名は体を表す
ゴミ出しを忘れ妻にさんざん叱責された日の夕方、妻が私を見下した目で言った。「本当、“名は体を現す”と言うけれど、本当ね。頭山怛朗。ちょっと読み替えれば『ずさんだつろう』。あなたにぴったりだわ」
一ヶ月後のある朝、早朝、玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、妻の失踪届けを出したとき顔見知りになった私より十歳は年下の部長刑事が立っていた。傍らに若い刑事が立っていた。
「妻が見つかったのですか? 」と、私。
「頭山さんは、あなたはなかなかの役者だ」と、刑事。
「何のことですか? 」と、私。「私は本当に妻の身を心配しているのです」
「芝居はそれまでだ。頭山怛朗さん、あなたを奥さんの殺害容疑で逮捕します。あなたには黙秘権があります……」
「ちょっと待ってくれ」と、私は言った。いつの間にか私の家の前は野次馬で溢れていた。「私は妻を殺していない。私は妻を愛していたのだ!! 」
迫真だった。
そう言ってから、自分でもなかなかの役者だと思った。
「あなたの奥さん死体がL山中の林道の近くで見つかりました」
「なってこった! 妻が遺体で見つかるなんて! あの男と一緒に都会にでも行ったと思っていた」と、私。
「芝居はそれくらいにしてください」と、部長刑事。「奥さんの遺体と一緒に家庭ゴミが見つかった。その中に、あなた宛の郵便物が何通も見つかった」
私は崩れ落ちた……。それは有罪を認めたようなものだった。
「それにしても、あなたの奥さんの遺体の埋め方はあまりにも杜撰でした。恐らくゴミの日なのに出し忘れ、奥さんの遺体と一緒に捨てた。あなたにとって奥さんの遺体と燃えるゴミとは同程度の意味しかなかった。……。それに、奥さんの遺体と燃えるゴミ。あれでは直ぐに見つかり捕まってしまうと思わなかったのですか? 」と若い刑事が言った。「そういえばあなたの名前、こうとも読めますね」
その若い刑事は間を置き、ゆっくりと妻の最後の言葉を繰り返した。
「ずさんだつろう。“名は体を表す”」
※この話は私のペンネームの由来で、事実に基づいています。




