかったよぉ〜』
『おう!またな!』
川崎は立ち止まり、鼓動を早くする。
両方とも、川崎の聞き覚えのある声……親友と彼女の声っぽい。
2人の声は近付いてくる。
川崎は微かな希望に願いを込めて、電柱に隠れて様子を伺っていた。
そうだよ、予想通りだよ!
親友の腕に彼女は抱きついて歩いているよ!
川崎は全速力で走った!
もう川崎は何もかも理解した。
走っている川崎の事をアベックが笑って見ていた。
「くそったれー!見てんじゃねーよ!」
川崎は指輪を箱ごとアベックに投げ付けた。
川崎は泣きながら爆走する。
「もう何もかもブッ壊れちまえよ!」
アパートに着いて自室に入り、ドアを勢いよく閉める。
「くそったれ!」
川崎は力無く玄関にしゃがんで泣き続けた。
「くそ!ぶっ壊してー!」
『コツコツコツコツ』
誰かが数人、川崎の部屋に近付いてくる。
『ピンポーン』
「居ません!!!消えろ!」
川崎は大声で怒鳴った。
『カチャッ……ガヂャン』
突然ドアが開き寄っ掛かっていた川崎は廊下に倒れた。
倒れた川崎をそこにいた3人の大男が取り押さえる。
大男a「容疑者確保!」
訳も分からず川崎は3人の男に無理矢理部屋に押し込まれてしまった。
「はなせぇぇぇ!」
「大人しくしろ!」
大男aは川崎に手錠を掛けて動けなくする。
(何だよ!何なんだよ!痛!)
大男達は川崎に注射を打って血を抜いて、いつの間にか設置した機械に入れて何か操作している。
「君には聴取する権利がある、聞くかね?」
「当たり前だ!何なんだよ!」
「一回しか言わないし、質問は受け付けないので、よく聞くように!
私は未来警察で刑を執行しに来た、
君は歴史的犯罪者になる、
罪状は多過ぎて言わないが、君のせいで日本は大打撃を受けて日本人はみんな、
君の事を怨んでいるよ」
「あははははは!良くやった!未来の俺!」
「君の死後、私達は250年間も議論し、今日……と言っても、我々にとってはだが……刑が決まった……異界流しだ……
寿命の長い未来には無期懲役も死刑も非人道的だとされている」
「何だよ!異界流し?いきなり胡散臭ーぞ!」
「正確には過去にスリップさせるのだが、500年以上スリップするとバラシアパー崩壊が起きて異世界に飛ばされてしまう……まぁお前にはどうでも良いだろう!」
大男は川崎を睨み付けた。
「あははははは!お前も日本人か!良かったなぁ!」
「ふふ!同情するよ、どんな地獄が待ってんだろうなぁ!一族の恥晒しが!」
「なんだっ…モゴモゴ!」
川崎は猿轡を掛けられた。
(こいつは俺の親族なのか!?)
大男bは機械の操作を完了した。
「遺伝子の鑑定と転送準備完了しました!」
大男aは大男bから本を受け取り、川崎の脇に挟んだ。
「そうそう…説明が途中になったが、異世界に飛ぶと能力を得る、どんな能力かは個人で違うがね……この本が君の遺伝子から割り出した能力書だ、生態リンクがしてあり、随時更新されるから小まめに見ろよ!…………じゃあ永遠にさようならだ!」
大男bが機械のボタンを押すと川崎は光に包まれて飛ばされた。
「任務完了だ!撤収!……」
川崎は目の前が真っ白になり、気がつくと草原に立っていた。
「何なんだよ、一体……」
川崎の手錠が砂になり消え、両腕を伸ばす。
脇から本が落ちたので、中身を確認する。
「どれどれ?」
本のページをパラパラとめくるが最初のページにしか記述は無い。
内容は以下の通りだ。
ーーーーーーーーーーーー
骨兵召喚 10p
効果時間:永久
説明:人や動物の死体を生贄に人型の骨を召喚する。
現在のマジックポイント100/100
EXP 0/10
ーーーーーーーーーーーー
「は?……これだけ?……どうする……そもそもどんな世界なんだ?」
川崎は辺りを見回した。
右のそう遠く無い場所に村が見える。
川崎は歩いたが、村に近付くにつれ、段々不安に襲われた。
言葉が通じなかったり……変な人が居たら……
だがそんな不安は杞憂に終わった。
「うっ!うげぇ!臭い!」
村は滅びていて家は半分焦げて
死体は一箇所に集められて焼かれている。
焦げた匂いと死体の臭いで川崎は嘔吐した。
落ち着いて、匂いにも慣れてきた川崎は座って状況整理して今後の事を考えた。
元の世界に戻るのは可能なのか?
