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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
確率のカウントダウン
21/25

18、始まりか、終わりか―3

連続だ~


 喜納さんと実里はもう行ってしまった。

 真凪は自分の感情のせいだと決めつけながら急ぎ廊下を駆け抜ける。

 途中瀬野に真凪は出会う。 

 ペースを落とした。だが時間がない。失礼だと思いながらも通り過ぎようとする。

 瀬野は真凪の様子を見ると察した。


「協力者を集めて行く。だからその間まで耐えろよ!」


 瀬野は真凪の背中を押す。

 再び走り、真凪は五六エリアへのワープゲートに入っていった。


 五六エリアはもはや大惨事になっていた。立ち込める雲は黒ずみ、見渡す限り煙が昇っている。

 敵の位置は大差変わりなかったがそこに三体が集結していた。

 まずい状況。

 よく見ると敵の赤い点は、自軍の緑色の点と交わったり離れたりしている。


――司令と実里が戦っている!


 分かるとリトラクトアームを腰から抜いた。


「リトラクト!」


 すぐさまアームは日本刀のような武器に変わり、その身は硬い装甲板に覆われた。


「待ってろ二人とも!」


 真凪は近場の高い建造物に飛び乗った。

 辺りを見渡す。間もなく火花が散っているのが目に映った。


「あそこか! 行くぞ蓮火――『一の太刀』ッ!」と、いる方向にむけ構え放つ。


 真凪の体が瞬間、ぶれる。残像が複数みえ隠れしながら近づいていく。

 数秒後。真凪は目標の頭上にいた。

 リトラクターは目の前の敵を排除しようと夢中になっている。

 こちらに気づくことはまずない。


「ヤアアアアァァア!」


 リトラクターの頭目掛けて蓮火を振るう。

 不意を打つ。リトラクターはこの攻撃には対処することはなかった。

 頭から胴体にかけ剣先が閃いた。ボトリと生暖かい塊が落ちる。


「まず一体……」

「――真凪くん!」


 敵の攻撃を防ぎながら実里は振り向く。


 危険だ――


「『二の太刀』!」


 すぐさま真凪は次の行動をする。

 再び真凪の体がぶれる。しかし今回は違った。

 複数に増え始める。数は五。

 残像だがそれはすべて真凪。傷つけられれば傷が付く。

 ただ素早いだけの攻撃だと自負している。一体に対して、これは効果がでる。


「――!」


 リトラクターは最撃を防ぐが、次の攻撃には反応しきれなかった。

 二擊、三擊とダメージを負っていく。

 体にいくつか傷を付けると、鈍くなった体に止めと心臓を突こうとした――


「なに?!」


 既のところで剣先が止められる。何かに止められた。

 動きの止まった真凪の体を狙い、喜納が相手をしていた一体が即座に向かう。

 身構える。あいつは瀕死。見えている状態なら対処できる。

 しかしその間に実里が入りこむ。丁度、敵の軌道内。それはこちらも同じだ。

 俺が防げないと思ったのか。


――なぜ入ってきた!


「やめろッ、実里!」


 実里は返事をせず、間もなく位置につこうとしていた。

 今なら間に合う。俺が実里を突き飛ばし、あの攻撃をかわす、できるはずだ。

 真凪の足が動く。同時に背後の物体も動こうとしていた。


「やあぁあああああ!」


 喜納が後方から迫ると大剣で真凪の背後にいたリトラクターの首に向けて放つ。

 スパッと切れ味よく風とともに物体をきった。

 リトラクターは力を失くし前のめりに血飛沫を吹きながら倒れる。

 今なら! と真凪は思ったがその頃にはすでに、敵の手が伸ばせばとどく範囲だった。

 技を使おうとも考えた。だがあれは使えない。近すぎる。実里にも刃先がいってしまう可能性がある。 


――間に合わない……! 


