12、正義の理由―3
「着きましたぜ」
見ると駐車場のようにみえた。その中は一台も車は停車していない。
停車する場所には、白い線が滲んで見えた。
後ろを見るが、あの二人と彼女はついてきていない。
「彼らなら置いてきましたわ。大丈夫です、ああ見えて守ることだけは得意ですから」
「そ、そうなのか……」
様子を見かねると、男は近づいてきた。
殺される?!
真凪が行動を起こす前よりも、男の方が早かった。
その迷いの晴れない顔に平手打ちをくらわせる。
「さっきまでのあの顔はどこへいった! 何戸惑ってんだよ!」
そっと、くらった右の頬を触った。
痛みはしなかった、だが今もボヤけるな感じに襲われている。
「…………」
「ここだから、二人だから言ってやる。あんた――」
真凪は目を見開いた。
その言葉で現実に戻された。考えはまとまってはいない。
「ハハ、やはりバレていましたか……」
「なんだその口は!」
男は真凪の胸ぐらを両手で強引に掴むと、自分の顔に近づけた。
「俺はあの時の、お前の顔ヅラみてサシで本気でやりてぇと思ったンだ! やっと相手が見つかった、そう思った! だが、今の顔は俺と戦うには弱すぎる」
胸ぐらを離した。
「この勝負はすまんがなしとしよう」
そう言うと男は駐車場を出ていこうとする。
――このままでは彼女はどうなる? 殺されてしまうのか。
その時だけは考えがまとまった。男の背中に声をかけた。
「彼女はどうなる」
「勝負はいま、なくなりました。状況は勝負を仕掛ける前に戻ります。ですので……」
「彼女を……殺すのか……!」
「作用です。どうぞ、そのお高い武器で守るために殺すといい。ですが、人間を殺せますか? 今のあなたに」
男は振り返る。
「なんだ……と」
「あなたは今、大きな決断の中にいるはずだ。その顔を見れば、よくよく私は知っていますよ。決断、それが今のあなたを惑わしている」
「決断……だと?」
「ええ、決断です」
男は両腕を広げた。
「今のあなたには二つの決断がある。一つは彼女を見殺しにする。もう一つは私たちを殺すことだ」
「それは違うッ! 俺はそんなことは何も……」
「なら、なぜためらうンです! 私を切ればいい、私は彼女を殺そうとする悪だ。正義はあんただ――『Earthese』の隊員さんよぉ、正義の執行者であるあんたが、俺たちを裁かなくてどうする!」
「…………、」
どうすればいいのか、今の自分にもそれはわからなかった。
自分は『Earthese』の隊員の真凪透だ。リトラクターを倒すそれだけが使命だ。だが……果たしてそれだけなのか。それだけが俺の使命なのか……? 人間を守ることが、第二の名分である。それなら、人間から人間を守ることも使命なのでは。弱きものを守ること、それもまた隊員である自分の使命ではないのか。
今の状況はまさにそれだ。俺はその立場にいる。判断を下せるのは、自分だ。守れるのも自分しかいない。
「俺は……俺は……『Earthese』の隊員だ!」
「そう、そうです! あなたが正義、私が悪だ! 私はあなた方が戦う奴らと同じだ、人間を殺す。それを止められるのはあなただけだ!」
男の興奮状態が戻ってくる。
「どうやらこれで勝負ができそうですわ。何度もすみませんが、受け入れてくれますかね?」
「ああ、受けてたとう」
「……その答えを待っていた……!」
男はカッターナイフを投げる。放物線をえがき、それは真凪の前の地面に刺さった。
それを引き抜くと、手に持つ。
「どちらかが勝者になり生き残る。もう一人、敗者は死にます。ですからここで自己紹介としておきましょうか」
男は櫛を取り出すと、乱れた髪の毛を直した。
姿をみると、別人のように真凪の目には映っていた。
「私の名前は深旁暮尾元東部情報局員、今では『Earthese』の一部ですが。色々と面倒事を作ってやめたンです、それから現在はチンピラですわ。恥ずかしながら、自分にはこの仕事があっているンですわ。部下を率いて、何かをする。それこそが自分がしたかったこと何ですわ」
深旁は一度口を閉じる。
