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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
軌道線上の戦士達
17/25

行間 リトラクター  


「どうでしたか? クロムハーツ」


「どうでもないさ、だけど前よりは楽しめそうだよ」


 ワームホールから帰ると、ゼッケンハーツが待っていた。

 彼は僕と同じハーツの一人だ。同じように喋れれば力も使える。

 だが彼が待っていたことは不思議だった。報告を素直に待っているかと思っていた。


「ほう、楽しめますか。それはあなただけ、の話ですか。それとも我々全員が、ですか?」


「全員楽しめる、そう感じたね。まぁあ数に限りがある、僕はもうお気に入りは見つけた」


「抜けがけですか?」


「抜けがけなんて、そんな言い方はよしてくれ。なんだったら一緒でもいいけど、君のことだ、断るのだろう」


「はい」


 一言そういった。

 ほら、言うと思っていたよ。


「それで、どうして今日はこんな場所にいたんだい?」


 ワームホールの転送場所は自由にできる。自分もしようと思えば、先のように使える。だがあれはあっちだけの話だ。こちらではしようとは思わない。決まった場所にいつも帰ってくる。


「早く聞きたかった。……私には興味がありました、あの地球に、そしてその鍵たちに」


「ふーん。君らしくないね、興味を持つなんて。君の口からその言葉が出るとは思わなかった」


「そうでしょうかね、私はいつも通りだと」


「感情は人を動かす、それが今の君に相応しい、ゼッケンハーツ」


 自分があの地球人に、興味を持ったのは事実だった。その言葉は自分に通じ、またこの世界の戦士ならば、同じ境遇になることだろう。


「感情……ですか」


「君のことだ、欠落とまでは言わないがそれに近いと思っていた。怒られても、君は反省するだろうが、そいつに対して怒りの感情を石粒一つ持つことはないだろう?」


「自分はそういうものですから」


 この答えだ。この一点張り、ここから発展したことはない。

 だが、今日ならばそれは違うかもしれない。自分の口から興味などと言った、探究心をくすぐられた今なら、もしかしたら明かすかもしれない。


「もう少し内面を明かしたらどうだ、お前は何かを隠しているように思われるぞ」


 謎が多いのは、バレットハーツに続く。あいつもあいつで謎深き男だ。何を企んでいるか、分からない。そのため注意深く、慎重にあいつとの行動の場合は心がけている。

 あいつにも興味はあるのだろうか。


「この際です、何もかも話しましょう。戦闘ももうすぐ控えていますから」


「あ、話してくれるんだ」


「意外ですか?」


「まぁあね。さぁあ話してくれたまえ、着くまでには大体話し終わるだろう」


 ここからあの場所までは、約十分。それまでには終わるだろう。終わらないほど溜めている可能性もあるかもしれないが。


「いいですが、これから向かうのですか?」


「いつものことじゃないか、自分はひとまず報告をするだけさ。君も用があるのかい?」


「私は、どうでしょうか。あったかもしれません」


「自信がないのか?」


「あるないの問題はなく、私は思い出せないのですよ。思い出せばキッパリと言えます」


 ゼッケンハーツは至って普通だと考える。おかしい部分はある、かけている部分もあるが、中身は普通だ。……と今まで思っていたわけだ。記憶障害まであっては普通ではない。


「大丈夫なのか? ホントに」


「大丈夫ですとも、これぐらいは。明日には思い出します」


「明日じゃ遅いんじゃないのか。実行するのは今だ」


「私はそうとは考えません。明日もその人物がいればいいことですから」


「へぇ~、やっぱオマエの考えは理解できん」


 腕を頭の後ろで組んだ。

 その人物がいなければこいつは記憶の再生が無駄になるわけだ。こいつの記憶は一体どうなっているんだ、過去の戦闘データもあるのだろうか。


「それより私の内面をお話しましょう。暇でしょう、到着するまでは」


「ああそれもそうだな」


 広がるのはただ崩れ去った黒い大地。出っ張りが様々で、アクセントをなんとなく出している。目立った建造物は真っ直ぐ行けばある、いつもの場所ぐらいだ。それ以外、この場所に建造物などない。気がつけば、自分はここにいたのだ。アダムとイブのような状態だ。   