 そんな考えたくもない考えが脳裏を巡っている。


「――これを使え」


 駆け寄った喜納がいう。

 その手にはリトラクトアームが握られている。

 これを使えと。喜納さんの言うことが理解できた。


「で、ですが……! これを使うと司令はもう一生……ッ!」

「いいんだ真凪。君が愛する人を失っては、私は見せる顔がないよ」


 リトラクトアームにはある特別な能力が備わっている。所有者に限定したものではない。

 空間を移動すること。それは誰にでも使える能力。

 使うことは簡単。だがデメリットが大きい。

 持ち手の能力が一生使えないこと、つまりは戦えなくなること。戦士としての終わりを表す。一回きりの大技。


 『断空』


 そう呼ばれている。使うことで念じたもののところまで、その物体自身が攻撃または防御を命令のまましてくれる。

 奥の手として知られているものだ。


「さあ頼むよ、真凪。俺の最後の仕事だ。見送ってくれ」

「…………わかりました」


 喜納が差し出す大剣を真凪は空いた左手で受け取る。

 真凪は実里のことを念じた。

 間もなくアームは消える。

 次にその大剣はリトラクターの首の後ろに現れた。

 命令したのは攻撃。死神の鎌の如く首を刈り取る。

 リトラクターは実里に力なく掴まるように倒れた。

 大剣は願いを叶えると地面に落下。音を出し終わったことを知らせる。

 願いを叶えた武器は金色の粉になり、微かな風にのり散っていった。

 

「ありがとう、拈爬……」


 喜納はそう呟くと静かに倒れた。リトラクトスーツが解除され、元の人間の姿になる。

 そっと真凪は抱き抱え、地面におく。

 周りにはもう敵はいない。ヘルムのスイッチを切り、顔をだした。実里もそうしている。


「実里!」


 走って迎えに行くと互いに抱きしめ合う。

 数分といなかっただけなのに、数年間いなかったように感じさせる。

 愛くるしかった。


「恐かった、恐かったよ……真凪くん……!」


 実里は真凪の体に顔をうずめながら涙で彼の乾いた鎧を濡らした。

 

「もう大丈夫だ、終わったんだ。終わったんだ……もう……」


 真凪が目をむける方向には温もりを無くしたリトラクターが転がっている。

 三体。全てを駆逐した。だがこれは始まりだ。あちらからの警鈴。

 これからが始まりなのだ。一刻も早く準備と早急な対処をしなければ。


「実里歩けるか?」

「歩けるよ!」


 返答を聞くと真凪は鼻で笑った。

 元気そうだ。怪我もない。


「さあ司令と帰るぞ、家へ。長くいると面倒くさそうだからな」


 実里が手をつないでくる。初めてではなかったがこの時はなんの違和感も感じない。


「いいでしょう、帰るまで」

「知らないからな。また色々と言われても」


 二人はお互いに顔を合わせると微笑んだ。

 しかしそんな真凪たちに神は微笑まなかった――


「――聞こえるか真凪、そっちにデカイ軍勢が向かっているッ! 数は数十、見たことない。大きな大戦になる。お前らは至急――」


 プツリと音声が途絶えた。

端末の問題? それとも電波障害か……こんなときに。


「おいどうしたッ、おい! 応答しろッ」


頭部の電子端末をコツコツと何度となく叩くが答えは変わらない。

途絶えたまま。

あいつらの仕業か。以前はなかったはずだ、そんな報告。


「どうやらまずいのが来るらしい。いますぐに退却するぞ」


 重い表情をしないように気づかいながら、いつもの調子で言う。

 これ以上彼女に心配をかけたくなかった。


「そうね。じゃあ一刻も早くここから脱出しないと」


 

「――はて、それはどうかな? 地球人」



 声のする方に反射的に首がまがる。声の主は地球の言語を喋っていた。悠長のように聞き取れる。だがそいつは人間ではないはず、ありえてはいけないこと。


「なぜ……貴様が……貴様が喋れるッ――リトラクタアァァアア!」




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