光があるように 3
それから時が経ち、私も色んな経験をした。
ずる賢い人に傷つけられたり、信用していた人に裏切られたこともあった。今ならお姉さんの気持ちが少しはわかる。
あれからずっと考えていた。
お姉さんが一番信じられないのは、自分自身だったのではないだろうか。
他人を信じられなくなり、他人を疑う自分を信じられなくなった。
そして人と深くつき合うことに耐えられなくなったのだ。
お姉さんの書く主人公はいつも人を信じていた。
お姉さんは自分の作り出した主人公だけを信じ、そこでこの世界と繋がっていた。
本当は逃げ出したかったけど、逃げることも怖くて、小説を書くことで生きることができたのだ。
そんな風に私は想像した。
私も、そういう気持ちになることがある。
憎しみに似た怒りで心がいっぱいになった時、他人の醜さと自分の醜さの区別がつかなくなり、全てが嫌になってしまう。
でも、負けてはいけない。
私は、幸せな話を書かなければならない。
お姉さんの為だけではない、全ての人が絶望した時に、希望が持てるように。
そんな大それたことを考えている。
暗闇の中を、少しでも照らせたらいい。
そうして私は一方的に語りかける。
お願い、絶望しないで。
間違っているかもしれない、もっと良い言葉があるのかもしれない。
でも私はいつまでも『正解』を見つけられない。
だから呼びかけ続ける。幸せな話を書き続ける。
お姉さんがまた悲しい思いをしても、私は幸せな話を書く。
お姉さんが幸せを感じられるように、考えて考えて。
話をしよう。
とても楽しい話をしよう。
全ての悲しみを、幸せに変えられるように。
いつか誰かに届くように。