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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
軌道線上の戦士達
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2、予兆

 

 真凪透には行く場所があった。

 呼ばれたからには行くしかない。自分は彼の部下なのだから、拒否をすることはできない。サボることはできなくはない、遅刻もできればしたくはない。自分は戦うために、守るために入隊したのだ。


 当然ながら理由はあった。普通なら入隊時の試験で訊かれるだろう、「君はどうして隊員になりたいんだ?」と。隊員とは、リトラクターと戦うための能力を備えている人間のことを指す言葉だ、自分も最初は意味が分からなかった。隊員? 『Earthese』にいる人たちのことかと思っていた。


 その場合どう答えるか、「守りたい」それだけだ。この組織は何も武器を持たない人たちを守るためにあり、守るための力も与えている。そのため、そういった人間が多くいる。自分もその一人だが、少し違う。


 恩返しと言った方が理由としては合っているかもしれない。救ってくれた人の代わりに、自分がと思い入隊を決意した。それまでは『Earthese』の存在は嫌な存在にしかなかった。その嫌な存在の中に自分はいる。給料をもらい、衣食住を満たしている。


 自分が思っていたのは、外見的な嫌悪感だった。内面は違う、人々を守るために固唾を飲んで、了承していた。そのため、制限がかかったりも当時はしていた。電力、食料、それらが思い出す限りそうだった。あれもそうだったのか、と入隊して気づくことの方が多かった。逆に、入る前は知らなすぎたと感じた。


 真凪は撮影で語っていたせいか、そんなことを思い出した。

 嫌な記憶ではない、楽しかった記憶でもない。どちらでもないのだ。

 嫌な記憶の方が強い。誰かにいじめられたとかではない、これはあいつらの影響だ。

 真凪はいいづけた。


 リトラクターが現れると必ず被害が出る、これは当然のようになっていた。帰る家がなくなる、人が亡くなる、これも現在となれば付き物になっていた。そのため、それ以外の記憶はたわいない。思い出深いものが壊される方が強い印象を残す、そういうものだ。


 今の人々のほとんどはリトラクターが、自分が死ぬまで、一生消えることのないものだと考えている。地球人はどうやってもあいつらには勝てないそう言っている。


――俺も思っていた。


 廊下の角を曲がった。時刻は昼時に近づいていた。

 集合時間は一一・二〇と言われていた。今が……きっかり一一・〇〇だ。このまま行けば普通に間に合う、寄り道してもいいぐらいだ。


「だが、それは入隊以前の話。今では勝てる! と確信している」


 手を握り、振り上げた。まるでどこかにカメラがあるかのように。

 真凪の口からは相手がいないのに言葉が出ていた。彼はそれに気づくことはない。


「何が根拠か? それは説明したとおり、リトラクト・スーツ、そしてアームの力が大きく影響している」


 真凪は人がいようが関係なしに呟いていた。大きさも大きさだ、普通に話すように言っている。そのため、周りにダダ漏れだった。

 それを聞いた男女が、ひそひそと言い合う。


「あれって真凪隊員だよな」


「そ、そうだと思うけど……今日は頭を打ったみたいに違う人みたい……」


 これでも真凪は名が通っていた、

 バレてはいけないように、と、ちらちらとみては、……やっぱりだ、と残念がったり、そういう一面があったのかと思うものもいた。


「敵は未知数、後数体、数十体、数百体、数千体! それ以上いるかもしれない。それでも人間は諦めない、何千いおうと、何万いおうが戦い続ける! そう、例えそれが命尽きる日であろうと……!」


 そんなセリフを口に出したことを、真凪は知らない。周りではあまりのイタイタさに吹き出すものもいた。

 場所に向かいながら言っているため、噂は他人が言いふらすのではなく自ら広げていくという何とも珍しい形になっていた。


「お! 真凪じゃないか! こんな場所で会うとはな」


 真凪と同じ隊員である、桐船きりぶねレンザンは前から来ると気づきそう声をかけた。

 桐船は遺伝と言うべきか、髪が銀髪だった。歳がいっているわけではない。今は短髪だが注意されるまでは切ることはなく、後ろで武士のように束ねていた。身長は高く、一八〇はあり、頑丈そうな体をしていた。


