22、沈黙の家―2
さて一部の終わりです!
あとで……あとがき書いておこう。
「なぜオマエは助けなかったッ!」
出撃から帰ってくる戦士を向かい入れる入口に男性が怒鳴っている。
ここもまた暗い。非常電源もあったが外の天候のせいでもあった。
夕時、夜になろうかという時間。周りには彼ら以外にいない。
一見相手はいないように思えた、しかし目線を少し下に下げるとそこにその人物がいる。
クリエラ・ライエリエム。彼女は目を伏せていた。彼に叱られることを承知していた。だがそれには訳があった、だがそれを言い出せない。言い出そうとしても喉から出ようとしない。彼に嫌われることを恐れている。
「…………」
「なぜ答えようとしない! オマエを向かわせたのは何のため、何の意味があってのことだと言ったはずだッ。真凪に何かあったら守る、もしくは介入しろと……」
「だがなんだこの結果は……ッ。俺は望んでいない……!」
男は彼女の後ろの壁を強く叩く。
彼女はびくりともしなかった。ただ彼から視線を離さないでいる。
「……私もです……私も……嫌です……」
「ならなぜオマエは助けなかったッ! できたはずだッ、オマエなら。オマエならリトラクターぐらい倒せた……なのにッ」
「なぜオマエはアイツを助けなかったッ!」
言い出そうと彼女の体が震え始める。
――怖い、怖い、怖い……だけど言わなきゃ。
思わず感情が溢れ出る。歯止めが効かなくなっていくのがわかった。
「…………私だって……助けようとしましたよ……ッ!」
クリエラが涙を流し出す。
男は何か言おうとしたがその口を止めた。
「ですが……私だって…………怖かった……! 死ぬかもしれないと思った……! 死にたくなかった……ッ! 私だって……人間なんですよ……ッ!」
「…………ッ」
「すみません……先輩……」
レンザンは我に返り、吐息をはくと彼女に慰めの言葉を言おうとした。
「……言い過ぎた。こっちこそすまなかった、オマエに色々と頼んでできなければそれを責めるなんて。それも女性にだ。俺がやればよかった話だった」
「ですが先輩は別のことが……!」
「ああそうとも、俺は他の任務で出払っていた。そのため俺がいないときに何かあったらと思いオマエに荷を負わせた。無論、これは俺の責任。クリエラ、お前には罪はない」
「…………、」
クリエラは口を動かす。しかし声が出ない。
これはもちろん自分のせいだ。自分が死んで真凪というあの男がここにいれば、彼は悲しむことはなかったろう。だけど、あの場所で私は一人みていた。見守っていたに近い。いつ踏み出すか、最初はそれを考えた。それも出鼻でくじかれる。相手が強敵、かなわないと肌が悟っていた。進みだそうと足を動かそうとした、だけど進まない。代わりに後ろへは下がれた。不思議なものだった、そして私は彼が連れて行かれる瞬間もこの目でみていた、ビルの屋上から、透明化をしながら。臆病な自分、私はそれを知った。
「オマエは休んでいろ」
レンザンはそういうと踵を返す。
「俺は用がある。じゃあな」
レンザンは更に暗い廊下の奥へと進んでいく。
先輩が離れてしまう。このまま言わないでいいのか、あのことを、あの少年のことを。
調査も不十分、嘘で塗り固められたものかもしれない。だけど可能性を信じたかった。少しでも彼を元気づけたい。
「――先輩!」
レンザンは遅れて振り向く。
「まだ何かようか。明日からは自由だぞ」
「いえそうではありません……」
「ならなんだ? 言いたいことがあるんだろ」
「先輩ッ」
「だからなんだ?」
レンザンは呆れた様子になる。特に急いだ様子もみせていない。
今なら出そうだ。今ならハッキリと言える。
クリエラは自信を持ちながら口をひらく。
「彼が、真凪さんが守ったものに興味はありませんか」
「…………守ったもの、だと?」
沈黙が流れる。
外の雨の音。ポツンポツンと地面に打ちつける音がここからでも微かに聞こえた。
「それは実里のことじゃないのか。それなら俺は……」
「それもそうです。ですが、最後に守ったものがあります」
「最後……」
「そうです。彼が最後に守ったものは実里さんという愛人ではなく……」
「――青年です」
そういうと口で話すよりもわかりやすいだろうと、レンザンに駆け寄りデバイスのデータをみせる。
その青年の顔写真とプロフィールが現れる。
「……ただの青年じゃないか。彼には……」
レンザンはクリエラの目をみた。
その目が真剣だと語っている。
「そう、先輩の言う通りただの青年です。ですがこれを――」
下へとスワイプ。そこには暗証番号を入れる欄があった。
レンザンにはそれ自体見覚えがあり、ハッとなる。
「まさか彼は……ッ!」
「未来の鍵です」
解除すると、青年の情報が現れた。
通常なら非公開の情報。管理しているのはここ『Earthese』。
見られるのは限られたものに限定される。
レンザンは解除したことに疑問を持つが、責めようとはしなかった。それよりも詳細な情報が気になっている。
一通り見終わるとクリエラが先に言い出す。
「さて、彼へはいつ接触しましょうか?」
レンザンは聞くと鼻で笑う。
久々に彼の頬が緩んでいた。