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迷宮の創り方  作者: ホンダリアニズム
1/4

プロローグ

 

 その日の朝も別段、変わったことの無い日だった。

いつものようにセットしていた目覚ましは鳴り響かない。電車では中年の波にのまれ、足を踏みつけられる。学校に着くまでに必ず靴紐がほどける。など、この他にも色々とあるが、とにかく何も変わったことは無かった。


 下校時の一点を除いては。


 「へ? 神隠しですか?」

 たまたま電車で一緒になった幼なじみと帰宅していた。

「そそ、ウチらの学校で話題になってんの。どう思う? 高校生になって馬鹿らしいっしょ?」

「うーん、でも実際に学校に出てこないんでしょ? 引きこもりになったって線もあるけど……」

「あ、それはないね。親が学校に電話したって話やし」 

「なら家出、とか……?」

 学校からの帰宅途中で家出するわけは無いだろうけど。……荷物少ないし。

「若しくは誘拐!」

 犯すだけ犯して、あとは桜よ咲けっ!

「かもね。……ただ、学校来てない娘みんな、家とは逆方向の場所に寄り道してる、らしい」

 ふむ……、寄り道か。普段通らない道、謂わばアウトローな道でアウトロード。

やばいなんかカッコイイかも。

「ヨダレたれてんよー」

「嘘、マジで?」

「マジマジ。神隠し並みにマジだって」

「一気に嘘臭くなる、不思議。でも、神隠しについては警察動いてるんでしょ? ならそのうちに誘拐犯が捕まるよ」

 誘拐の方が神隠しなんかよりもよっぽど現実味あるし。

「対処の仕様は集団で帰るくらいかな。またね」



 この話が行けなかったのだろう。好奇心猫をも殺すってね。

 気になった私はフラフラと出歩いた訳ですよ。

そんな私を待ち受けていたのはこれでした。



「……さて、家とは逆方向に来たわけですが」

 一度帰宅したから寄り道とは言えないのではないか?

「ま、寄り道して拐われるのも出かけて拐われるのも一緒か」

 誘拐犯からしたら一人でいるのに変わり無いし。

「……それにしても結構、雰囲気あるなぁ」

 なんとなく目についた廃ビル。

 心霊スポットといっても差し支えないほど不気味な場所だ。 夕方と考慮しても、既に日はあまり射してないようで暗い。そして、反響して辺りから響く私の足音。歪に形を歪め続けている影。

「うう……。昼間に来れば良かったよ……」

 コレはビビる。不気味過ぎる。さっき携帯が鳴ったときはヤバかった、花の女子高生が年甲斐もなく漏らすかと思ったくらいだ。少し湿ってる気もするけど気のせいねっ!

 テンションがおかしくなってる。

 なんでこんなとこに入るのか正気を疑うレベル。

 ――事実。今にして思えば、あの時の私は何かに取り付かれたかのように誘われていった。

 普段ならまず間違いなく、こんな場所に一人では入らない。怖いし。

 カツーンカツーンカツーン、と私の足音に紛れて別の音が聞こえるのに気付いた。

「コレって……?」 もしかしたら誘拐犯が拐った娘を?

だとした私ピーンチ! まだ死にたくない。

対抗手段? そんなものない。携帯などという便利ツールは圏外になっ、て……て?

 いや、まて。どうして圏外になってんの? さっきまできちんと電話が繋がっていたじゃない。

 一昔前の田舎じゃないのだから、いくら地方と言っても駅の近くだし、繋がらない訳がない。繋がらなくなるなんて有り得ない、どうして?


「――ねえ、何してるの?」

「ヒッ!?」


 心臓がドクンと大きく跳び跳ねた。

 逃げなきゃ! そう思うのに足は動かない。身体も動かせない。


「ねえ、大丈夫?」


 少年、なのだろう。聞こえた声はまだ高かった。

 少年だと分かると途端に力が抜け、私はその場で座り込んでしまった。

「ほ、本当に大丈夫なの!?」

 彼が手を差し伸べてくれたので、私は立ち上がる。

 そしてお礼を言おうと彼を見たら驚き気を失っていった。――今度は漏らしながら。

 彼の背後に浮かんでいた一人の男。言うなれば悪魔。何が面白いのか口を歪めて笑っていたのを、私が見てしまうと呟いていた。


「ヨ・ウ・コ・ソ」


 酷く愉快そうに。



――――


 彼女は最期を感じた。故に思い出していたのだ、自身がこうなってしまった理由を。


 あの日突然飛ばされたこの世界で、必死にもがき思考し、積み上げたものが崩れていく。

 別に怨みなどはない。ここへ来たときに最初から分かっていたことだ。 ――早々に死ぬ、と


 それなのに他と比べて辺境の地に在り、人類が開発してくるまで、長く残っていただけのこと。


 前に散っていった仲間を思い浮かべる。

 私を守るために自らが当たりに行き、次にあたる仲間の負担を減らすため戦っていった彼らを。


 ――そして、最後の仲間が散った。



「これで最後だ! 魔王よ!