真凪はその言葉に心当たりがあった。――東部情報局、それは隠密に存在していた残留自衛隊員で結成された特殊部隊。独自の情報網を駆使して、いつかは『Earthese』に一泡吹かせようとしていた。だが、その夢も終わった。
内部告発、誰かが裏切ったことそれが夢の終わりだった。東部情報局の全員は「自分らに罪がある、裁くなら我々を捌け」と言葉一つ譲ることはなかったという。罪を消す、ということではないが『Earthese』はその能力をかい、スカウトし情報収集員として彼らをスカウトした。勿論、全員。『Earthese』はこのことが世間に知られることを恐れたためだったと言われている。
現在に至る話だが、今でも彼らはその一部としているらしい。
彼はその生き残り、だがやめたのはスカウトされる前だ、と真凪は不思議に思った。
「おっと言い忘れていましたわ。いい勝負にしましょう、お互い悔いがないように」
深旁は戦うもの同士、と手を差し伸べる。
「俺は言わなくていいのか」
握る前に真凪は尋ねた。
「あなたの素性は大体わかりますわ。『Earthese』の隊員、そしてこの場所に現れたこと――まあ、何のことかは問い詰めませんが理由はわかりますわ」
ちらと、深旁はリトラクト・アームと呼ばれるものをみた。
「誰かを探す、そのためにわざわざ人がいないこの場所に来た。違いますか」
「違うね。俺はパトロールをしていた、偶然にも女性が襲われている場面を目にしただけだ」
真凪はそういった。どぎつい視線が今も真凪に注がれている。
「パトロール、確かにこの頃は物騒だ。工場が爆発したり……ね」
その瞬間、真凪は深旁の顔をみた。視線に深旁は肩をすくめた。
もちろん、反論してバレるような真似はしない。しかしこいつは、分かりきったように言っているように思える。
「ああ、確かに物騒だ。だから自分がそれをしているンだ」
「へ~、そうですか。その割にパトロールをする隊員さんはあなた以外に見かけませんでしたわー。ハハ、何かの間違いでしょうか」
ニコリと不気味に微笑む。
「間違いだな。俺のほかに三人がこの辺りを見回っている」
「そうですか」
深旁は外の空を見ようと、動きながら言葉を続ける。
「私は以前の職柄か、情報網には詳しいンですよ。その専門家から、と言ってはアレですがここ二十三年、街の警備と言うのはリトラクターつう侵略者が現れたら、お兄さん方が守る仕組みになっています。ですが、それがいない時。人間という侵略者に対しては誰が対応するのか、「警察」などという組織はもうありませんから、ここで登場するのがあなた方の別の部類――「管理人」です」
深旁は空に目を移す。
「管理人」――それは街を仕切る、管理するグループ。犯罪、問題、事故など、元々の」警察」がしていたことを対応してやっている。武器は殺傷から非殺傷まである。
名高い『Earthese』と言うこともあり、どれも円滑にものは終わる。
「「管理人」がいる限りあなた方は不要な存在に近い」
背を向け、後ろで手を組みながら言った。
「珍しい、とでも言って欲しいのか」
「まあそうなりますわ。ですがあなたは……。これ以上はやめておきましょう! そう、やめておきましょう!」
そう言いながら向き直り、真凪の方を向くとパンパンと終わりのように手を鳴らす。
「俺に情報でもくれるのか?」
「いやいや、次の爆破が一時間後に予定されているだなんて……っあ……!」
咄嗟に手で口を軽く被せた。
言ってしまった、と言うことは感じない。ただ、わざとらしいと感じた。
「素直に俺がその人物を探しにきたンだと、言えばいいのに」
「言ってしまっていいものかと思いましてね、まあ本人が言うのであればそれはもうどうでもいいことでしょう」
深旁は開き直る。
「いや、まだよくない。どうしてわかったンだ?」
真凪は興味を惹かれ、口を挟んだ。
「簡単な話です。あなたのお友達かはわかりませんが、その人物は必ずと言っていいほどに、爆破予告をするンです。この施設を爆発させる、壊す、とね。道理が通ったやつだと、見ていて呆れましたよ」
「その人物が、か」
「ちゃんとした情報です。疑ってもらっても構いません。が、あなたがそれを止めるのならば信じたほうがいい、ということだけです」
「それなら早く済ますとしよう」