 あいつらのように、建造物が多く人々による賑わいもない。

 静かだ。いつも静かで、落ち着く。ここが自分の世界だと教えてくれる。

 黒く冷め切った大地、そこが自分たちの住処だ。


「まず私について何かご質問がありますか、何でもお受けします」


「そうだな……」


 いざそういうわれると、言葉が浮かばない。

 お前はどんな性格なんだ? 大体それは知っているな。オマエの武器は、それも知っている。

 あ、だがあれは知らない。


「オマエの名前はなんだ」


 本名は誰にも言わず、仲間でも名称でしか呼ばない。そういう決まりになっている。名前をいったところで、別にいいではないかと思うが。

 これも忘れていれば意味のないことだ、それに答えたくないといえばいいことだ。これはルールで決まっている。だから……。


「私の名前は――」


「そうか。なら私も答えるとしよう――」


 お互いに言い終わる。どちらも聞き覚えのない名前だった。

 やはり言ってもいいことだ。なぜ隠す必要があるのだ。


「他には? ありましたら答えますよ」


「そうだな。それなら好きな言葉はなんだ」


「言葉、ですか。……難しいところを」


 顔は見えないが悩んでいるな。

 これまたここのルールで、顔をみてはいないことになっている。それゆえ、仲間の前では顔を隠して行動する。仲間なのだからいいじゃないか、と名前と同じことを思う。


「私は静と動ですかね」


「理由は?」


「私にとって静とは我が心、動とは我が身を表しています」


「今の君なら逆じゃないのか。その静と動の対応する場所が逆のように思えるが」


「そうですかね、他人から言われてみないとわからないこともあります。なら、そうとっておきましょう」


 ピンとはこなかった。静と動。それが彼に相応しいのかは不明だ、もしかしたら自分なのかも。まあ、所詮は言葉だ。どうでもいいか。


「クロムハーツ、あなたはどうですか」


「奇と偶。その言葉だけさ。私は先の戦いでも、この奇と偶だった。相手は偶然のことに驚き、私は奇妙な奴らに出会ったそんなところだ」


「奇妙、ですか」


 と言えど、奇妙なほどではない。言葉を合わせたまでだ。

 突然の出力の上昇、あれには驚いた。こちらにもそれらしき機能が備わったものはある、私もそれを保持している。だがあれは未熟なものだ、完成形ではない。


 きっとだ、あれに関わった奴はこっちを知っている。そうでなければあのような真似はしない。わざわざ場所を知られるような真似。バカか、それとも私たちを倒そうと……。


「奇妙だったさ。彼らは不思議とそう感じさせた」


「前回と同じではないので」


「前回は前回。それは別世界だ。今度はややこしくなりそうだ」


「ややこしく、ですか。我々にとって?」


「そうかもしれない。心配はいらない、今の状態では本体を出すまでもない」


「本体など前回も出すことはありませんでした。私は残念になり、思わず自ら赴こうとしましたが……」


「私が止めた、オマエの片腕をもぎ取ってな。反省はしている。しかしオマエといい私といい我々は回復速度が以上に早い」


 クロムハーツは以前に強引にもぎ取ったゼッケンハーツの右腕をみた。何かわりない。プランプランと今も動いている。


 この体で致命傷と言うことは一度もない。感じてみたいと思ったことはあった。あの戦いで私はあの一撃を受けていても、私は立っていたことだろう。そして繊細な腕を使い、殺してしまうだろう。


 いつもの作業だ、ルーチンと言っていい。前回も前々回も、変わり映えなく思考が動いている。それは自分だけではない。他の五人も同じことだ。


 戦闘を求めている、激しく腕を、脚を動かし、血液が煮えたぎることを。

 戦闘狂なのだ、我々は。戦闘が生きていると教えてくれる。


「謝る必要性はありませんよ。私たちは恩恵を受けているのですから」


「恩恵か……果たしてそれが良いことなのか。私は戦っていて思うよ。この体は確に特別、死は尊きものだ。死までは一生歩こうが、走ろうがたどり着けない。例え、自分の身を己自身で滅ぼそうとも」


 片手をみた。適当に動かした。うねうねと指が命令したことを実行している。


「死にたいので? 私は死にたいですよ」


 クロムハーツは目を丸くして彼をみた。

 変わったものだ。あいつも僕も。最初はそんなことは思わなかったはずなのに。

これが三百五十五回の別世界への渡航だからか。もううんざりなのかもしれない。いい加減、解放された方がいいのかもな。


「死にたいか、それをあいつの前で言ったら望み通りにしてくれるぞ」


 イグシストハーツ。あいつはこの中、ハーツでは一番の力を持っている。

 以前に仲間同士で戦いあった。デスマッチだ。あいつはそこで一番だった。

 力の証明は既に証明済みだった。


「それもそうです、ですが我々同士殺しあっても死なないのが落ちです」


「これも恩恵だろうな、神様万歳だ。バンザーイ」


 僕は両腕を挙げた。これをあちらでは降伏と示すらしい。

 あちらの知識情報は全て収集済みだ。知らないことは、あの武器とあのスーツぐらいだ。それもこれから明らかになる話だが。


「私もしてもよろしいですか?」


「いつからオマエは僕の部下になった? 違うだろ、力が決まっただけで他は平等だ。したければすればいい、やりたくなければやらなくちゃいい。違うか」


「それもそうですね。私はつい、あなたのことを上だと思ってしまう。自分の罪に対する精算でしょうかね、それももう守らなくてもいい。とは言っても、この口調は変わりないですが」


「バンザーイ」


 ゼッケンハーツも腕を挙げた。それに合わせるように僕も挙げた。

 中々シュールだ。頑丈なものをきて、高度な武器を持っている二人が何もいないところで降伏のサインをしている。これをあちらですればどうなるのだろうか。少し興味が持てた。


「心が晴れました」


 腕を下げた。僕も元の状態にし、楽にする。


「これぐらいで晴れるのか。オマエはやっぱどこかおかしいな」


「私はそれで構いませんよ。さあ、もうすぐです」




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