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リトラクト・エネミー  作者: ヘッド・S
軌道線上の戦士達
12/25

11、正義の理由―2

「こんな時間に外出か、エース候補」


 背後から声をかけられた。

 この声は篠部隊長で間違いない。


「ハハハ、ただの買い物ですよ」


 肩をすくめながら、真凪は言った。


「そんな物騒なものとスーツを着て、か?」


 篠部にはお見通しだった。

 流石は篠部隊長だ、ならこれからすることもお見通し……かな?


「物騒、ですかね? 携帯が義務付けられているから、しているのですが……」


「フッ、ここでそれをいうか。お前にとっては戯言だろう、それは前から知っている。まさかとは思うが――あいつを探しに行くわけではない、よな?」


 篠部はかまをかけた。

彼自身同じ目的であったためだった、そして表の顔を守るためだった。


「さて? あいつとは誰のことですか? レンザンですか、愛達さんですか、原二ですか?」

 

シラを切った。バレるわけにはいかない、バレて迷惑をかけてはいけない。

 これは自分の単独行動だ。


「……フン、まあいい。それよりも、もし探しに行くのなら気をつけることだ。敵はお前以外だ」

 

そう言い放つと、篠部は背を向けた。

 やはり知られていたか。だが隊長からは、何かを意識したような感じはしなかった。


 真凪は数少ない情報をネットで拾うと、外に出た。


〟敵は自分以外〟。


 その篠部隊長の言葉は正しいかもしれない。

携帯端末により情報はすぐさま電子の海に流され広がる、『Earthese』の隊員としれば容赦なく襲ってくる人間もいる。それに、レンザンの言っていたことも気になる。


何らかが闇で動き、彼を狙っているのか?


 黒冴知がしたことはプラントの破壊、そのプラントは決まっていた。

 リトラクターを呼ぶと言われている子供達を毛嫌いする福味辛吉ふくみからきちを社長とする「福味重工」、更には唐澤享からわさとおるの「KLC輸出会社」。この二つの代表的プラント及び彼らの貿易を潰した。

 そのため今現在、他のプラント・工場を躍起になりどうにかしてでも守ろうと『Earthese』の隊員や傭兵団を呼びつけ警備に当たらせている。


 そういえばあれは関係あるのかと、ネットで見かけた情報を思い出す。

 これも彼の仕業だ、と拡散されていた。それは対リトラクター兵器を製造する工場だった。これも近頃炎上したらしく、書いた本人は理由もなしに結びつけている。


「これは間違っている」


 と言いたかった。だがそれでは火に油を注ぐようなもの、自らでネタバラシをし、逆に世間に『Earthese』は――と言われてしまうことになる。それは避けたい。


 これをやったのが黒冴知ではないとなると一体誰だ? 

一般の人間による反政府組織か。彼らがやることはリトラクターに加担するようなもの、首を絞めている。そんなバカな真似をするのか……?


 真凪はいつの間にか、大通りに出ていた。

ここではバレやすい、と路地に入ることにした。

誰もいないことを確認し、変身しようとした。


「ちょっと……! 何ですか、あなた方は――ッ!」


 別の路地からそう聞こえた。女性の声だ。


――襲われている? 


 真凪はその場に急行した。

 その場には、一人の女性を取り囲み三人の男が逃がさないようにしていた。

 明らかな力の暴力だ。


「君とは何の接点もないよ、何の関係もない友達でもない」


 リーダーのような人物がそういう。髭は手入れしていないのか荒く、髪は短髪だ。


「なら、そこをどいてくださいッ!」


「だけど君に魅力を感じた。だから、これから君を連れて行くね」


「どこへ、ですか……?」


 恐れる感情を知りながらも、声をどうにか出した。


「そうだね、君の家とか?」


「私の?」


「おっとすまない! 君じゃない。君の後ろにいる友達の家さ」


 そこには誰もいない。

 幻覚作用? と彼女は思ったがそれは違った。


「そう、確かその家は死なないといけないらしいが。まあそこは、僕らだ。丁寧にしてあげるよ」


 明らかにまずい雰囲気だ、見ている場合じゃなかった!


