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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
軌道線上の戦士達
7/25

6、予兆―5

「それで――これは何だ。古代文明の遺産か?」

 東京支部分析官・及び準司令の井草辺いぐさべんは渡されたものを見ると、何となくそういった。

「敵が持っていたもの、との報告です」と、持ってきた男が報告書を読み上げる。

「これが、か」

「あまり触らないほうが……」

 井草を気にし、男はそういった。

「何か害があると、起こると結果が出ているのか?」

「いえ、出てはいませんが……」

 無造作に手に持つと調べだす。

 思っていたよりも、随分と旧文明のものだと感じた。

 これが力を持っているようには、今のところは思わない。まずこれからも、だろうが。

 どうすれば力を発揮するのか、それが気になった。

「見たところは何もない。本当に奴らのものなのか?」

「発見したのは真凪透なので、信用はできるかと」

 真凪透か。デープ・セカンドの生き残りのやつか。

 この頃は頑張っているみたいだな。

「あいつか。まぁあいい。第三ブロックにでもしまっておけ」

 第三ブロックには、主にリトラクター関連のものがしまわれている。その壁はリトラクターを阻害できると言われている。信憑性は初めはなかったが、一度も彼らがそこに、この『Earthese』に現れたことはないことから本当なのだろう。

「厳重に、ですか?」

「わかるだろ。あいつらのものだぞ」

「ハッ! それでは」

 と男は部屋を出て行く。

 物分りが悪いやつだ。

 男が出たのを見送ると、壁に寄りかかり終始無言だった幾仁壮一いくじそうじが口をあけた。

「第二次警戒エリア。あれはどうなんだ?」

「さぁあ。気になるので?」

 第二次警戒エリア。約半年前に起きた大規模な大戦。そこから割り出した、彼らが目指す、出没する場所。旧西東京――ここから約数十キロとない場所だ。

 これまでに四回、あいつらは現に出現している。その場所は、今では何もない。強制退去させた。危険すぎるためだ。

 そう。あそこには研究プラントがいくつもあった。それを狙いに来たに違いなかった。

「あそこは因縁が深い場所だ。いつかケリはつけるつもりだ」

「ケリね……。何かは問い詰めるまではしません、知っていますから」

「そうか。知っているかね、調査報告書の情報は」

 と、懐から紙をとりだした。おそらく、その報告書だろう。

「リトラクターはこの地球にそう長くはいられない、そう結果が出たそうだ」

 その結果は腐るほど知っていた。元より、現場で自分は体験済みだった。

 彼らは相手のことよりも、時間を気にした。だから俺は今ここにまだいられる。

 死んだ仲間からは、負い目を今も感じる。

「――だから短期決戦を幾度となく仕掛けてくる。全く、厄介な奴らです」

 厄介なことはそれもある。それに加え、あともう一つある。

 恐怖といった感情がないこと、そこが人間とリトラクターとの違いだろう。あいつらは、戦闘を楽しむ種族だと思っている。人間が死のうが何とも思わない、逆に仲間が死のうが。

 敵が近くにくれば攻撃する、敵が多ければなるべく行かない、戦闘をよく把握している。

 知能はある程度は持っているらしい。自分のことも気にしている。

 人間の場合、瞬時にそうなれるかと言うとそうではない。パニックに陥り、死ぬのがオチだ。

「そうだな。決戦は次、いつになると思う」

「前回が約五ヶ月前、日本の損失は約2割。まだいい方です」

 他国の中には壊滅した国も少なくはない。彼らは一斉的に仕掛けてくる、世界全土にだ。

 支援をしろ、と言う状況ではとてもない。

「ああ、分かっているとも。それでも失うものは失っている、痛いものだ」

「約五ヶ月周期に奴らは決戦を仕掛けてくることはご存知のはず。そうなると――」

「来週の今日……なのか」

「はい。考えたくはないことですが」

「場所の特定は」

「上げてはいます。ですが、神出鬼没なため、レーダーは当てにならないと」

 レーダーとはいうものも、人間ならまだ感知できる。だが、奴らは次元が違う。いくら亡命者の技術とは言えど、それは叶わなかった。

レーダーの波が安定しない、荒れているのが普通だ。

 現れるときは大抵、その逆。波が穏やかになる、まるで嵐の前兆だ。

 分かってはいるが、その現象が起きるのは決まって出現五分前。出来ることは多くはない、だがやるしかない。

 それが今の現状であり、乗り越えなければいけない壁なのだ。

「それにしても、来週なのか……。悪すぎるな」

「何かありましたか?」

 悩む幾仁に言葉をかける。

 来週の今日までに起きること、行事でもあったか? 

