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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
軌道線上の戦士達
16/25

15、遭遇―2


「ッて、ふらっと来て立ち去るはずが、俺はなにちゃっかりともらっているんだか」


 帰路の中で、くろざしすみはふと呟いた。

 手には先程の男から渡されたものが、握られている。


 自分は一匹狼だ、思ったことは自分でやる。他人の手をかりない、例え死ぬことになろうが。あの後悔は一度きりが、自分に丁度いい。


「なになに――」


 紙の内容をみる。

 ただ単純に、一言書いてあった。


「『台風は移動する』、なにを意味している?」


 あの男のことだ、何かしらの意味があって渡したに違いない。そしてこの情報は、子供たちのことであり、その未来にも繋がっている。重要な役割だ。


 台風が移動するのは当然だ、ある条件下で発生し移動する。そして被害を出した後、再びある条件で消える。それが台風だ。

そのように、何かを多分言いたいのだ。

子供たちに関係する何かは、条件下で生まれ移動する、そして被害を出した後、別の条件下で消える。


 移動する何か、それが関連しているのだろうか。

 施設が移動するはずも……いやどうだろうか。飛行機や船、ということもある。それならば合うには合うが……どうもそれらしいとは思えない。

 あいつのこともある。そう単純ではないだろう。飛行機や船など、それは自分でも出せる情報だ。いつかはたどり着く、この情報もだが。


「まあ大体わかったところで、今日はこのへんで帰るとするか。任務も、今日はあったことだしな」


 黒冴知は明るい街の方へ向かっていた。今度こそは、正真正銘帰れる。


 だが、その後ろから付いてくる気配に気づくことはなかった。

 しかし、黒冴知は気づいていた。追跡者がいることを既に感じ取っていた。


内心、今日は疲れる日だと思いながら黒冴知は振り向こうとはしなかった、相手が出てくるのを伺った、襲ってくるそう思い待ち構えていた。


 襲ってこない。


 依然として、気配は消えていない。付いてきている。今ならまだ行ける、被害を最小に、これ以上行けば街に入る。それまでに――


「どこだ、襲ってこいよ! 俺が目的だろ! 姿を現したらどうだ!」


 振り向くと黒冴知は言った。返事は聞こえず、静けさが代わりに答えた。

 不思議と、振り向いた時には気配が消えていた。


――逃げた? いや俺を狙おうと、あわよくば殺そうとしていた


 殺気を感じ取っていた。それは慣れたような、あいつらのようなもの。戦闘好きの奴らの殺気だ。


 冷静になり、感覚を研ぎ澄ます。


 リトラクト・スーツを着ている、だが使用するほどのことではないと判断した。

 相手は人間かもしれない。深傷を負わせる気はない。

 一人だけだ。

 それなら、この身一つでどうにか出来る。


――どこだ、どこに隠れやがった……。


 右か、左か。


 目で確認する、そこは茂みだ。隠れるにはうってつけだ。

 だが、この通りは一本道。襲うとなれば、どこからでも襲える。

 茂みを見る必要はない、襲撃者は先程まで堂々と後ろを歩いていた。

 姑息な手は使わないはずだ、と慢心ながらそう考えた。


 前、後――いないとなれば――!

 

 瞬間、上を見上げた。いるのなら頭上にしか有りえない。それはもう人間ではない話だ。

頭上には月明かりに照らされ、黒い人型のシルエットがくっきりと浮かんでいた。


 人の形をしていたため、判断が遅れた。

 あれは人間ではない――リトラクターだ……! 

 警報は、連絡は――そうだ。ここには何もないのだった。あるのは、武器と防具。フッ、戦え る装備だけは一端に揃っているな。


バッ! と空気をなぎ払う音が力強く聞こえた。


 こちらが気づくのを待っていた。

 気づいたのが分かると急降下、武器を一直線に構え貫くように黒冴知にむかう。


「クソッ!」


 俺があれにぶっ刺されるまで、残り何秒か。五秒もないかもしれない。だが、片方だけなら間に合う。運試しだ。ここで死ねばそれまでの人間、ただの悪として終わる。死ななければ、良い悪となれかもしれない。


 黒冴知はアームの方ではなくスーツを優先した。

 体が電気を帯び、光を出した。

 その光はこの近郊ではあまりにも明るく、先程の土手からでも目視できるほどだった。

 それを見ようが、リトラクターの動きは減速することはなかった。


 ヤバイな……これは――!


