2話 花園の主
ヴァルキュの花園、色とりどりの花と豊かな緑に覆われる緩やかな丘。
その一歩手前に一台の竜馬車が止まっていた。
その中でドラガルドの王女アーシャは独り寂しくボーッとしていた。
「リョーマ……まだ帰ってこないのかな」
リョーマが花園のモンスターを蹴散らせてくると言ってまだ五分しか経っていないのだが、早くも待ちくたびれてしまっていた。
その頃リョーマと言えば、草むしりのような作業をしていた。
蔦を模した蛇、草に擬態したハリネズミ、葉や花を模したモンスター達を文字通りなぎ払っている、太くたくましい尾を地面に這わす様に振ることによって衝撃波を起こし吹き飛ばす。
リョーマが通った後には一本の道が出来上がっていた。だがそれでもモンスター達は果敢にリョーマに飛びかかったり、絡みついたりしてくる。
イラつきながらリョーマは尾を振り上げると大きく息を吸い込み叫んだ。
「『旋風一閃』!」
尻尾に竜巻をを纏わせ一気に振り払う竜技だ。
尾に風が収束し竜巻を発生させる、この時点で小さなモンスターは竜巻に巻き上げられミキサーに突っ込まれたかのように四散していく。
竜巻を十分に溜め込んだリョーマはそれを一気に横に払い解放する。薙ぎ払われたモンスター達は吹き飛びながらバラバラになって消滅し光のような物に変換されリョーマへと集まっていく。
ゲーム時で言うところの経験値やドロップアイテムといった素材など。
これは『風の剥ぎ取り』という竜能力で、自分で剥ぎ取らずとも勝手に素材が集まる便利な能力であり、青風竜固有能力でもある。
更に固有竜、ゲーム時では使用できたが特殊すぎて誰も育成などしなかった竜達の偽箱竜ミミックドラゴンの竜能力『体内収納』にドロップアイテム収納する。
これらの竜技、竜能力は白馬竜では決して使える能力ではない。これが『変態ドラゴン』の全ドラゴンスキル・アビリティ共有化能力の成せる技だ。
リョーマが進んでいくとたくさんの棘と茨を生やした巨躯のドラゴンが三体居た……バラールだ。
居たといっても体の半分以上を地中に隠し花の匂いにつられてやってきた獲物に一気に襲いかかるというドラゴンである。
まずは地上に引きずり出さねばならない。
「いくぜ……『トールハンマー』」
紫電竜固有技『トールハンマー』通称、「ピカピカ頭突き」雷の力を頭に蓄えハゲしい光りを放ちながら地面に振り下ろす技。
黄金の電気を頭上に収束させると頭が太陽にも等しい光源となり、それを長い首をブンブンと振り回しながら一気に地面へと叩きつける、轟音とともに地面を砕くと大地を伝わり雷撃がバラール達を襲う。
驚いたバラール達は雷撃で麻痺しつつ地表へと飛び出してきた。
リョーマは飛び出してきたバラール達を目視するとすかさず、尾を振り上げ横に薙ぎ払いながら叫ぶ。
「『斬撃波』!」
固有竜種、銀鋼竜……通称ATMドラゴン固有竜技『斬撃波』、長い尾を鋼の様に硬質化させ、一気に振り抜くことにより斬撃を飛ばす技でバラール達をバラバラにする、バラだけに。
このゲームやこの世界では相手を倒すのにHPを無くすという概念がなく現実と同じように心臓や脳といった重要臓器を破壊することによって殺すことができ、銀鋼竜の『斬撃』系はほぼ一撃必殺の技を言えるのだ。
バラールの死体が消滅し光となってリョーマに吸収される。
「花が三つに棘鱗が八つ、牙が五つに爪が二つか……まあまあだな」
花園のボスであるバラールを倒した事によってこのエリアのモンスターはしばらく沈静化される。
リョーマは急いでアーシャの元へ戻った。
アーシャは待ち疲れて眠っていたが、突然の地響きで目を覚まし、何事かと竜馬車を飛び出した。
「あ、リョーマ!」
馬車から降りたアーシャが目にしたのは巨体では考えられないようなスピードで大地を揺らしながら駆けてくるリョーマの姿であった。
「アーシャ、急いで馬車に乗って、急いでいかないとバラールが復活するから!」
ボスが復活する、それはあくまでゲームの時の話だが、こちらは違うとも限らないのでリョーマはアーシャを急かしながら自分と竜馬車を魔法で連結する。
「乗ったか!?」
「ええ、もう大丈夫よ……それより復活って?」
「あっ……ああ、いや気にするな」
アーシャとの会話でリョーマはこれがゲームではないと思い出した、何を勘違いしていたのか、この世界がゲームと同じ訳ではない。
しかしリョーマはそのことを深く考えず走り出したパリューゲンを目指して。
そして数分もしないうちにリョーマはその足を止めることとなった。
雑魚モンスターは何故か健在で、リョーマに飛びかかってきたり挙句竜馬車に体当たりをしてくる始末だ。
馬車があるので大技でなぎ払うことも出来ないリョーマは急いでその場を走り抜ける。
守護竜の竜技『イージススケイル』で馬車を保護しながら青風竜の竜技「風の道」を使い一気に駆け抜ける。
だが、それも即座に阻まれた、『風の道』は突如現れた巨大な真っ赤な竜巻によってかき消された。
「なっなんだ!?」
リョーマの顔に叩きつけるように数枚の赤い欠片が突き刺さった。
真紅のバラの花弁だ。
「バラだと……? バラールは確かに三体倒したはずだ、ならこいつはなんなんだ?」
空から雪のように赤い花弁が舞い散る。
そしてその中央、ヴァルキュの花園の丘の上に大きな花が咲いている。
真紅のバラ……そうとも見える巨躯の大蛇がとぐろを巻いて、リョーマ達を睨みつけその行く手を遮っていた。