サンタへのプレゼント
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今年もやってきた。
いつも12月になると、どこからともなくやってくる。
小さい店には似合わない、ずんぐりむっくりとした大きな体に、長くて白いヒゲ。
これに赤い服を着せれば、12月の風物詩だ。
子供たちに人気で、本人も子供好き。
相思相愛だと言うのに、今年はため息をつきながらココアを眺めている。
少しクリスマス用に装飾した店内には似合わない表情で、私もため息をつきたくなる。
「今年のクリスマスは、暗い顔のサンタが周るのかい?」
嫌味っぽく、彼…メルルフに語りかける。
「いや、悪いね…そんなつもりじゃないんだけど」
苦笑混じりに答える。
嫌味もそのまま答えられてしまったら、私が悪いみたいじゃないか
実はさ…と、言いにくそうに口を開く
「実は”サンタ”を信じる子供が、昔に比べて減ったんだ。」
まぁ、そうだろうなと私は思った。
科学や文明の発展。
暮らしが豊かになればなるほど、そういった夢物語のような存在は否定される。
「僕は…僕たち”サンタ”は、もう子供たちに必要ないのかな?」
疑問で投げかけてきてはいるけれど、たぶん、自分の中では”必要無いもの”だと、思い込んでいるんだろうと分かる。
長年の付き合いから来る勘だが。
「”サンタ”全員がそう思っているのか?」
お前だけじゃないのか?と暗に問いかけてみる。
メルルフは、大きい身体を丸めて眉をひそめた。
「…カペラも知ってるよね。僕たち”サンタ”のプレゼントは、”サンタ”を信じている子供たちの分しか袋に用意されない事………」
カップから熱を奪うように両手で包む。
湯気の向こうのメルルフと目があった。
今にも涙が零れ落ちそうな瞳で、こちらを見る。
「みんなさ、『軽くなったな』って、寂しそうに笑ってるよ。…このまま、誰も待っててくれない夜が来るのかな……….」
いつも陽気なメルルフが、ここまで落ち込んでいるのは初めて見た。
ここで、気休めに「そんなことない」と言っても、彼は信じないだろう。
信じられる確定的なものを見せなければ、と少し考える。
ふと、家でのやり取りを思い出した。
あれがあれば、もしかしたら…
「メルルフ、明日の夜は空いてるか?」
メルルフは、少し驚いた顔をしてカペラを見た。
「明日?もちろん空いているけど…」
「それなら明日、ここに来な。いいね」
カペラは一方的に話を切って、食器を洗い始める。
メルルフは、不思議そうな目でカペラを見るが、これ以上何も話をしてくれ無さそうなのを察して、ココアを飲みはじめた。
メルルフが帰ったあと、カウンターを片付け始める。
そこに残った微かな暖かさに触れながら、寂しそうに縮こまっていた彼の背中を思い浮かべた。
「メルルフ、明日私がその不安を軽くしてやるから。今はゆっくり眠るんだよ…」
言葉にはせず、けれど祈るように語りかける。
そして、約束の夜。
カペラはカウンターの奥で、昨日と同じメルルフの好きなココアをいれる準備を始めた。
ピクリと、カペラの耳が足音を捉えた。
メルルフが来たようだ。
カランと、ドアベルが鳴りメルルフが入ってくる。
「約束通り来たようだね」
そう言って、メルルフと入れ替わりにドアに近づき、ドアのノブに「CLOSE」の看板を掛ける。
「いいのかい?閉めてしまって。」
「いいんだよ。どうせ来るのはいつもの奴らさ。今日は茶々入れられたくないからね。」
そう言ってキッチンに戻ってくる。
「それで?今日もホットココアでいいのか?」
メルルフは、いつものカウンターの席に座りながら、少し悩んだ。
少し間を置いて、注文を言う。
「ホットココアで。ただ、今日は一等甘いのが飲みたいから、チョコソースを掛けてくれると嬉しいな。」
はいよ、と返事をして鍋に牛乳と砂糖を入れ火にかける。
「それで?他のサンタには会ったんだろ?」
鍋を見ながら、メルルフに聞く。
「あぁ、会ったよ。プレゼントの準備をしてた。やっぱり今年は去年よりだいぶ減ってるみたいだね…」
寂しそうに笑って答える。
その様子をチラリと見ながら、ココアをカップに注ぎ、上からホイップクリームを重ねる。
その上にたっぷりのチョコレートソースと、クリスマスをイメージして、アラザンやチョコスプレーをかける。
そうして、完成したココアと共に皿に今日持ってきたクッキーをメルルフの前に出す。
「これは、頼んでないけど?」
メルルフが訝しげに、カペラを見る。
カペラは、皿をずいっとメルルフの前に押す。
「いいから食べな。」
メルルフは、お皿から一枚クッキーを取り口に運ぶ。
サクッサクッ
静かな店内に、クッキーを食む音だけが響く。
一枚食べ終わる頃には、眉間にシワが寄っていた顔も、目尻が下がり穏やかそうな表情になっていた。
「はぁ……懐かしいな」
ぽつりと、メルルフは言葉をこぼす。
「このクッキーは、カペラが作ったのかい?」
その言葉に、カペラは鼻で笑う。
「私が作るわけないだろ?」
じゃあ、誰が…とメルルフは考えるような仕草をしつつ、クッキーの食べカスがついた指を口に押し当てた。
まったく、遠慮せず食べればいいのにと思いながら見やる。
キッチンの下から、一枚の紙切れを出し、それをメルルフの目の前に置く。
紙には少したどたどしくも一生懸命綴ったと思われる文字が踊っていた。
『サンタさんへ
いつもプレゼントありがとう!
お母さんと作ったんだ!
たくさん食べてね!』
一瞬、戸惑うような表情になったが、次第に目に光が灯りあの不安そうな寂しそうな背中はどこかへいき、力強さを感じる姿になった。
メルルフは、一枚一枚味わうように皿にあったクッキーを食べていく。
全て食べ終わった頃には、いつもの柔和な笑顔を浮かべる”サンタ”らしい彼になった。
彼は空っぽの皿を目の前に小声で「ご馳走様でした」と言った。
「それで、これをくれた子は何が欲しいとか言ってたかい?」
「さぁね。作ることに一生懸命になって忘れてそうだよ。」
そうか…と髭を撫でるように触り、思案している。
少しすると、椅子から立ち扉に向かって歩き出した。
「カペラ、ありがとう。」
その言葉には返事をせず、手を振るだけで反応した。
しっかりとした足取りの彼は闇の中へ消えていく。
きっとクリスマスの夜は、笑顔のサンタが見えることだろう。
そう、カペラは確信した。
そして、クリスマスの夜。
カペラは子供の部屋で丸くなって眠っていた。
微かなベルの音を、耳が捉えた。
片目を薄くあけると、大きなずんぐりむっくりとした影が見える。
それが部屋に入ると、子供の眠っているベッドに近づき、枕元に箱を置く。
そして小声で「メリークリスマス」と子供に囁く。そして、そっと部屋を出て去っていく姿を、カペラは黙って見送った。
雪に反射した眩しい光と、子供のはしゃぐ声で目が覚めた。
ふぁ〜っと欠伸をしながら伸びをして、前足で毛繕いをする。
朝の準備が終わり、子供部屋から出る。
声のする方を見ると、赤と白のふわふわがついたマフラーを子供が手にしていた。
カペラの足元に、メッセージカードが落ちている。
それに目を通すと、カペラは口の端を上げ静かに笑った。
「メリークリスマス。クッキーをありがとう、とても美味しかったよ。また来年会おうね。」




