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ひとを吹きとばすことが容易にできそうな突風に、足を踏ん張り
その周期に耐えながら、這う様に前へと進んでいた。口の中がぱさ
ついて、砂利を砕く感覚を覚えてはいたものの、同時に外の世界の
ことを考えている。
今、わたしが踏み締めている外界は、あれだけ渇望した環境だと
いうのに、いざ出てみれば、後悔ばかりが募っているらしい。高い
壁で覆われ、魔法力の結界まで施されて、内側からは決してのぞき
見ることはかなかわなっただけに、あるいは妄想を抱いていたのか
もしれない。
まあ、もう十数年たてば、考えが変わる可能性はあるとおもう。
初期で仕えた婆さんとは違って温和だった薬師の集落から離れて、
そろそろ夏の覆域から外れ始めているらしい。問題になりそうな体
の動機は多少収まりをみせていた。とはいえ、まだ感じる夏の香り
。気温を上下させる四季とは別物で、追いすがる様に人間をむしば
むそれは、消えることはない。魔力の波が容赦なく全てを飲みこむ
のであれば、こうして逃げるしか手立てがないだろう。
だがしかし、定点に留まって職を探したところで、自分が役に立
てることはないに等しい。それを考えると、皮肉にも、良くできた
システム、もしくは策略なのかもしれないな、と。流石に疲れてき
たのか、変な思考回路に入ってしまっていた。
踏み込んだ足が砂利をかき分けてしずむ、この感覚には戸惑いを
隠せない。どうにか適応させて前に、より遠くを目指すのだけど、
どうにも体力は削れられる一方なのか、息が荒くなってきているの
を自覚した。時刻は妖精の子供が、あまいお菓子をねだる頃にまで
さしかかっていたので、ここらで休息を取るのも、わるくない。
わたしはひとやすみしたかったので、周囲の地形へ目を凝らした
。運良くというか、ちょうど良く近場に岩石を捉えたので、それに
背中を預ける格好をして腰を落とした。背の高い岩は、休憩を取る
際に有効だった。風避けにもなるし、角度を考えれば太陽光も遮断
可能だ。ただ、回析する風の勢いはあるので、対処する。
右足にくくり付けている生命線である、カードの中から、白紙の
用紙を一枚取り出して、手に持った。速記用のペンも引き抜いて、
ふたの部分を外し、半径五メートル、使用者を中心に円を描く式を
書いてしまい、更に三日月状へ形を変形させる数式を書き出す。
それから、妖精の文字で「しょうへき」と記して完成。祈る様に
魔法力を送り、約一六フィートの障壁を発生させた。わたしに能力
を託した彼に敬意を払ったつもりもあり、副作用も怖かったので、
最小限、工夫して、魔法の使役は抑えていきたかった。
わたしは人間だ、魔法使いではない。
手早く食事を済ませてしまわないと、魔法力を浪費してしまう。
カバンから手のひらサイズに丸めた、味のない、簡素な食べ物を口
に突っ込んだ。まあ、あれだよ。砂が混じっているし、粘土を食っ
ているみたいで、とても良い気分にはなれそうになかった。慣れた
旅人は決まって、食事なんて栄養が取れればいい、とか言うけれど
、個人的にはあまり賛同できない。のだが、先人の忠告に従って、
腐りやすい食べ物を使わないよう努力すれば、どうしてもこんな味
になる傾向は、否定できそうになかった。