残念ながら、自分は覚えてはいない。

「いや、何もないとも。ただの独り言さ。では私は失礼する」

 まるで聞かれたくないことを言ってしまったように、早足で出て行く。

 彼のその行動は珍しかった。もしかすると、初めてかもしれない。

 いつもに比べ冷静さが欠けていた、思い返すとそう感じた。


 つい一人でに口が喋っていた。だが、追求されることはない。私はここで最も高い地位にいる。黙秘も出来れば拒否権もある。誰も私にかなうものはいない。

 幾仁は誰もいない廊下を歩いていた。この日は風もなく雨もない。静けさだけが歩いている。

 来週と言うのは自分にとっては悪いことだ。

 極秘裏に進行している、エンター計画(他人類製造計画)。その進行状況の確認に、自分は海外へ飛ぶ。

 エンター計画は未だ、動きは見せていない。始まりは、一ヶ月前。終わりは不明とされており、それは滅びの後か前か、研究の発展しだいだ。

 自分は専門のことには口出しできるほどの知識は持ち合わせていない。気づけば、日本の権力を握る一人になっていた。日本の権利者はほとんどが老体だ。新しい意見をのまず、吐き捨て、古カビの生えそうなものを好む。

自分はいいほうだ。そんなやつらとは違い、新しい意見を受け入れている。日本のために自分は動いている。だが、後ろめたい。極秘裏に進めているせいだろうか、感じてしまう。いっそのこと、解放されたいがために打ち明けたい。あの場で言ってしまえば気が楽になったのかもしれない。

だが、エンター計画が世間に流れれば、それは批判をくらう。

あの子供、元は我々のものだ。研究のため遺伝子配合で作った、ものの一週間としないうちに八歳ほどの大きさに成長する。八歳の理由は、最高潮に達するからだ。が、それは引き出せない。体に内蔵されたまま、それは成長し減少していく。

引き出し方を検討しながら、研究は続く。今日は何十人、明日も何十人。その中の過程が終了すると、殺すのも可哀想だと野放しにされる。世界全土に均等に。

場所は不明と世間は言う、だが自分は知っていた。自分はその研究の提供者の一人として、関与している。日本で生産した分は自分の国へ終われば返ってくる。最初は育ててリトラクターと戦う戦士に、そう考えたこともあった。しかし、それは叶わないと分かった。リトラクターに通用するのは、潜在能力者のみが持つことを許されるアームのみ。銃などは威嚇程度にしかならない。言っていることが分かれば幸いだ。

そう、彼らは研究の一環で力を無くしている。そのため、増えても何にもならないとわかった。そのため研究所から近い区に、特に誰もいない場所に離す。そのため、突然現れたなどと言われ、挙句の果てにリトラクターを呼ぶとも言われている。

それは嘘であり、単なる偶然だ。丁度彼らがいた場所に現れた、それだけではないか。彼らは何の力もない、ただの人間。自分と変わらない。

もし、自分の知らない力があるとしたら――

「幾仁総司令」

 呼ばれ、振り向く。

そこには足跡が聞こえなかったが、男が立っていた。

喜納忠。彼は一人の隊員であり、作戦司令を出す一人だ。

 喜納に呼び止められたのは、初めてかもしれない。

「なんだ」

 いつもの総司令らしい、硬い口調でいった。

「伝えておきたいことが」

 喜納は耳打ちで言うかと思えば、さほど重要でないのかそのまま続けた。

「明日の新規入隊者の件で問題が」

「ヤバイことでもあったか?」

「はい……これを」

 と持っていた紙を差し出した。

 自分にとって、今ヤバイことは真実を知られることだ。それ以外のことはない。

 今回は入隊志願者が、約二百名。別に海外からの志願者も入ることはできる。しかしこの事態、母国で志願しないとはどういうことだと思ってしまう。やはり名簿をみると、その名前の半分は母国の人間、日本人だ。

 では残り半分は。

「ハッハッハ!」

 突然笑いだした幾仁をみて、喜納はビクッとなりここには彼しかいないことを確認した。

「まさかほとんどがクローンだとは」

 日本人以外、約百名がそれだった。名前は適当だ。クリスマス、ハロー、エブリデイ、馬鹿にしたように英単語だ。それぐらいの意味は私でも知っている。

クローンと言っても、同じ人間ではない、別の人間それぞれだ。潜在能力者のクローンを作ることは可能だった。現に大国はしていることだ。日本は面倒くさくなりそうだと思い、未だ止まっている。

 問題はその能力者と同等の力が出せないこと、劣化が生じることだ。劣化は生じているだろうが、研究に感謝と言うつもりで送ってきたのだろう。

 無論、この事を彼は知らない。驚いて当然だった。

「どうしたものか、と思いまして」

「入隊者は多くても困ったものではない、むしろ有難い。現在は戦争の中だ、戦闘をすれば犠牲者が少なからず一人はでる」

 淡々と言った幾仁に押されたのか、

「ではこのままでいいと、そうですね?」

 と言った。

「ああそうだ」 

「了解しました」

 そう言うと敬礼をし、背中を向けた。

「クローンにはクローンとは。有難いのか、有難たくないのか」

 小声で呟いた。

 これでバレたら、私は…………再び。

 嫌なことを思いだしたと、吐息をはいた。


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