真実の愛を証明せよ
ウィル・キヌスは、自分では“誠実な男”だと思っていた。
元婚約者フローラとは、健全な交際を育んでいたつもりだったし、触れ合いといえば手を握る程度の淡さ。
彼女の深緑の瞳に向ける笑顔は、確かに第一級の“恋”だった。
――あの日までは。
フローラを出迎えるため、伯爵邸の応接室で待っていたとき。
ふと姿を現した妹ルキナが、紅茶を胸元へこぼした。
「きゃっ……! 熱っ……!」
布地が濡れて張りつき、彼女が胸元を押さえる仕草が――
丘の上はピンク色か…
ウィルの理性に小さな罅を入れた。
(…は!…な、なんだ今の……)
その後のことは、本人もよく覚えていない。
ただ、夜になると妙にルキナの姿が思い浮かび、
健全な青年特有の“悩み事”が急増したのは確かだ。
そして数日後、伯爵邸を訪れると、ルキナが泣いていた。
「ウィル様……っ、お姉様が……私に酷い仕打ちを……
婚外子は存在してはダメなのですか……?」
涙に濡れた睫毛。
震える肩。
腕に飛び込んできた体温と香り、離れる時に一瞬触れた柔らかな――
その全てが、ウィルの脳内で甘い毒となった。
(……守らなきゃ。ルキナを)
それからは急速に彼女に惹かれていった。
フローラと語り合った静かな時間よりも、
ルキナと過ごす刺激的な日々の方が、ずっと楽しく感じるようになった。
(今日は夜会の前にデートだ……!
き、キス……いける、か……?)
顔が赤くなるのを抑えられない。
その未来を楽しみにしながら、ウィルは花屋に寄った。
そして――運命を変える。
「申し訳ありません、ぶつかってしまって」
振り返ると、息を呑むほど美しい女性が立っていた。
微笑んで手を取られ、ウィルは完全に思考を奪われた。
「……お嬢様のお名前を、お伺いしても……?」
気づけば、お茶に誘っていた。
ルキナとの約束は?
まぁ、後で埋め合わせればいいだろう。
恋は一期一会だ。たぶん。
――同刻、影からの報告。
「誘導、うまく進んでおります」
レオは姿絵を見下ろしながら、冷ややかに鼻を鳴らした。
「ふん。所詮は童貞だ」
フローラを泣かせた“真実の愛”は、
こうして簡単に、あっさりと崩れていく。
レオの計画通りに。




