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ちょうど太陽が水平線をまたぐ頃、身支度を済ませたわたしは玄
関先でほどけていた靴ひもを結び直していた。静かだった森の気配
は段々と活気付いて、色彩は溶けるように明るさを増していった。
ふと、扉を開けた先に居座っていた小さな鳥に目が合い、彼、彼女
かもしれないけど、なんだか気まずくなってしまった。わたしは、
決して動物を嫌いではないとおもう。ただ、間が悪かったというか
つぎの動作に移ろうとしたタイミングで、目が合ってしまったので
身体がかじかんでしまっていた。
どうしようかとおもって固まっている自分を察したのか、彼は、
全身をゆったりと前傾させた。北西からの風を助けに自由落下風な
落ち方をしたかとおもえば、その広い翼をはばたかせ、ひとの手が
辿れない高さへ逃げていった。別に財政が苦しいからって取って食
べたりはしないのだけど。
開きっぱなしになっていた戸を閉めて、念のため強めに力を入れ
て施錠した。ひとである、わたしの腕力ではそうそう壊れたりはし
ない。もっとも、魔法力で補正をかければ、話は変わってくるかも
しれないが、無駄に魔力を消費したくはない。借り家をはなれて、
人口の多い方へと足を運ぶ途中、春一番が過ぎ去った影響もあり、
左方に目を配ると、紅葉が美しい風合いを演出していた。
その情景を眺めて、昔の俳人が好んで筆を取った理由が分かった
気がした。しばらくして緑一色だった空間を抜けると、閉ざされて
いた全天が急激にひらけた。それは、木漏れ日が差し込んでいた先
までとはうってかわり、ひたすらまぶしさを訴える太陽光に照らさ
れていたことを如実に示していた。