「まだ知らないことが一つ――あなたの名前です」
「おっとそうだった」
真凪はせっかくだ、と変身した姿をみせた。
深旁は警戒するかと思いきや、「ほおー、間近で見るのは初めてですわ」と呟いた。
「名前は真凪透。『第09機動・殲滅小隊』の所属している隊員だ。歳は二十五歳」
いらない情報か、深旁は軽く鼻で笑った。
「よろしく頼む」
今度はこちらから差し出した。
「こちらこそ、よろしく頼みます」
深旁は真凪の手を握った。思ったよりも、手の厚みがなかった。
「そのままやるので? 私にとっては大きなハンデですわ」
苦笑する深旁に指摘され、自分が変身したままだと気づいた。
「おっと! そうだった」
このままやっては、彼の満足はしない。自分もだ。圧倒的な力では、さっきの彼らと変わらない。
変身を解いた。
「意外と、「隊員」というものはカッコイイものですな」
「私もカッコイイから入ったんです。カッコイイことは悪くない」
「単純な理由だ」
深旁は緊張がなくなったのか、笑った。
「それで入隊とは!」
「ハハ、全くです」
言った真凪もそれにつられて笑った。
「さあやるとしましょう。あなたもそれを望みのはずだ」
「ああ、全力でやろう!」
お互いに指定された武器を持つと、こういった。
「「本気の戦いを――!」」
それが合図となった。
先に仕掛けたのは深旁だった。
「ハアアアアア!」
真凪の懐に入り込んでくるや、そのナイフをクルリと回すと逆手持ちにした。
切りつけてくるか、真凪も同じ行動をする。だが、深旁の方が早い。
切りつけるとみせて、右足を使った攻撃だった。タップを踏むように、左足で一歩踏むと、右足を真凪の右足へと振り回した。それは見事に、膝の裏側に当たる。
「――クッ!」
呻くよりも、崩れそうになった。
こちらも、と真凪は痺れている右足に力を入れながら踏み込んだ。
「ハアアアアアァァア!」
勢いよく左腕をズバッと放った。
深旁は一歩、あれから下がったこともありうまくその拳を受け止める。
シュッ! 真凪はカッターナイフを唯一持てる左手で塞がれた右手の開放に掛かった。
その縦の一撃は深旁の腕の服を切り裂いた。その下から、血がドロっと見え始める。
離そうとしなかった。これは真凪にとっては誤算だった。
深旁に次の行動を作らせてしまう。
力押しで深旁は掴んだ右手を引き寄せた。
思わずその力に油断して、グイッと引かれる。
だがあえて利用する。真凪はその腹に膝を入れようとした。
ガッ! 相手も同じ行動をした。膝がぶつかった。
「考えることは同じようだな!」
「お互い様だ!」
ここで深旁は掴んだ手を離す。
バランスをかけていたせいで、 真凪が前のめりに倒れそうになる。
すかさず深旁はカッターナイフで切りかかるのではなく――後ろに飛ぶと放った。
――あぶねぇ!
ほんの数ミリ横のところにカッターナイフは通過した。右の頬にズキズキと痛みがしだした。
かすり傷だ、どうってことはない。
あいつは今、素手だ。刺突できる武器はない、だが油断していれば、あいつはそこを見逃さないだろう。マウントでもされれば、俺に勝ち目はない。
真凪の思ったとおり、深旁は素手の攻撃を仕掛けてくる。彼にとっては、それしかない攻撃だが深旁にとってそれは一番得意なものだった。
右、左、とボクシングのようにパンチが飛んでくる。それは訓練された動き、一瞬たりとも隙がない。
真凪は防御に徹するしかなかった。両手を使っての防御、視界も遮られている。
「どうだ! その程度かッ!」
つかさず深旁は左のパンチを繰り出すと利き腕の右腕を使いアッパーで決めにかかった。
それが裏目に出た。
真凪は触れるか触れないかの瀬戸際の中、ここで賭けるしかないと決心をした。深旁からは普通の姿勢に見えるように微かに半歩引いていた。
――顎に触れなかった……だと?
深旁は頭を金槌で殴られるような感覚に襲われた。
真凪の右ストレートがめり込んでいた。右、右、怒涛の二連発が放たれた。
思考がボヤけた。だがそれ以上に、思考が一新された気がした。
真凪は今にも深旁にタックルを仕掛けて一気に決着でもつけようとしていた。
そう来るか――!
