光があるように 1
お姉さんは売れない小説家で、悲劇ばかりを書いている。
どんな人も主人公を裏切るけれど、でも主人公はそれを許してしまう……そんな話ばかりを、舞台を変え時代を変え登場人物を変え、繰り返し書いている。
お姉さんは仕事相手でも知り合いでも、誰にでも同じようににこにこと優しく接する。一見愛想が良い、けど、どこか人を寄せ付けない感じがする人だな。と、お姉さんのことを誰かが言っていた。私もそう思う。
あはは、なんて声を出して笑っていてもなんとなくつまらなさそうだし、ありがとう、とどんなに感謝していても、でもあなたはここまでよ、と線引きされているような気がする。
そんなお姉さんに対して、時々距離を感じてしまう。
でも私は、お姉さんは冷たいのではなく、不器用なのだと私は勝手に考えている。その考えに根拠はなくて、私はお姉さんをとても好きだったので、良いように考えたかっただけなのかもしれない。
私はよく図々しくお姉さんの家にあがりこんでは、だらだらと時間を過ごした。お姉さんは何も言わない。私をほったらかしにして、本を読んだり小説を書いたりしている。
「ねえ、なんで書くの」
話に煮詰まり考え込んでいるお姉さんに、私の素朴な疑問を、ある時ぶつけてみた。
「生きるためよ」
お姉さんはそう静かに答えた。
生活の為だというのだろうか。
「それならもっと、お給料のいいところで働いたら」
私の勘違いに、うーん、とお姉さんはうなった。
「そういうことじゃないの」
それきりお姉さんはその話を続けなかった。
生活の為、ではない。小説を書かないと、生きていけないというのだろう。私にはよくわからない。誰も幸せにならない話ばっかり書いて、これからもずっと生きていくというのだろうか。
勝手だけど、私は嫌だ。お姉さんが苦しそうで、なんだか嫌だ。
「ハッピーエンドで終わる話は書かないの」
お姉さんの書く本を全て読んだが、哀しい終わり方ばかりだった。きれいな話で私は好きだったが、お姉さんを思うと不安になる。
「書けないの。私が書くと、しらじらしくなるもの。信じていないものを信じているように書くなんて、そんなことできない」
「ふうん」
と言うものの、お姉さんが言っていることの意味をほとんど私は理解していなかった。
お姉さんは、人を信じていないのだろう。本を読んで考え抜いて、それだけがわかった。
誰かにほめられると、お姉さんはいつも頑なに否定した。
「駄目よ、私なんか」
そうやって、自分を否定する姿もよく見かけた。
私から見て、お姉さんはいい人に囲まれて、好きな仕事に就けて、幸せそうなのだけど、何故お姉さんはいつも不幸せそうにするんだろうか。
わからない。全然わからない。
「そうね、私は幸せなのかもしれない」
お姉さんは私にそう言ったけど、口にしただけできっと本気でそう思い込んではいない。だってやっぱり寂しそうな顔をしている。
一度くらいお姉さんの、楽しくてしょうがないというような笑い声や、幸せいっぱいという自慢話でも聞いてみたい。
そんなことを考えながら、私はお姉さんにくっついてまわった。