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星空
吐けば白くなる息。見る見るうちに赤くなる、スマホを弄っている右手。小走りの人に、悠々と歩いているカップルたち。
一月の午後六時半のことである。
今朝はこの暖かい海沿いの町にも雪が降った。幼い頃は楽しみだった雪も、中学生になり、バスと電車を乗り継いで学校に通うようになると、単なる迷惑なものにしか思えない。
だが、今は暗くなった空は澄んでいて、星座が輝いている。
その星をながめる度に、少しだけ胸が切なくなる。何故だかわからない。目を閉じて浮かぶのは誰かと誰かの笑顔。そして、涙。全然見た目は違うのに、そのなかの一人が私だとわかる。
これは、きっと大切な思い出だ。思い出そうとしても、悲しいかな、思い出せない。
私は星空を上目でしか見つめられなくなった。
どうしようもなくなり、視線をスマートフォンの画面へと落とす。
ごめんね、ありがとう。
気がつくとそうフリックしていた。