食
男。
甲州街道を上る。
食ってないわけではない。
それでも顔は浮かぬし、くわえた長い楊枝は所在なげに垂れて揺れる。
女。
甲州街道を下る。
理由は伏せるが、追われている。
のっぴきならないことに、追っ手の男どもに捕らえられ、抵抗するなやおとなしくしろや。
男、通り掛かる。
女、助けてくださいまし。
抜刀するは男ども。男、両手で白刃取ると、きええと振り下ろすわ薙ぎ払うわ。迫る凶刃かいくぐりて逆胴斬ると、返す刀で頭領を突く。鞘無し刀に興味無しと放る路傍に、男どもが累々と。
女、有難う御座います。
男、ま・いいってことよ。
甲州街道一人上る。くわえた楊枝、空高し。
おしまい
ふらっと、瀬川です。
他サイトのタイトル競作に出展した旧作品です。
行き交う人々の書かれざるドラマをお楽しみください。