 当の本人は未だ、噂を広げている。、もはや真凪は自分の世界に入っていた。


「ん? なんて言ってるんだ?」


 彼に言おうとはしていない。

 が、もしかして自分に喋っている、と誤解しそれを聞こうと桐船は近づいた。


「君たちの時代にはもうリトラクターなど存在を消されていないかもしれない。その方きっといい、だが一つ知っておいてほしい。その未来のために払った代償は大きく、人間といった人種は消えるかもしれなかったことを」


「リトラクター? 人間が消える? 何をいっているんだ」


 話がかみ合わない。それもそうだ、真凪は喋ろう(会話)とはしていないのだ。噛み合わなくて、普通だ。


 すると真凪が前を見ていなかったのか、当然ながら桐船の体に当たった。丈夫な体のため、桐船はぶつかってきてもうんともしなかった。


 真凪の方は、まともに壁に当たったかのように鼻を押さえていた。


「大丈夫か?」


 会話のような呟きをしていた相手にいった。


「あ、ああ大丈夫だ。って、レンザンじゃないか!」


 今更ッ! てか気づいてなかったのかよ! と桐船は内心思った。友達思いの優しい彼だ、そこは胸に隠しておいた。


 ならさっきのは……まさか! 呟いていたのか?! 驚きつつも彼は悟った。そしていつもの彼らしくないと、彼も思った。


「ああ、俺だとも。なぁあ真凪。お前、この頃なんかしたか?」


 ガッと十センチは小さい真凪の体の肩を掴んだ。

 突然のことで、彼は驚いた。


「えっ! この頃か?」


「ああ、そうだ! まずいものを食った、頭を打った、ストレスを抱えている、何でもいい! 言ってみろ、俺が受け止めてやる!」


 自分の気がおかしいのだと、心配されているのか!? 自分はそんなことはしていない、立ち振る舞いもいつものようにしてい――違う。


 そこであることに気づき、真凪は考えを改める。

 おそらく、前回のだ。あれが効いているのだ。あの時は確に自分がいけない、待ち合わせに遅れた。それも十時間だ、待っているわけもなく彼はいなかった。そうだ、自分がいけない。だからこうやって、俺はいま言われているのだ。


「レンザン、一つ言いたいことがある。いいか?」


 落ち着いた様子で真凪は言った。

 無論、これから言うことは謝罪の一言だ。


「ああ、いいとも! 言ってくれ!」


 レンザンはなぜか生き生きとしている。そんなに俺に謝ってほしいのか。まぁあ、口で正直に言うと気まずくなるもんな。


「あの時は俺が悪かったッ! 本当にすまない!」


 無理やり彼の手を振りほどくと、一本後ろに下がり頭を下げた。

 何も間違ったことはしていない、正しいことをしただけだ。なんともいえ、レンザン。なんなら、殴ってもいい。お前には俺を殴るしかくがある、本当は殴られたくはないがこればかりは仕方ない。受けてやる、絶対に気絶はするだろう! だが受け止めてやる、逃げないで真正面から受けてやる。  


「な、なんのことだ……? 俺がなにかしたか?」


 そこは優しい桐船だった。数週間前のことなど、とうに忘れていた。それが嫌だったことでも、忘れる、それが彼だった。数歩あるいたら忘れるような鳥頭とは違う、桐船だからこそのことだった。


 決して天然と言いたいわけではない。

 まるですっとぼけているように、真凪にはみえた。

 許していないな……これは。


「今なら殴られてもいい! それでお前が済むのなら、どうぞしてくれ! 殴ってくれ! それで俺の心もスッキリする!」


「……そう……なのか?」


 それが彼にとって最通警告だと、真凪は分からなかった。だが、殴られることを覚悟していたため、痛みは和らぐはずだと、そんなことはないことを思っていた。


「ああ! そうだ! さぁあ早く――」


 言葉が途切れ、真凪の体が宙に舞う。

 考えることはなかった、桐船の右腕が言われた通りに実行したのだ。場所は指定していないため、どこなら痛くないのかを考えていない、そのため彼の拳はボクシング選手の如くのストレートで真凪の頭部をひっとらえた。

 相手はリトラクターではないはずなのに、意識がぶっとびそうになっている。


「す、すまん! 大丈夫か?」


 元の位置よりも軽く一メートルは飛ばされたな、うっすらと目を開くとそう悟った。いつの間にか、ここがどこだかも頭から抜けかけるほどのパンチだった。あれは本気なのか、そうじゃないのか、それなら本気は――!