深旁にとってここで出来ることは片手で数えられるぐらいにあった。その中で、不正な方法意外だとひとつしかなかった。
深旁はタックルを選択、結果として取っ組み合う形になった。
勝つには、足で崩すか、力押しで勝つかの二つに一つだ。
「さぁあどうするンだ、隊員さんよおぉ!」
深旁は力押しを選択した。
「俺は勝ちますよ! ……勝ってあの人に……真実を聞かなきゃいけないンでねえええぇ!」
真凪も力押しで倒そうとした。
ここからはどちらが強いか、工夫をするかが決め手となった。
「ハアアアアアアアァァア!」
「ハアアアアアアアァァッ!」
どちらも譲らない。体が動くこともない。
汗がダラダラと、その戦いの激しさを語っていた。
そんなことに気にすることはない。彼らはお互いに見つめ合い、隙ができないかと伺う。
それが続いた。気の緩みが、彼らにとっては死だとわかっていた。
だが彼だけは、そのルールじみた行為を無視した。
真凪透。真凪はピンチをチャンスに変える、そんな男としても知られていた。自分以外諦めかけている、そんな状況でも諦めない。敵に倒されそうになる時も、何かないかと策を巡らす。それが真凪透だった。
「――ッ!」
目を白目にさせた。現状況による――戦意喪失。それに相手が気づくことを誘った。
白目にしても、決着はつけるよな。
思ったとおり、力が緩んだのを見逃さず深旁は押した。
倒れる。だが、その瞬間にクルリと位置を変えようと腕にこれ以上ない力を込めた。
「――何ッ!?」
驚きで深旁の声がもれた。
位置が逆転する。それは勝負の終わりを表していた。
ドタンッ! 鈍い音がした。深旁の背中が地面に着いた。
すかさず、立ち上がれないように首元に乗る。真凪の足は、深旁の両腕を押さえていた。
足では流石に筋力がどうあろうが、この体重では立ち上がれない。
あがこうと、深旁は足を起こそうとした。しかし上がるのは下半身だけ。足で 真凪を掴もうともするがそれは叶わなかった。それでも何とかして、脱出を試みている。
「これでおしまいだ」
真凪は深旁の首筋にナイフの刃をそっと当てた。それでも血が姿を出した。
引こうとすれば、彼の命はない。
「俺の負けだ。さあ、殺せ。勝負はお前の勝ちだ、敗者は死ぬ、そういうルールだろ。勝者は素直に、やるもんだ。同情をあまり誘わない方がいいぞ、お前のためだ」
「……………」
自分の勝ちで間違いない。ここから逆転することは自分が負けを認めることだけだ。
俺に深旁という男性を殺せるか。情報をくれた、だがそれだけじゃないか。深旁は、女性を数の暴力で襲っていた。それに自分は介入した。しかし、今の彼はそんなことをする人間に見えない。何かから目を避けるために、あの時は薬を使っていた。そうではないのか?
真凪は憶測だがそう考えると、深旁をみた。
今にも反撃をしそうな力を持った目をしている。
「あの時……お前はどうだったんだ」
「あの時?」
「記憶にないのか、女性を襲っていただろ」
「ああ、あれですか。襲いましたね、私たちは。罪を犯した、数の暴力をした。れっきとした犯罪だ」
その言葉は寄せ集めて言ったようにも、真凪は聞こえていた。
「なら俺はお前を殺したほうがいいのか。お前は死にたいのか?」
「ヘヘ、勝者がそれを聞きますか。ええ、死にたいですとも。殺せるものを持っているなら早く殺して欲しいものですわ」
目線は真凪の武器を向くことはなかった。ただ一点に、真凪の目を向いていた。
「なら殺そう――」
首元に置いたナイフを引いた。それは正確には顎下だった。余分な皮、それを切った。
感覚として冷たい金属部分を置いたことによる錯覚。
深旁はまるでそこにあるような気がしていた。
そのために、引かれた時には息が止まった。
感覚がまだ残っていることに気づくと、目を見開きしなかったことに苛立ちを覚えた。
「なぜ殺さなかった貴様ぁ!」
掴みかかろうと腕に力を入れる。上下に動く。その腕は押さえられていて使えない。
「お前が生きることに値したからだ」
「なんだとッ!? 戯言を!」
「戯言じゃない!」
力強くそういった。
「お前は生きなきゃいけない。死んでもいいのはその後だ」
「どういうことだ……。俺に生きろというのか?」
「そうだ! お前は生きなきゃいけない」
「理由はなんだ」