 武器――カッターナイフをそれぞれ取り出した。

 彼女はもう無理だ、としゃがみこみ頭を覆っている。 


「おい! そこまでだッ!」


 真凪はアームを手に持つと、変形させた。すぐさまそれは武器に変わった。


 それでも彼らは身じろこうともしない。


「あぁッ! なんだオマエは? ここは俺たちの場所だ! わかれば早く立ち去れ、命が欲しければな!」


 恐怖を知らない、いや一定的に興奮状態になっているのか。


「どくのはお前らだ! 女性を数の暴力で襲い、挙句の果てに殺す、だと? 人間失格だ!」


「へッ、なめた口利いちゃって……お兄さん。死にますよ? 生憎、自分の中に男性を解体する趣味はないンですよ。だから……」


「立ち去れ、と。やはりこれが見えていないようだな。なら――」


 サッとスライディングのように脚を滑らせ、彼らの懐に近づいた。


「へぇー、やりますね……!」


 一番近かったリーダー格の男がカッターナイフを横に振るう。

 それを上半身を反らして避けた、だがもう一つが左から来ていた。

 体をどうこうして避けられる距離ではない。


――避けられるか!?


 方法は一つだった。尻餅を付くように、地面に落ちた。

 空振りする。

 それを追撃するように、もう一人が真凪に刺し込もうとしていた。

 真凪は足を使い、持ち手を跳ね飛ばした。思わず、その手からナイフが離れた。


 まだ来るか、と真凪は身構えた。

 しかし、どちらも持ったままだが攻撃してくる気配はない。


 おそるおそる立ち上がると、ズボンの尻の部分を手で払った。


「たまげましたよ、お兄さん。できるじゃないですか! 久々にこちらも楽しめそうですわ……」


「どうです? サシで勝負、というのは。一対一、私とあなたで。もちろん、仲間には手出しさせません、もししたのなら私が責任を持って殺します、そして命が掛け金です。あなたが勝ったらこの女性を解放しましょう。その代わり私が勝てば――」


「私も死に彼女も死ぬ」


「物分りが良くて助かりますわ。あー、言っておきますが、そのドでかい武器はNGですわ。命を懸ける分対等でなければいけませんので、このナイフで」


 カッターナイフを見せる。

 刃は約五センチ。いつものようにリーチが長いわけではない。そこが注意だ。


「了解しました、受けましょう」


「その言葉、久々ですわ……。血がたぎる、何とも心地いいンだ……!」


 もはや彼に薬の効果は切れていると思えた、だがそれ以上の興奮が彼を襲っている。

 そうやすやすと、倒せる相手ではないのは間違いない。


「あ、兄貴……。仮に……あ、あなたが死んだら、私たちはどうすれば……!」


 すがるように部下の男の一人がいった。


「何くよくよしてんだ。相手の前でみすぼらしい姿を見せるンじゃねえよッ!」


 その背中に活を入れるように、大きな手のひらで叩いた。


「す、すんません! こんな意気地なしでッ! 頼りがいのない部下でッ!」


「フッ、全く頼りがいのないクズな部下だ! だから俺が率いてやらんとな」


「俺が負けたら、お兄さんの言うことをちゃんと聞くンだ。死ねと言われたら死ね。生きろと言われたら生きろ。それが俺の願いだ」


 後ろを向き、そう言い終わると真凪の方を向き直った。


 隊長がいて部下がいる、その状況はさながら自分の部隊・『第09機動・殲滅小隊』と変わらないと真凪は感じた。考えたことによって、ためらいも生まれてしまった。


 やることになったのだから、やるしかない。他人の命がかかっている。だが、自分は同じ人間を殺せるのか? 仮面を付けた人型なら何十体と屠ってきた。もしかしたら、あいつらも人間で、俺はそれを何人、何十人と殺してきたのでは? 


 真凪は自分を追い込んでいく。知らぬうちに、出口が見当たらなかった。


「そうだお兄さん、せっかくだ。場所を移動するとしよう」


 そう言うと真凪の前を歩き始めた。真凪はその後を歩きながらも己の考えを改めていた。

 こうなってはもうリトラクターすら倒せないのでは? そうなっては、人間が死ぬ。だが今の状況でこの人間を殺さなければ、彼女は救えない。


――どうする? どうする? やはり殺すか、いっそのこと逃げるか?


 頭の中を途方なく駆け巡っている。頭がおかしくなりそうだ。これを止める方法は自分にあるのかすら思い始めてきた。


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