 桐船は近づくと、手を差し伸べる。


「立てるか」


「頑丈、とはいかないがどうにかな」


 手を取ると、立ち上がる。

 ここは戦場ではないのに、無駄な怪我を負ってしまった。それにこれから、ミーティングだ。冷やす時間ぐらいまだあるだろう。


 ちらと、デバイスをみた。時刻は一一・一〇、まだ大丈夫だ。


「これからどうだ、昼でも」


「時間はまだ十一時だぞ、早くないか」


「早くはないだろ、もうすぐ昼でどこも混むんだ。だからこそ、早くに行ってゆっくりと、だな」


「こんなことを言うのもあれだが、レンザン」


「なんだ?」


「……その服の血はなんなんだ、とうとう人でも殺したのか」


 さっきまでは付いていなかった。だが、ふと彼の胸元をみると赤い血のようなあとが付いている。自分の返り血か、と頭部をおそるおそる触るがそんなことはない。

 ならなんだ、上には垂れるようなものは一切ない――なら考えられるのは一つだ。


「――! なんだこれは」


 怯えることなく、彼はその赤いシミに触れた。まだ新しいらしく、触れると指先に少し赤い色が付いた。


「人の血で間違いないだろう」


 まだ真凪の周りには人が出来ていた。ここは連絡通路の一つでもあるため、人が行き交う。遅ければ、その人物はもう行っているかもしれない。


「この辺りで傷を負っていた人をみたやつはいるか」


 体を桐船からそらすと、周囲にそういった。

 重苦しい雰囲気ではないため、言葉が飛び交っている。


「え、それって先輩のことじゃ……」「いや、絶対に違うだろ!」


「傷ねー、どうそんな人いた?」「いや……いないと思うけど。まずここの通路は治療室とは別方向だし……それに戦闘中の負傷ならすぐさま運ばれるし」



 聞き耳をたてながら、関連しそうな意見を探していくが、そんな意見は見つからない。自分一人だから、という理由ではなく、誰もそんな人は通っていないと言いたいわけだろう。しかし、レンザンのシャツに付いたあのシミ、あれは殴られた後までなかった。


 二つ考えられる、自分の返り血か、レンザンの古傷だ。

 自分の血――それはない、周りから聞くにそれはなかったらしい。

 レンザンの古傷――あいつにはまず、古傷の類は見受けられなかった。


 ふと、真凪は床を見ていないことに気づく。磨き上げられた白い床だが、人が行き交うために反射するほどの透明度はなくなっていた。

 それにしても特にない。ゴミも落ちていない。


「どうする、レンザン。俺はこれから用があるため別の場所に向かうが……」


「……そうか」


 気を悪くしたように、表情が暗くなる。

 食事のことではあるまい、この血のようなもののことだろう。


「どうする、調査依頼でも出しておくか」


「あー……別にいいかもしれない」


「お前がいいならいいが……」


「なにせ、この犯人の検討はついてるからな」


「へぇえ、そうなのか……ん? 検討がついたのか?!」


 思わず聞き返す。

 顔をみたが、どうもそう嘘をついてる様子でもない。


「検討はついた、だから俺もこれから移動しないといけない」


「すぐに終わりそうなのか」


「ん……今日中にそれ以外何もなければ終わる、な」


「まぁあお互い頑張るとしますか」


「そうだな、夜はどうだ。空いてるか」


「今のところ空いてるぞ」


 今日の夜は特になにもない、任務も緊急でない限りないし。


「なら、予約をしておく。その時間はあけておけよ、終わり次第、連絡を入れるから」


 それを機に真凪はまだ痛む気のする頭に手をやりながら、元の道に足をのせた。


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