「自分で考えろ」
サイレン音が近づいてくる。
「どうやらここがバレたらしいですわ」
「そのようだ」
真凪は深旁の体から、立ち上がった。
「こんなことをしたら、反撃してあなたを殺しますよ」
「知っているさ。君はそんなことはしない、勝負は守るたちだろう」
「ハッ、どうでしょうね。私は気分、ですから」
「気分か、お笑い様だな」
微笑むと、真凪はまだ立ち上がらない深旁に手を差し伸べた。
それを素直に、深旁は握った。
深旁は汚くなった体を簡単に払い落とす。
近くだ。車両から降りる音が聞こえた。
「私が時間を稼ぎましょう」
重い腰を上げるように、深旁はいった。
「いや俺がやろう。お前のその状態じゃ無理だろ。勝者なりに命令させてくれ」
「ヘッ、カッコつけちゃって。だがあなたはここにいてはまずい。あれでも同業者、と思ってはダメだ」
ハンカチを取り出すと、傷跡を拭った。
「ダメ?」
いくらそれは言い過ぎだと、真凪は思うと尋ねた。
「危険だ、ということです。仲間とは言えど、同じ釜の飯も食ったことのないやつ。信用は出来ませんからね。ハハッ、経験談ですけど耳を貸してくれれば……」
「わかった。だが気をつけろ。お前一人ではどうにもならない、だから隙をみて逃げるんだぞ」
「わかっていますよ」
体の前で右腕を当たり前だと言うように振った。
「それよりもあなたも。出過ぎた真似はほどほどに、その仲間の方にあったならば言っておいてほしい」
「あの人は聞かないよ。己の正義には突き進んでいく人だから」
「ハハッ! 全く君といい、その人物といい話を聞かない人だ」
苦笑すると、真凪の背中を押した。
真凪は押した深旁をみた。
「さあ行け、行け! 仲間とせいぜい正義を貫いてこい!」
笑いながらそう真凪を後押しした。
真凪は頷けると、先程とは別の出口から出ていった。
「正義……か。失ったものに、何憧れを持っているンだか。ハハ、お笑いだな。俺も」
光で進んでくるのがわかった。三人いるな。
「そこまでだッ!」
最初に入ってきた場所に彼らがいた。
三人は散りながらも、深旁に眩しかろうと頭に光を当てる。取り囲んだ。
「俺に何かようだい」
眩しさに答えることなく、真っ直ぐと深旁はいった。
「通報が入った。ここで暴動が起こっている、と」
「それは誤解ですよ、管理人さん。あれは私の演技の練習ですよ」
「演技の練習だと?」
耳を疑う彼ら。床には血痕がチラホラとみえた。
「これが練習なのか?」
一人がその血痕を照らす。固まりかけている赤黒い液体。
「これを調べればお前がその演技の練習でなかったのかが、ハッキリする」
ニヤリとその言った男が頬をつり上げた。
悪人面にはぴったしの顔だった。
「面白いことをいいますね」
「ハッハッハ! 気でもくるったか!」
「ハハハ! お笑いなもので、つい笑ってしまいました」
深旁は笑い返した。
「なんだと」
「ハァ~……。それにしても君たちはバカだ、自分に気を取られ一人を逃がしてしまうなんて」
ハッとなり、リーダーと思われる人物が命令を出した。遅い。
向かおうとした男に、カッターナイフを放った。不意をつき、見事に頭部に突き刺さる。
バタンと、男が倒れた。
「貴様ッ!」
既に拾っていたもう一本を放った。銃口を向けるよりも先に、その手に刺さった。
呻く男を無視し、近づくと無力化する。
「ヒッ……ひぃ!」
残った一人は、尻込みをしながら遠ざかろうとする。
もはや戦うこともない。しかし、念の為だ。
「お前はそこの仲間を連れて逃げろ」
深旁は顎で気絶させた男を指した。
「はッ……はいッ!」
男を肩に抱えると、遅く足を引きずるようにその場から退出した。
残った深旁は頭を乱した。
「あー、面倒くさい。だが敗者にはピッタシだな」
自分に言うように呟くと、目の前の光景をどうするか考えた。
死体、血痕。どれをどうとっても、殺人現場だ。
処理する方法は簡単だった。
死体から予備弾倉を拝借すると適当にばら撒いた。それを確認すると、ライターを取り出し死体を燃やした。散らした弾丸が次々と飛び火し、みるみるうちにその証拠は火に飲まれた。
「とは言ってもこれは俺のもんだ」
火に飲まれているカッターナイフを熱さなどものともせず、回収した。
ハンカチで黒ずんだ刃の部分を拭くと、元のように懐に戻した。