3話 燃える花園
クリムゾンローズヴァイパー、ヴァルキュの花園の主と言われる伝説の蛇。
ゲーム時は名前のみしか出てこない上パリューゲンに住む老人NPCの一部の会話にしか出てこないためあまり知られては居ないモンスター。
勿論ドラガルドの王女アーシャも知るわけがなかった。
「綺麗……」
あの花がモンスターだとは思わず出た一言。
何を暢気なとリョーマは思ったがすぐさま思考を戻し、竜馬車を切り離してから結界を施してから巨大な薔薇の塊へと突進していく。
だが、相手とてただその突進を待つわけではない、地中から茨のような触手を伸ばしリョーマの四肢に絡ませ動きを封じる。
茨の棘がスレイプニルの肉体に刺さり四肢を絡め取った。
「チッ……毒か……」
茨の刺からは緑色の液体が滴っている、これはスレイプニル等の大型竜であっても数分で死に至る猛毒であった。
リョーマの竜の肉体は竜化魔法によって作られた言わば鎧のような物だ。それが毒に侵されようともリョーマには痛くも痒くもない。
しかし身動きがとれなくなったりするなど不便には違いないのだ。
「すー……はぁ……仕方ない、殺るか」
深呼吸と共に覚悟を決めるリョーマ、自分の手足を縛り付ける触手に対する一切の抵抗を辞め、一気に集中する。
魔力の収束、最早動かすことの叶わない手足、尻尾を魔力に還元しながらリョーマが使える中で最大の竜魔法を発動させる。
「我は炎成りて、大地を焼き、天を焦がし、海を干上がらす……我は天高き太陽にして地に眠るマグマ、星の息吹なり『天焼地熱の始祖竜、ヴォルケーノヴァ、招来』」
顕現系竜化魔法とはまた違う、招来系竜化魔法を唱えたリョーマ……招来系とは本来自身の姿を変える竜化魔法に対してより強力な力を持つ竜を呼び出しその身を贄にして竜化する魔法である。
そして招来の際に引き起こす現象がある、『属性変換』と呼ばれる物だ、この『属性変換』はフィールドの属性変えるというもので、今居るヴァルキュの花園は木属性モンスターに補正が入るフィールドとなっており、いくら倒しても再生する可能性の高いフィールドである。
大地が裂け、マグマが吹き出し地を焼き、日差しの強さが増し気温を高め、天と地の中間、虚空を切り裂き出現するその龍は金色の炎を身に纏い、七色に輝く翼を羽ばたかせ、真紅になるほど熱を帯びた角を振りながら大地を這うようにリョーマへと近づき、そして食らいつく。
「くっ……気持ち悪いなこの演出……」
肉を焼き、骨を砕き、血を蒸発させながら核となっているリョーマをスレイプニルから引きずり出し、飲み込み一体化する。
取り込まれたリョーマは全身の神経が繋がるのを確認するとゆっくりと目を開いた。
あの綺麗だった花園は今やただの火の海、小型の植物系モンスターは既に消し炭となっていた、そんな中一体だけ動いている者がいる、クリムゾンローズヴァイパーだ。
表皮を焦がしながらも、生き延びようと懸命にこの場から逃げようとしている。
「逃がすかよ……」
リョーマは翼を広げ、跳躍する――――それは飛行や飛翔などと言えるものでないただの滑空だ、地を這っていた点から想像もついていた事だがこのヴォルケーノヴァ想像以上に体が重かった。
招来は贄に使われた竜の重さ、体力、筋力なども加算されるため強力な竜を使えばそれだけ強力になる。ちなみに招来した竜を贄に更に招来することも可能ではあるがよっぽどの相手でもない限りそれは使うことはないだろう。
スレイプニルを贄にした為か、元よりこんな物か分からないがクリムゾンローズヴァイパーを押しつぶすような形で着地、もとい落下したリョーマはそのまま身に纏った炎で相手を焼き尽くす。
木は火に弱いという相性もあり、それゆえに何もせずに近くにいるだけでこの毒蛇は死滅する。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたよ? さっきはもっと熱く締め付けてきたじゃねーか?」
ぐっと締めるように毒蛇に灼熱の抱擁をするリョーマ、……ちなみにこの蛇は雌である。
毒蛇は、悶え苦しみながらやがて息絶え、炭化し光の粒子となりリョーマに吸収された。
「見たこともない素材があるな……まあ、見たこともないやつだったし当然か」
「つか早くこの火消さないとアーシャが脱水症状になるかもしれない、とりあえず『破壊と焦熱の覇王竜、赤炎のバルバランド、顕現』」
ヴォルケーノヴァの炎が弱まり、その肉体を切り裂き中から脱皮するようにバルバランドの姿で現れるリョーマ。
何故ヴォルケーノヴァ解除ではなかったかといえば、解除しても火の海がすぐに収まるわけでもないので人の姿になれば即焼け死ぬ可能性もあったのだ。
現に火の海状態は未だに収まってはいない、日差しは弱まったと言えそんな事は全く関係ない熱量なのでリョーマは氷竜魔法『コールドガイア』を使い消火作業を行った。
魔法で生み出した状況だけにあれだけの炎だったというのにほとんど一瞬で消えた。
「しっかし見事に黒焦げだな」
黒き大地を見下ろすリョーマはアーシャの待つ竜馬車へと戻った。
アーシャは馬車の中で眠っていた。
「全く人が苦労してたってのにこいつは……まあ良いか」
リョーマは結界を維持したまま、馬車を揺らして起こさない様抱えて飛び上がった、パリューゲンを目指して。