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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
確率のカウントダウン
23/25

20、始まりか、終わりか―5



「――そこまでだッ、リトラクター!」


 援軍として隊員たちが駆けつける。

 瀬野たちだった。

 すでに、全員が硬い装甲に覆われ実体化したリトラクトアームを向けている。

 チラリと、リトラクターは彼らをみるが興味は湧いてこない。それよりも俄然として手に持つ人間のほうが興味をそそられる。

 早く答えを聞きたい、そう感情的思考が駆け巡る。それ以外はリトラクターにとっては邪魔だった、仲間だろうと。


 瀬野はリトラクターの手にぶら下がる人間に気づく。確認をする。

 『Earthese』のジャケットを着ている。戦闘員……? 回収されようとしているのか。

 瀬野はその顔をのぞいた。瞬間、瀬野の感情は怒りへと変わる。一瞬で沸点を超えた。


「貴様ああああああぁぁッ!」


 だが瀬野が真凪を持つリトラクターに触れることは叶わない。

 新たなリトラクターが横から入ってきたのだ。

 他の仲間をみるがどれも食い止められて、行けそうなものは誰一人といない。


 危険をとして進むか。しかしそうなると、他の仲間が危険に陥る。一体一、これを崩せば戦局は一気に後転する。こちらが不利になるのは目に見えた。

 進もうとする足を歯を噛み締め、その場で留まるように抑えた。

 今なら取り戻せる、だが自分にその力がない。


 また見逃すのか俺は――


「真凪をどうするきだッ! リトラクター!」


 互いに武器を交えながら瀬野は尖った声で尋ねる。


「…………」


 返答はしない。喋れる、だがしない。答える気はなかった。

 リトラクターは自分がいま手に持つものを再度確認する。


――真凪。そこにいるやつは確にこいつのことを真凪と言っていた……真凪か。


 必死でこちらを見ながら何かを言っている地球人をみる。それほどなのか、お前という人間は。仲間を困らせるのだな。

 手に持つ「真凪」と言う人間を抱え、リトラクターは背後にワームホールを開く。


「リトラクタァァアアアアッ!」


 瀬野は感情にまかせ叫ぶ。だがお構いなしにリトラクターはワープホールに一歩、また一歩と中へ入っていく。


今なら――この距離ならッ!


 目の前のリトラクターの攻撃を受け流し力任せに武器を振るう。敵をなぎ倒すと瀬野は姿勢を低くし一刺しで仕留められるよう迫っていく。


――間に合え……間に合えええぇぇええッ!


 シュッと何かを切り裂いた。切り裂いた場所には何もない。手応えも感じなかった。

瀬野の攻撃は惜しくもワープホールが閉じた虚空な空気を切り裂いただけに終わる。

 瀬野が見たのは真凪の生きた顔ではなく、閉じる瞬間のリトラクターのヘルムからみえた不気味な微笑み。それが根強く瀬野の脳内に焼き付いた。


         *


「隊長……あれって本当に……」


 瀬野の部下である口之世はリトラクトアームを振った。正確には地面に転がる彼らの体液を振るい落とした。現在被害はない。誰も死んではいない、だが……


「確かにあれは真凪だ。俺が言うんだ、間違いない」


 苦くも見逃す。もう一歩早ければと瀬野は力強く手を握っていた。


「ではあれは――!」

「あいつはリトラクターに連れて行かれた。その事実は変わらない。あっちで生きているかもしれない、死んでいるかもしれない。それは残念だが、あいつの運しだいだ。俺らが分かることじゃない」

「分かることは――」


 と瀬野はポツンと血にまみれた地面に置かれたペンダントをみた。銀色の星が散りばめられたようなペンダント。

 その時計の内側には実里とか言った女性とのツーショット写真が貼られていたはずだ。いやいや撮ったような写真で、真凪は苦笑いしながら映っていたのが印象的だった。


「真凪が命を掛けて守ったものを無くしてはいけないということだ……」


 瀬野は置かれた時計を手に取ると腰のポーチにしまった。


「瀬野さん。これからどうします」

「分かるだろ、戦うんだよ。目の前の奴らとな」

 口之世は瀬野の首が向く方向をみた。

 黒い人型の物体がうようよとこちらに向かってくるのがみえる。


――数は五十。いや、それ以上いるかもしれない。


 見たくもなかった。だが現実と向き合わなければいけない。自分が隊員に志願したときから。


「丁度、俺たちにも援軍がきたしな」


 背後で着地音が複数する。

 こんなときに援軍? いったい誰が……?


「待たせたな瀬野」

「早いじゃないか孫栄。お前にしては上出来だ」


 透けたヘルムから顔が見てとれた。顔の彫りが深く、独特な人種さを醸し出していた。

孫栄と呼ばれる男は腰に二歩のコンパクトにした槍を携えている。

 彼はそのうちの一つを手に取ると変身した。

 槍が通常サイズ(一メートル)の大きさになる。


「どうだい仲間さんは。敵さんと互角かい?」

「それはどうだか。人数による」

「ざっと百は連れてきたつもりだが……」


 数字を聞き瀬野は耳を疑った。

 百と言えば丁度この日本に配備されている『Earthese』の隊員数とほぼ変わらない。

 いや仮にそうだとしても百はすぐに招集はできないはず。


「安心しろ百人力だ、人数じゃない。腕に自身のある奴だけ連れてきた」


 瀬野は言われ孫栄が連れてきた仲間の顔をみた。確に歴戦を通した隊員たち、名前と顔が一致する。これなら背中を安心して預けられるものだ。


「それよりうちの若きエースはどうした? またいちゃついているのか」


 と瀬野に冗談交じりに聞きながら、孫栄は辺りを見渡す。

 見渡し終わるよりも沈黙が答えを出した。


「…………、」

「一歩遅かった、か……」


 俯く瀬野の表情を分かったように孫栄は言った。


「その分までやらないとなッ! なんたって俺は『Earthese』日本本部最後のエースだからな!」


 孫栄は高らかに宣言する。

 それに意義を唱える人間もまたいた。


「笑わせるな。俺が、だッ!」


 互いに見合う。どちらも本気だった。


「いいだろう、孫。そこまでいうのなら勝負だ。どちらが多くあいつらを倒せるか、そしてどちらがエースに相応しいかを賭けてな」

「面白い勝負だ。一度オマエとはしてみたいと思っていたところだ」

「ただし死んだらこの勝負は無効だ。エースの称号は死んでいない片方になる、それじゃあつまらないだろ」

「わかっているとも」


 孫はヘルムの下で笑うと手に力を込めた。

 同時に瀬野も大剣を持つ右手に力を込める。


「では勝負としようか、瀬野ッ!」

「終わる頃にはその笑みも消えているだろうよッ!」


 瀬野と孫が先陣を切ると味方の隊員たちもそれに続く。

 リトラクターも瀬野たちと同じタイミングで地面から脚を離した。


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