出来ればこの世界もぶっ壊してやりたいが、この能力は良いのか悪いのか判断つかない。
500年以上タイムスリップすると異世界って事はかなり昔の時代なのだろう……
情報が足りない……
せめて自分の情報くらいは集めよう。
まずは死体で能力の確認、
その後は取り敢えず、寝床の確保と食料の確保だ。
川崎は死体に念じてみた。
すると突然、死体の肉片が飛び散り、死体の上に一体のスケルトンが立っていた。
スケルトンは少し猫背で全長は180cm位だろうか…カタカタと顎を動かして立っている。
…………スケルトンは動かずじっと川崎を見つめる。
見つめると言っても目は無いが、川崎の方を向いている。
「隣に来い……あっちいけ……こっちいけ……座れ……」
スケルトンは犬みたいに川崎の命令に従っている。
川崎が本を確認すると少し内容が更新されていた。
ーーーーーーーーーーーー
骨兵召喚 10p
効果時間:永久
説明:人や動物の死体を生贄に人型の骨を召喚する。
現在のマジックポイント90/100
EXP 1/10
ーーーーーーーーーーーー
経験値が入っている。
まだ試したいことがある。
「スケルトン、子供の死体を持ってこい」
スケルトンは死体の山をガサゴソと掻き分けて子供の死体を見つけて持って川崎に近付く。
「止まれ!」
悪臭が近付き気持ち悪い。
再び念じると死体の肉片と悪臭が飛び、川崎は気持ちが悪くなった。
「うげぇ……」
出来上がったスケルトンはまた180cmの大きさだった。
元々の大きさや形は関係無いらしい。
川崎は死体の山に念じて、適当な死体からスケルトンを残り8体作って本を開く。
ーーーーーーーーーーーー
骨兵 召喚 10p
効果時間:永久
説明:人や動物の死体を生贄に人型の骨を召喚する。
骨小隊長 召喚 100p
効果時間:永久
説明:骨兵と死体一体を生贄に
人型の骨を召喚する
10体まで骨兵を統率する
その知識は死体側の物を引き継ぐ
現在のマジックポイント1/101
EXP 0/12
ーーーーーーーーーーーー
「くっそー先に書いとけよ!
スケルトン達、山から大人の死体を出して
一列に並べろ!」
知識を引き継ぐならこの世界のことも聴ける、だが子供の知識ではたかが知れているだろう。
スケルトン達はガサゴソと死体に潜り、
大人を探しているが、時間が掛かっている。
「まさか!もう子供しかいないのか!」
スケルトン達は大人の死体を見つけて
川崎の前に持ってきて指示を待ち、
立っている。
川崎は確認するが、大人の死体は1体しかいない。
死体は焼かれて、生前どんな人物だったかわからない……出来れば村長が良いな……川崎は注意深く見る……若干、肉付きが悪い気がする。
「良くやった!」
川崎はスケルトンに命令する。
「良し、付いてこい」
マジックポイントがいつ回復するのかは分からないが、この世界の情報を得る目処は立った。
川崎は次に村の構造を調べる事にした、
村を歩き回って分かったことは2つ、
ここは小さな村で家は10軒くらいしかない事、
もう一つは川崎の体力は変わっていないという事だ、
川崎は村中を歩いただけで息が上がって疲れてしまった。
「お前達は良いなぁ〜」
川崎はスケルトンに話し掛けるが返答は当然無い。
「そうだ!俺を持て……痛い!痛い!止めろ!」
川崎を掴むスケルトンは手加減なく腕を握って乱暴に持ち上げようとした為、痛かった。
「ふぅ〜いてぇ!折れたかな?」
川崎は腕を動かしてみた。
どうやら無事らしい。
「お前!四つん這いになれ!」
スケルトンが四つん這い担った上に乗ってみる。
尾てい骨に背骨のコブが当たってどうにも痛い。
「毛布だ!毛布を探してこい!ダッシュ!」
スケルトンは走って散り散りに探し回り、家から毛布を探し出して来て川崎に手渡す。
「ふぅ〜」
スケルトンの腰辺りに毛布を巻き、やっと乗り心地が解消された。
「良し……家を作れ!」
スケルトン達はボーッと突っ立っていて動かない。
命令が難し過ぎたようだ。
川崎は一軒焼けてない家を思い出してそこに移動する。
スケルトンから降りて川崎は家に入った。
家中の所々に血が付いていた。
そうだ!掃除をしよう。
まず川を探させ、
1体に川の水を汲ませて、
5体に雑巾で床と壁を拭かせた。
4体は動物を狩って連れてくるように伝えた。
家は見違える様に綺麗になり、埃一つ落ちていない。
日が落ちてから
狩に行ったスケルトンは鶏を持ってきたが、4体で引っ張りあったらしくボロボロで食べる気になれなかった。
本を確認したが、マジックポイントは回復していない。
「全員、入り口で待機」
川崎は空腹のまま、寝る事にした。
本の中身
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骨兵 召喚 10p
効果時間:永久
説明:人や動物の骸を生贄に人型の骨を召喚する。
骨小隊長 召喚 100p
効果時間:永久
説明:骨兵と骸一体を生贄に
人型の骨を召喚する
10体まで骨兵を統率する
その知識は骸側の物を引き継ぐ
現在のマジックポイント1/101
EXP 0/12
ーーーーーーーーーーーー