5話 騎士竜人の拳
「ええい! 何をやっている! 早く撃ち落とせ!」
パリューゲン城内に響くフローレンスの怒声、魔法の扱える兵士はビクビクしながらも威力は弱いが遠くまで届く魔法を連発していた。
もっともドラゴンにそんな魔法が聞くわけもないのだがパリューゲンの人間は基本的にドラゴンをモンスターと同等、その程度にしか思っていないのでこんなことになっていた。
「ドラゴンが降りてきました!」
「何!? さっさと撃ち落としてしまえ、最悪市街地に落ちても構わない!」
フローレンスの号令で兵士達はバラバラに魔法を打ち始めた、空一面を覆うように放たれる魔法、空の上から見たそれは皮肉なことに色とりどりの花園の様だった。
リョーマは急降下しながらその花園に突っ込んだ、バルバランドの体ならばあの程度の魔法どうということはないので一応全部当たることにしたのだ。
火、水、雷、氷、土、風など全く属性を考慮しない魔法の嵐が一斉にリョーマを包み込み、大爆発――――したのはリョーマの竜魔法の『爆炎』それと『煙幕』だ。
「目くらましにはなっただろ、さて王子とやらボコしてアーシャ連れてさっさと次の国目指したほうがいいよな……『我が剣は主君の為に、鋼鱗の騎士竜人、ランスロット』」
鈍色の騎士甲冑のような形状に鱗を組み合わせた人の骨格を用いてリョーマが自作した騎士シリーズの一体である。
身長はおよそ二メートル鉤爪のような鋭い指を持ち竜人ではあるが尾はなく代わりに腰の辺りから鎖が一本垂れ下がっている。
ゲームでは基礎骨格というものが設定されていて竜人骨格には人型骨格に尾を加えた形状ではければならないという設定があるのだがこれは別に尾である必要性はないのだ。
ランスロットのように鎖だとかロープ、布や植物の蔓など材質はなんでもありだ。ちなみにリョーマの人間時の骨格はリョーマがかなり面倒な作業と高い技術力で作り上げたオリジナル骨格なので尾の設定はない。
「見ろ、どうやらドラゴンは消し飛んだようだぞ……」
見当外れな事を言うフローレンス、しかし次の瞬間――――空から物凄いスピードで何かか落下し爆音を立て城の中庭に何かが落下し盛大に土煙を上げる。
落下の衝撃で城中のガラスが粉々に砕け散る。
土煙は徐々に晴れ、そこにはクレーターのような丸い窪みが出来ていてその中心に騎士のような姿をした者が立っていた。勿論リョーマである。
「痛っ……やっぱ翼とか付けといたほうが良かったか?」
流石のリョーマでも生身のパラシュートなしスカイダイビングは少し堪えたようだが、軽く手足を動かし感触を確かめると何事もなかったかのように直立して辺りを見回す。
「おい! パリューゲンの王子様ってのはどこにいんだ?」
大声を上げるリョーマに対し兵士たちは我に返り直ぐ様この不届きものを排除しようと魔法を打つべく構えを取った。
それを見たリョーマも拳を握り構える、最も兵士の魔法は受けてもダメージを負うことはないのでリョーマは気楽だ。
そうこうしているうちに城から中庭に出て来た者がいた、そいつは如何にも王子という格好で数人の護衛を引き連れている。
「私がパリューゲン第一王子フローレンスだ! 貴様は一体何者だ! 名を名乗れ!」
護衛に囲まれながら勇ましく吠えるフローレンスを鼻で笑いながらリョーマは言ってやった。
「俺か? 俺は――――アーシャ王女の騎士とでも思ってくれればいい、そんでお前らなんでいきなり攻撃してきやがったんだ? 俺達が何をしたってんだよ?」
「やはり王女の……貴様らが我が国の花園を焼き払ったのはお見通しだ!」
唾を飛ばしながら叫ぶフローレンスに対してリョーマはと言えば。
「あー……悪かった、許せ。それじゃあ婚約の話はなかった事にして俺らは次の国に行くのであった」
責任を丸投げしてこの場から逃げようとフローレンスに背を向け歩き出す。
「待て、逃がすと思っているのか!」
怒り狂ったフローレンスは剣を抜き背後から斬りかかった、が――――剣はリョーマの背に当たった瞬間中程からポッキリと折れてしまった。
「なっ!?」
これにはフローレンスも呆気に取られ、その隙にリョーマは振り返り拳を握り締め。
「いてぇっ、なにしやがる!」
思いっきりフローレンスを顔面を殴った、その衝撃でフローレンスは護衛を巻き添えにし吹き飛んだ。
人型をしているとは言えドラゴンの肉体だ、そんな状態で思いっきり殴れば死んでもおかしくはないのだがフローレンスは奇跡的に生きている……顔は死んだも同然であるが。
「人間の分際でドラゴンに勝てると思ったのか? 千年はえーよ……『破壊と焦熱の覇王竜、赤炎のバルバランド、顕現』」
紅蓮の炎に包まれリョーマは再びバルバランド化する、それを見た城の兵士達は狂乱しながら逃げ惑う。
リョーマは翼を広げると全てを吹き飛ばすかのように羽ばたき突風を生み出して飛び立つ、煽られた兵士達が宙を舞い、頭から地面に落ちていく。
ようやく溜飲が下がったリョーマは倒れているフローレンスに唾を吐いてからアーシャの待つ遥か上空へと飛び去った。
後に残された者たちはただ、呆然としていたという。ちなみにこの二ヶ月後パリューゲンは滅び、残された領民、領地はドラガルドの庇護下に置かれた、なおこの事をリョーマ達が知るのは旅を終えてからのことだった。