 硬いコンクリートの地面に衝突する。けたたましい音がそれを知らせた。

 粉塵と破片が舞い上がる。白い煙が二人を包んだ。

 煙の外からは未だに、どちらの姿もみえない。生きているか、死んでいるか。


 風が吹き抜ける。


 そして二つのシルエットが浮かび上がる。


 あ、危なかった……!


 黒冴知がしたことは単純だった。当たる瞬間、上体を少し引いたのだ。貫通することは免れた。代わりに、胸部に痛々しい傷ができた。まだ熱を帯びている。あの一撃をくらっていたら、やることをする前に確実に死んでいた。


 ひとまず、自分の賭けには勝った。しかし、まだ終わりではない。ここを切り抜ければ賭けに勝ったことにならない。


 煙の中から黒冴知は強化された脚部で後ろに飛ぶ、ひび割れた地面に着地する。

 アームに触れる。アームが変形し、二つの刃を並ばせた剣が現れた――センーハバキリ。それがこいつの名前だ。全長80センチ、刃はそれぞれ40センチある。


「お前さん、リトラクター……だろ?」


「…………」


「どうだ、何か返事したらどうなんだ」


 あいつらは喋れない。だが、何かしらの会話する手段を持っているとされている。

 耳は聞こえるのか、それも分からない。だが音には反応する。聞こえていれば、戦闘好きのあいつらだ、こちらに攻撃を仕掛けてくるなりで反応を示すだろう。


 と、思った通りリトラクターは反応した。

 それは予想の斜め上をいった。


「……初手で紳士ぶっていたらかわされ、さらには煽ってくるなんて……。全くなんて奴だ。ここの人間の敷居の狭さがよくわかる」


「しゃ、喋っている……!」


 驚きのあまり、口が先に動いていた。


 当初は仕掛けてくるとばかり考え、どうするかを考えていた。

 それも、あの一言でぶち壊された。


「なに、その反応? まるで僕が喋れないみたいじゃないか」


 青年のような声でしたリトラクターは言った。

 頭部は覆われているため、その顔は見えない。人間のような声をしていても、その姿が違う可能性がある。


 どうやら、いつも知っているリトラクターではないのかもしれない。

 それとも奴らは元々喋れたのかもしれない。

 この場でそれはどうでもいいことのように感じた。


「いや意外なもので、つい反応してしまった」


「それもそうだろうね、僕たちが現れたのは最初だけ(、、)だから。そこからは来ていない、代わりに来ていたのは、ただの人形たちさ」


 人形――それは今日も戦っていたあのリトラクターのことだろう。

 あれを人形、俗に玩具と言っている。

 それならこいつは――


「人形か、あんな凶暴で強いのが人形なのか」


「え、そうだけど……どこかおかしい?」


 こいつ、正真正銘ッ! ……リトラクターで間違いない。話がぶっ飛んでいる。

 戦うべき相手、だがいつものやつとは違うことは分かっていた。

 体の装甲の感じ、武器の手応え。あいつは違う。

 先の言葉もある、それならこいつは“特別な奴”と考えるのが妥当か。


「いやおかしくない。俺がおかしいンだ」


「フッ、何を言うかと思ったら謝罪かい」


 リトラクターは兜の下で笑った。


「ああそうだとも、これからお前を倒すからな。倒したあとにお前の顔を見て懺悔なんてしたくないからな」


「フフ、自信たっぷりだね」


「そういうもんだ、さもないと俺はお前のその武器には勝てない」


 リトラクターは手に持つ武器を目線の位置に挙げた。

 全長一メートルと半分はあるとみえる。奴の身長にとどきそうなほどだ。


「これかい。これは確にいつも君らが見るものとは違うものだ」


 黒冴知は自分が知っている中であれは槍のように思えた。

 見ていくと槍というよりも太く、全身が鋭く尖っていることがわかった。


「見たところ、槍みたいだな」


「それは言葉としては合っている。だけど、違うね。量産されたものとは違うよ」


「量産ねー」


 頭に浮かんだのはよく目にするあいつらの黒い武器だ。形状はそれぞれ異なるが似ているものだ。


「あれが量産型なのか。まぁあパターンが何通りかしかなくて、この頃は飽きてきたが……どうやらお前さんのそれは、専用武器みたいなもんか。俺たちと変わらないな」


 リトラクターが今度は黒冴知の武器をちらとみた。


「見たところ、君が言うとおりだ。あながち間違ってはいない。……だけどそれは僕たちのとは質も強度も、発揮する力も違う。この武器は僕たちのみに許された神聖なものさ」


 再びリトラクターは己の武器に目線を移した。

 まるで自慢するお坊ちゃんだ。


「何かも上を言っているのか。そんな単純な情報量も少ないそれが、か?」


 黒冴知は少し馬鹿にする。お坊ちゃんには聞いておきたいこともある。

 あれは見たことのない武器だ。情報はこれから力となる。手こずっては、以前と同じだ。  同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。


