21、沈黙の家
この頃思ったこと――感想が欲しいです! 欲張るとですが。
感想をみないと、この作品が面白いか、どこが悪いのかがわからないので。
見ている方で指摘してくれる方がいれば有難いです。
*次で一部が終わります
「真凪が死んだってどういうことですかッ! 彼は……真凪くんはッ……!」
緊急時に備え非常電源に切り替えている司令室。暗く、そこには二人の人間がいた。
瀬野と実里。楽しげな話ではないことは各々の顔が語っている。
目下に生々しい傷を付けた瀬野の報告を一通り聞くと実里は息をするように沈んでいく。 それでも彼女は喋ろうとしている。それが本当ではないと思いながら。
瀬野は彼女を見ていて苦しく感じた。場の空気、それではない。
責任感。救えたかもしれない、自分のせいに違いなかった。
「あの人は私と約束したんです、生きて返ってくるって……ッ!」
目に涙を溜めながら実里は当てることのできない悲しみを、言葉にぶつけた。
それでも帰ってこないことはわかっている。だけど……!
涙がつうっと実里の頬を伝う。
瀬野は黙ってそれをみていた。かける言葉も見つからない。
「残念だが……これは現実だ、実里くん」
現実に戻させる言葉、私にはそれしか掛けてあげられない。
隊員としてはいいかもしれない、だが人間としては……。ダメな大人だよ。
「嘘よッ! だってあの人は! あの人は……!」
涙を流しながら実里は否定し続ける。
いっそのこと、嘘を言ってあげたい。彼が生きていると言う嘘を、だがそれが嘘だと彼女が知ればどうなる。きっとここで言うよりも辛く重いものとなる。
「もういない。それは君自身、もう分かっていることだろう」
司令室の自動扉を開けられた。
廊下の方が明るいため、その人物が一瞬わからなくなる。
瀬野は誰が来るのかは知っていた。
「……孫さん。でもッ!」
「死からは背を向けてはいけない。それは死んでいったものへの冒涜でもある」
孫はこちらへやってくる。手には予定通り例のものを持ってきていた。
「君は彼が必死に命を掛けて守ったものはなんだと思う?」
孫は実里の前の机に寄りかかり、悲しむ彼女をみる。
「……この世界ですか……?」
「彼は……真凪は恐らく、そのことを一の次に考えていた。では、一は何か。世界平和よりも大事なものがあるのか? ものか? 人か? それは私たちに、老人にはもうなくなった季節だ。そうずっと前に……。しかし君は季節を実感していたはずだろう。彼もそれを体験した、そして感じた。君を守ろう、愛する人を守ろうと。単純かもしれない、だがそれでも人間という生物は動かされるんだ。感情に左右されるんだ」
「……それって」
「実里さん、君のことだ」
孫は手に持った書類の中から真凪が持っていた写真を取り出し、実里に渡した。
「これはあのときの――」
「それが彼の唯一の遺品だ。大事にしてくれ」
実里はこの写真を知っていた。彼が無くしたと言っていたものだとすぐに分かった。
傷が付き、色が抜けてきているからだ。それにこの場所も、最初に行った場所。
「報告は以上だ、実里くん。気を確かにして、今日は休むように」
「……わかりました、瀬野上官。では、失礼します……」
実里は静かに司令室からでると、自分の部屋へと向かう。
その途中では誰にも会わなかった。不思議ではなかった、その理由は分かっている。
自室に入る。
電気を付けると机に置いた写真立てに入った真凪との写真が目に留まった。
いま手に持つものと同じだ。目の前のものは色が抜けていない。元々二枚につながっているものを一つずつに分けた。一つは自分に、もう一つは真凪くんにと分けた。
真凪と実里は写真の中で笑っている。
いまもこの時が続けばと思うがもうそれは続かない。
知っている、真凪くんが死んだって。でも私は傲慢だけど自分が納得するように変換している。彼はいまも何処かで生きていると。
孫さんの言うことは正しい。死んだものへの冒涜。
いま否定している私は真凪の死を……
実里は自分が憎かった。憎くてたまらなかった、自分を殺したくてたまらない。
あの場で自分だけ帰らず一緒にいればよかった。
真凪の死を受け止めることが出来ない。それをいまも生きていると決めつけるあたりが私のダメなところだ。
受け止めろ、受け止めろと何度も胸の中でいう。
彼は死んだのだ、リトラクターにやられて。
きっとあのリトラクターだ。
実里は禍々しい鎧を着た、見たことのないリトラクターを思い出す。
あいつに真凪は肉片になるまで切り刻まれたのだ。可愛いそうな真凪くん。死ぬ直前まで苦しみ続けて……。
私が一緒にいれば……
クッションに顔をうずめながら実里は叶わない願いを思っていた。
*
「あんな口実で納得すると思うか?」
「納得するとも。欠点だが、彼女は人を疑わない」
司令室には未だ瀬野、孫の二人が椅子腰掛けながら話していた。
机の上にはコップが二つ置かれている。
「守るべきもの。私は体験したことのない感情だがどういったものなんだ?」
「フッ、あれは嘘だったか。……それを俺に訊くのか。なんとも、説明しがたいものだ。突然あるんだ、この人を守りたい、大切にしたい、と。感情が答えるんだ、脳が答えるんじゃない」
湯気の出ているコーヒーをすすりながら瀬野は答えていく。
「それがあいつを動かした理由か……。理由としては十分だ。だが、あいつが連れていかれたと言うのは本当なのか?」
瀬野は思い出したくもない記憶を無理やり引っ張り出す。
「本当だとも、それに書いてある通りだ。俺を信じないのか」
瀬野がまとめた書類を孫は再びパラパラとめくり始める。
特定のページに止まると口を開いた。
「どうも信じがたいものだな、リトラクターが人間を自らのワームホールに連れ込むというものは……」
「俺も初めてのことだ。目にしたのは事実。その後のことはまだ分からない」
「死んでいるか、生きているか」
孫はコップに口をつける。
「ああ、だが死んでいる可能性が高いと俺は思う」
「このことか」
と孫は別のページをめくった。
貼られた写真、記事がこちらからでもズラズラとみえる。
「リトラクトアームが消失、か。あり得るのは、所有者の命が無くなったか、『断空』を使ったか……」
「はたまた室義さんのように『フリーダム』を使ったか……」
「あのときと同じことなのしれないな」
バタンと孫は書類を閉じた。
「それなら蓮火は新たな持ち主に継承されるのか?」
「その場合、その人物は真凪が最後に見た人間のみとなるはずだ」
「話によると、な。他にも可能性があるかもしれないが、そのときは継承者が現れるまでだ」
瀬野は何度目かも忘れたコーヒーを口に入れる。
暖かい。いつもなら心が和らぐはず、なのに何も変わらない。考えているせいか。
「それにしても、瀬野」
「なんだ?」
「随分とここも静かになったな」
瀬野は孫に言われ辺りを見渡した。
「ああ全くな。オペレーターを抜いて、今は半数が怪我人だからな」
「喜納司令も逝ったみたいでな……」
さっきの彼女に運ばれ、緊急治療室に運ばれたらしいが……遅かったか。
「そうか……。また、友人を無くしたよ」
「……俺もだ」
二人は目を合わせると、互いにコーヒーの入ったコップをぶつけた。