貴様らに殺された無辜の民の! 私の仲間の恨みを、ここで晴らさんっ!」


 彼女の人生は、彼がもつ剣で閉じることになる、これは間違いないだろう。何の力も持たない彼女に、仲間を散らしながらも最深部であるここへと辿り着いた彼の剣を避けることなど不可能だった。


 だけど――


「……悔しいから、最期に、置き土産…………」


 私のような人が現れないように、と。

 ここへ来て分かったことだ、拐われた娘はこうして――つまり迷宮の主として、死んだんだと。

 ただ、宙に浮かんでいた奴と、少年については結局分からないままだったけど。



「ハァァアアアアアア!」

「ッ!?」


 彼が振るった剣により私の血が辺りに散る。

 薄れ行く意識の中で術が成るのを確信した。

 必死になって習得したただ一つの魔法を……。


――――


 彼は自分たちが魔王と呼んだ、まだ年端も行かない娘を切ったことに罪悪感など無かった。魔物が民を殺し、人類に仇をなした原因の一端であるのは確実なのだから。


 その場に残るドロップアイテムを手にすることで、魔王を討った、その事を実感する。


 思えばここに至るまでに様々な人と触れあい、世界の実情を知りどうにかしたい、そう思った。

 元々魔物がいた領域に人類が入り暴挙を行なった、と知ったのはこの旅でのことだ。


『魔王を討てば地方も豊かになる。ゆえに手を取り立ち向かおう』


 どこの国の王が言ったのか分からないが、世界はこの言葉によって争いを止め、形の上では協調をした。


 大多数の者は豊かになどならいと分かっていた、この荒廃は人類の争いによって起きたものだと知っているのだから。



 魔物を斬ったところで意味はない、そのようにか感じるようになったのは何時からだったろう。

 けれども、ただひたすらに魔物を斬り進んだ。

 仲間を犠牲にして――


――


『魔王討たれる』この報せは直ぐに世界中へと広まった。


 人類共通の敵が消えたことにより、世界協調の風潮はあっという間に消えた。

 再び人が人を殺し合うそんな世界が出来上がるのに時は不要だった。

 それに加え、同属を殺された魔物や魔王が消えたことにより無法となり暴れ周る魔物が現れた。より混沌とした世界が出来上がっていった。


 この世界で彼は直ぐに殺された。

 王にとっていつ自身に歯向かうか分からない、自我を得た斬れすぎる勇者は不要だった。

 彼の死により、弱者は虐げられ、一部が利を得ること、それを止めれる力を、意志を持ち、立つものは居なくなった。

 その中で魔物は貪り、力を着け新たな魔王に為らんと、時には魔物同士で、時には国を人を滅ぼし力を誇示し合った。

 その結果は言うまでもなく、各国の土地は荒れて痩せ細り、いつの間にか空は光を見せず作物は育たなくなった。

 そこで人は迷宮に棲む魔物から糧を得ようとするが、王は迷宮を占有して利益を一部の者で独占した。


 こうして魔王と呼ばれた少女の完全ながらも不完全な術によって、向こう二百年に渡る、後世『暗黒期』と呼ばれる時代が始まったのだった。


 幾年もの間、新たな迷宮は顕れなくなり、世界が荒れ、混沌と化したのは、英雄が育つための地に変えるための副作用と言えよう。


 民は飢餓に喘ぎ、意見を言おうものならば即座に斬られ、一方で王は反乱に怯え続けた。




――


 時は移ろい、暗黒期末期――



 世界に再び迷宮が顕れたことにより経済は瞬く間に活性化した。

 一早く国の体制を建て直した国は近隣の国を滅ぼし迷宮を専有し、大国と化していった。


人類の発展は目覚ましく、二百年もの停滞していた遅れをとりもどすかのように技術が進歩した。

 その中で人は各地に蔓延っていた魔物を、旧魔王領と呼ばれる不毛地帯まで衰退させた。しかしそれだけで満足はできなくなり、更に欲を抱き、そこから何百年も続く人同士の争いを始めた。






――


 そして、

 「っ、ここ、は……?」


 また一人、新たな迷宮の主として召喚される。

 数百年間魔物一匹足りとも踏み入らなかった場所に。過去魔王が住んでいた迷宮に……。


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