「情報量なんて、それは外から見ただけの飾りだよ。中身は今見ている君だって分からないだろ? 真は中さ」


 真は、か。中にあるものが重要なのか。そして外見は飾り、か。全く困りそうだ。外見だって、まだわからないンだからな。

 まあ、聞きたいことは聞き出せた。あとは適当に流すとしよう。

 あわよくば、別の情報を。


「そんなところまで俺にいっていいわけ? 俺はこう見えて、お前らの敵だ。その敵に教えて、後で叱られるンじゃないのか。だってお前らってたくさん(、、、、)いるンだろう」


「喋れること――僕みたいなことができる奴にたくさん(るび)とは相応しくない、洗練された……そう。精鋭(、、)と言ってくれたほうが嬉しいね」


 やっぱりこいつは特別だった。それも精鋭、か。面白い。


「嬉しいのか。なら言ってやる、精鋭のお仲間に怒られるぞ」


「それはない。僕たちは仲間に一切の口出ししない、そういう約束なんだ。――何をしようがね……」


「へぇ~……ならこの地球を単独で滅ぼうとしても何も言われないンだな」


 思い付きでそういった。


「そ、それは流石に口出しされてもらう! この場所は未来を決めるために重要な場所なんだ! 誰にも譲る気はない!」


 思ったよりも食いつきが良かった。

 これは何かまだ、隠されたことがあるのだろう。


“未来を決めるため重要な場所”


あいつらは所詮人間と考えている。それなら二十数年前に人類は滅んでいてもおかしくはない、なのだから別のことが奴らを止める役目をしているはずだ。それが何かはまだ掴みも、存在も知らないが。


『クロムハーツ。いつまで遊んでいる?』


 どこからか声が――その方向はリトラクターがいる場所だった。

 クロムハーツ、それがあいつの名前なのか?


「……あ、そうだった」


 思い出すように、ふと呟いた。

 すると、その相手の言うことを聞かずに途中で切った。


「切っていいのか、お前にとって大事なんじゃないのか」


「大丈夫、大丈夫! 帰ってからお菓子の一つでもあげれば許してくれるやつだから。それよりも――」


 クロムハーツと呼ばれたリトラクターは武器を握り直した。刃先を、黒冴知に向ける。


「戦わないと。僕はそのために来ていたことを忘れていたよ」


 それを思い出したのかよ、と内心ツッコミを入れた。

 あいつが武器を構え直したせいか緊張感がなくなっていた空気に、徐々に空気が張り詰めてくるのを感じた。


 黒冴知も武器を握り直した。


「なぜ俺と戦う?」


「君が偶然にもここにいたから、じゃダメかな?」


「呆れるリトラクターだ、敵ぐらいえら――」


 言う間もなく、敵はこちらに迫っていた。

 敵は踏み込み、咄嗟に出した武器が交わる。


――なんだッ! ……これは、押されているッ?!


 火花が舞う。力を加えるたびに、それは激しさを増していく。

 このままでは力押しで負け、隙を作ってしまう。どうするべきだ。


「――どうだい? 僕の力はッ! 恐れたかい? 怖いかいッ!」


 口調がガラリと変わった。もはや戦闘に夢中になっているようだ。

 目を離したら死ぬ。このまま一瞬力押しをやめ、後ろに飛ぶか? 

