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明治の夜明けの鐘
移り変わり続ける時の中。
排気ガスに、ため息に埋もれた灰色の空からは雨が降る。この世界にはスマートフォンや車など、便利なものだらけだ。
その文明と引き変えに、この世界は汚れた。
私は汚れる前の世界を知っている。
人々がこの手で日本を変えようとひたむきだった時代。ガス燈の光の下、始まりの鐘は鳴った。
今よりも、人々はひたむきに生きていた。
本当にそうだろうか。
正確には、人々ではなくて、私自身のこと。
もう決めたことなのに、思い出してしまう。
空を見上げる度に落ちてくる雨にまぎれているのは私の涙だった。
いまさら後悔しても遅い。捨てたのは私でしょ?
それでも、世の中からあの時代の文明が消えようとする時、胸が痛まずにはいられない。
最後のガス燈の光は、皐月の雨に流され消えた。