第二夜 謎の乗り物
こんな夢を見た。
僕は大学に入学することになった。ずいぶん前に卒業したが、また通い直すこととなったのだ。
入学してすぐの今日は、入学生向けの見世物を多くやっている。サービス精神旺盛な大学である。
それと大学にしては奇妙に思える点がもう一つある。とにかく建物が大きすぎるのだ。しかもそれが2つ並び立っている。中東のどこかにこんな建物があったのを映画で見たことがある気がした。
だから移動も大変である。次の見せ物を見るには隣の建物まで移動しなければならない。だが今いるのは建物のかなり上の階で、1階まで降りてそこから歩いて向かう必要がある。目的地は隣の建物の下の方の階だからまだ早く着くかもしれないが、それにしても遠い。
仕方なくエレベーターを探そうと思ったら、おそらく学生と思われる若い女性が
「これに乗ると隣まですぐに行けます。もう出発するので乗られる方は急いでください」
と大きい声で教えてくれている。
その乗り物が何なのかはよく分からない。ロープウェイでもなさそうである。ただもう出発する、今乗らないとそのチャンスはないと思うと、その得体のしれない乗り物に不思議と乗ってみる気になった。別に急いでいたわけでもないのに、不思議な気まぐれである。
それは真っ黒な外装の立方体の機械であった。その女性に案内されて入ると中も真っ黒で、いくつかのマスにコマ割りがしてあって、マスごとに時間差で光っている。少し近未来を思わせるような雰囲気があった。
案内係の女性を含めて同乗者はあと3人しかいなかった。そして出発の前によく分からないものを渡され、
「移動中はこれを羽根のように動かしてください」
といわれた。
僕は若干パニックになった。得体の知らない乗り物の中で、得体のしれないものを渡された人間の不安を想像してほしい。
しかもその後にされた説明が、より不安を大きくさせた。鳥のように空を舞うならまだしも、なぜすでに乗り物の中にいるのに羽根の代わりが必要になるのだ。未知は恐怖であるなんていうが、この状況ほどそれを体現しているものはないのではないだろうか。
その乗り物は動いて降下し始めた。すると立方体であったはずの乗り物が縮んでは伸びを繰り返し、さまざまな形に変わっていくのが分かった。足元や壁が予測できない動きで迫ったり離れたりする。僕をはじめ誰もがまともに立っていられなかった。
そして急に黒かったはずの周りの見た目が剥がれ透明になった。それも急降下中にである。体感としては、ほぼ自分がそのまま落下しているような気になった。生きた心地がしない。行ったことがないから知らないが、富士急ハイランドにもこれ以上に怖いアトラクションはないのではないだろうか。
すると案内係の女性が僕に
「羽根を使ってください」
といってきたから、そういえばあまりの恐怖にそれのことを忘れていたと思い手に取った。
しかし本当になぜこのタイミングで羽根が必要なのだろうか。もしかして壁が透明になったと思い込んでいるだけであり、これはただ落下しているだけでその羽根がないと飛べないとでもいうのだろうか。状況があまりにも意味不明すぎて逆に僕は冷静になっていた。
僕はその羽根もどきに目をやったが、それがあまりにも小さい。人間が羽根を纏うのであればもっとサイズ感がないと様にならないではないか。これでは鷲の羽根くらいに思われる。
よく見ると小さく穴が空いている。ここに腕を通せばいいのだろうか。それにしても小さい。腕を通すにしては小さすぎる。
他の人達がどうしてるか見てみると、やはりその穴に腕を通して羽根のように動かしている。案内係の人はまだしも、他の2人はよく説明もないのにこれの使い方が分かったものである。もしかしたら乗るのが初めてではないのかもしれない。
そうこうしている間に乗り物は、とんでもないスピードで隣の建物に向かっている。このままでは激突するのではないかと思われたが、気づいたら無事に隣の建物に移動していた。どうやら助かったようだ。
隣の建物ではカエサルとクレオパトラの劇を見に行った。観客はほとんどが小学生であった。これは新入生のための見せ物ではなかったのか、なぜあの子たちは平日に自分たちの小学校に行かず大学に来ているのか、そして今更ながらあの羽根には何の意味があったのか、謎は深まるばかりである。
次の見世物を見るにはまた隣の建物に行かないといけない。またあれに乗ればすぐなのだが気が引けた。心臓に悪い。徒歩とエレベーターで向かうことにした。
ただあの得体のしれない乗り物について後で調べたいと思ったから、さっきの案内係の女性に
「この乗り物の名前は何ていうんですか?」
と聞いてみた。すると
「何でそんなこと聞くんですか?」
といわんばかりの顔で一応教えてくれた。
それは聞くだろ、と僕は思った。あんな奇っ怪な乗り物に興味を持つなという方が難しいではないか。




