9、黒冴知(くろざし)
「お、遅かったじゃないか」
「頼みごとには断れないものでしてね」
厚みがある椅子に座ると、椅子を引いた。
周りにはいつもの顔ぶれ、そして空席があった。
また、というとよりも今回も、か。今回ぐらいは、いて欲しかったが。いないのなら、仕方がない。
雰囲気を出させるために暗い室内の中に光というべきものは中央天井にしか置いていない。そしてその光量をわざと絞っているため、さほど明るくなく暗いような雰囲気を出していたのだった。
この会議の代表と言うべき男の顔はその中で引き締まった顔はより引き締まって存在感を出していた。北駆冲仕、それがあいつの名前だ。自分と歳はあまり離れていない、そしてキャリアもだ。
「今日は訊かないのか」
北駆は座った篠部に尋ねた。
「何を、ですか?」
当然自分に、その節はない。
「とぼけなくてもいい。あのことだ」
顎で空いた席を指した。
前回は訊いたものか、その記憶は定かでない。
「黒冴知、ですか。あの男が出ないことは重々知っていますよ」
「そうか。それなら言わなくても知っているか」
北駆が持ち出したのにはやはり理由があった。
そして議題を持ち出そうと、言葉を出さんとする。
その間に篠部は口を挟んだ。
「先程の言葉は撤回します。何があったンですか――彼に」
その言葉に周りの視線が奪われたため、彼は気を悪くした様子で仕方なくこう言った。
「それほどのことではない。ただある噂が流れていてな」
「噂、ですか? うちのバカみたいに正直に殴られたあいつみたいなものですか」
あの噂を思い出す。それと同様に、謎の血痕が見つかったらしいことを思い出した。誰のかも分からない血が付いていた、それは殴られたあいつではなく、別のやつらしいが――真相はまだ分からない。気が付く前に、ほんの一瞬の出来事だったらしいが。
「ああ、君のところのあの子か」
と、北駆も知っていたようで笑った。
黒冴知に噂など珍しかった。だが、またいつもの消息云々(しょうそくうんぬん)の話だろう。
「あの子のように彼は目立つことはしないよ。君も知っているとは思うが、黒冴知は目立つことを避けている」
「ええ、そうですが……それが関係を?」
「大いに、だ。聞くところに彼は――」
とその内容を話し出す。篠部以外は既に耳にしていた、そのため暗黙が続く。
「それが本当ならどうするンでしょうか」
「私に訊かないでくれたまえ、私はそれを下す人間ではない。強いてそれをする人間といえば……」
「「準指令か総司令」」
息も合い、言う言葉は決まっていた。
「彼はそれほどの逸材だ。簡単に判決を出して、捨てれるような駒ではないさ」
「ですが、彼がすることは正義だと、私は確信しています」
「確信、か……。それは君だけに言えるな、貫地。君の昔の部下だから言えることだ、これは君だけに限った事かも知れない。証明するすべはあるか? 私はそういった概念的なものには証明するすべはないと思うが」
正義の証明か。なんともカッコイイ言葉だ。正義は北駆の言う通り、その通りだ。証明するすべはまずないと言っていい、だがそれを証明するすべが一つある。
「一つあるぞ、冲仕。それは悪者を暴き出すことだ。それが、正義の証明だ」
「フッ、何というか君らしい答えだな」
鼻で軽く笑うと、聴き慣れたことを言った。
そこで黒冴知についての会話は終了し、会議に入っていった。