非現実というロマンス
時計の針は、十二時を回った。
学年末テストまで、あと八日。テスト一週間前になれば部活は休みになるのだが、明日の月曜日は八日前にあたる。惜しくもあと一日足りない。
私が通っているのは中高一貫校だ。ついこの間まで、入試のため学校は休みだったのだが、折角なので友達と遊びに行ったりアニメを見たり。結局勉強なんて、宿題以外できなかった。
今になって焦っても無駄である。過去の経験がそう言っている。遊んでいた私が悪いのだ。しかし、中学生のうちに楽しめるだけ楽しんでおきたい。そう思う。
明日は放課後、部活がある。所属している剣道部には女子部員は私を合わせ、わずか二人。やはり男子と合同で行う稽古はかなりきつい。早く寝なければと、テスト勉強をやめたのに、こうしてペンを握ってしまっている。
私は友達が大好き。遊ぶことも好き。稽古はあまり好きではないけれど、剣道という武道はとても好き。文章を書くことだって、読むことだって……。今に関わる全てのことがよくわからないけれど好きだ。
だけど、そのすべてが退屈に感じる。
「午前零時の窓越しに弦月の洋燈
満ち欠けのリズムに乗って思い出が揺れる
トパァズ散りばめたドレス 恥じらうつま先 鏡の街をすり抜けて君を連れ出すよ
ダンス・イン・ザ・ライト 踊ろう
魔法仕掛けの夜が終わらないように 止まらないステップ見つめ合えたら
今宵 君は僕のもの」
イヤホンから流れるのは『明治東亰恋伽』という、ゲームが原作の映画の主題歌の「Dance in the Light」。明治東亰恋伽というのは、明治時代に女子高生がタイムスリップし、そこで偉人たちと恋に落ちるストーリーの恋愛アドベンチャーゲーム、俗に言う、乙女ゲームである。
このゲームのようなロマンスが、実際にもあればいいのに。この歌の歌詞のような切なさとときめきが混じった感情を感じてみたいのに、そんなことが現実にあるわけがない。
そう分かっていても、白亜の鹿鳴館で開かれる夜会に出席する紳士淑女たち、銀座の煉瓦街、淡い光のガス灯……それらに、私は憧れてしまう。
「タイムスリップしてみたい。」
そう呟くと、友達には変わってるといわれる。学校に行って、部活をして、友達と話して、家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、寝る。そんな平凡な毎日がどれほど幸せか、分かったつもりではいる。
それでも、非現実というロマンスに思い焦がれずにはいられない。