 それとも、機能を使うか? あれは一度も実戦では使っていない。

 これをバラすのは死ぬ間際と決めている。この状況だ、使うことも想定に入れないとな。


 ひとまずここは――。


 火花を挙げる武器を二刀に変形させた。

 黒冴知の武器が二刀になり、両手で片方を掴む。


 相手に隙が出来た。

 スーツに強化された脚部で勢いを付け、腹部に跳び蹴りを入れた。


 敵は威力のあまり一メートルほど吹っ飛ぶ。

 だが、すぐさま体勢を取り戻す。足を地面につかせる。地面が割れていく。


「今のどうだ。油断したか?」


「――いやわざと君の攻撃を受けた」


 蹴りをいれた場所は少し黒ずんでいた。しかしそれだけだった。これで倒せるとは思ってはいない。倒せれば楽だったが。


「わかったことはあるか? 俺は強い、俺は強いって」


 あたかもリトラクターに称賛するように黒冴知は促した。


「今のだけじゃ、判断しかねる。だから次は――」


 向かってくる。そして大きく跳躍した。

 あの形からして、今度生きていたら奇跡だろうと悟った。あれは初撃と似ている。


 やっぱ使うしかないか。とっておきなんだが――


 動きがあった。

 黒冴知の腰の大部分の装甲が外れ、忽然と消えた。

 その下には小さな装甲だけが残っている。

 消えた装甲は黒冴知が事前に設定していた場所に現れた。

 と、両手の手の甲に被せるようにそれぞれ付着した。


 そして武器を一つに戻した。


 カキンッ! 金属が弾ける音が聞こえた。

 再び交わった。やはり勢いを付けていたこともあり、あちらが優勢だった。

 やっぱり使わなきゃ死んでたな、と内心笑った。


「――このままでは君は死んでしまう! 死んでしまうぞッ! それでもいいのかッ!」


「死ぬわけには……いかねえぇえええぇぇッ!」


 手に付けた装甲からスラスターが点火した。装甲の裏側に付いていたのだ。

 さらに、他の部分からも火が吹き出す。


 これを黒冴知は《出力全開フルブースト》と呼んでいる。己の身体能力が一時的に上がる。飛ぶまではいかないが、瞬発力は凄まじく、今までの攻撃力の数倍が出せると予想している。 


 全身だった。全身――頭部以外の全ての部位から点火が確認される。点火がさらに加わる。その数三十。

 こちらが少しだけ、押し戻した。まだ力は出していないほんの少しの出力だけだ。予備動作にすぎない。


「へえぇ! こんなことができるのか! だがもうひと押し足りな――」


「――あるんだよおおおぉぉおおおおぉぉッ!」


 出力を上げた。油断している今だけだ。


一回きり、外れれば次はない。確実にこれしかない。これにかけるしかない。

 両手で強く振り絞り、目の前の敵めがけ斜めに切り放った。

 止められる、だが止められない。甘く見すぎたな。


「――フッそんな攻撃ッ! あッ、ああああああああああああああ!」


 敵の胴体を真っ二つに切断した。


「まだ……死にたくな――」


 手をこちらに差し向ける。その前に奴は爆散した。


 最後の叫びがアレとは、随分と哀れだな。せっかくの真とやらをみたかったが、見ていたら自分はここにはいないのかもしれない。本当の力はどちらが上か、それもわからない。


「ふっ、甘く見るからだ」


「確にそうだった」


 すぐさま頭上を見上げた。倒したはずの相手がそこにいた。


 手応えはあった、現にあいつは死んだ。だが、浮いているやつは百パーセントあいつに違いない。あの銀色と茶色を混ぜたような色合い、そして兜の独特なあのギザギザ。もう一体いる可能性もある、だがさっきの奴は真とやらを見せずに死んだ。


 振り返ると、力を試すとか言っていた。それが本当なら……俺は偽物を切った、ということなのか……。


「慢心だ、これで二回目だ。反省しよう。次はこちらもきちんと相手をしよう。また会えれば、の話だが。……それまで生きておいてくれよ」


「待てッ!」


 ワームホールが開いた。

 あいつは間もなくそこに入った、ホールは姿形なく空から消えた。


「消えた……か」


 スーツ、アームを解除した。

 黒冴知の体に傷はなかった。疲労のせいか体が重く感じた。


「《出力全開》はやっぱり奥の手だな……疲れちまう。さっきので約四十八パーセント、倒すので、だ。偽物で約四十八パーセントが必要となると、本物はその二倍とすると九十六パー……か。オーバヒート寸前だな。今回はどうにかなったが、次はないかもな。……ッへ、死んじまうかもな……次は」


 黒冴知はポケットに手を突っ込んだ。何かあった。いつぞやのレシートか、と取り出すとそれはチリ紙だった。一言だけ言葉が書いてある。


「……訊きそこねたな」


 忘れていた。ヒントをもらっていたンだった。


“台風は移動する”。


 残念ながら、今の疲れた自分の脳みそでは到底考えも生まれない。


「もしかしたらあいつらの方が詳しいのかもしれなかったが、帰ってしまっては仕方ないな。さあ、帰るとしよう! 夜は……あれ? 食ったんだっけな? まあ、近くで食べればいいことだ」


 そんな予想を黒冴知はしていた。

 気分を立ち直すと、明かりの積もる街へと姿を消した。


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