夕陽の沈む部屋
後日談 ルキナ
日が傾き、窓の向こうに赤い光が差し込む。
それは決まって“あの時間”の合図だった。
(……身体中が…痛い…)
娼館に放り込まれたルキナの部屋は、
かつての伯爵邸と比べればみすぼらしく、
貴族の誇りも虚勢も、この場所では意味をなさない。
身の回りを世話する者はいない。
破れたドレスは自分で繕うしかない。
食事は自ら取りに行かねば与えられない。
洗濯も掃除も、すべて自分の手で。
けれど――
(……知らない……やり方なんて知らない……!
だって私は貴族なのよ……!)
半年。
たった半年で、甘やかされた少女は限界へ追い込まれていた。
最近は吐き気がして、
体を動かすのすら辛くなる日が増えていた。
「時間だよ」
無慈悲に響く声。
淡々と告げられる宣告。
ルキナは顔を上げる気力もなく、ただ唇を震わせた。
「ああ、そうだ。お前宛に手紙が来てるよ」
「!!」
胸が跳ねた。
手紙――ウィルかもしれない。
彼ならきっと、この惨状を知って助けてくれる。
だって、あれほど私を追いかけてきたのだから。
震える手で封蝋を見る。
黒い。
(……いや……そんな……)
開いた瞬間、世界がゆっくりと傾いた。
「……お父様……」
そこに記されていたのは、伯爵アレスの死。
返済不能となり、領地も財産もすべて他者の手に渡ったこと。
迎えに来る者は――もはや誰ひとりいない。
「……お母様は!?
お母様は私を忘れてないわよね!?
ウィル! ウィル!!
あんたは私に償うべきでしょ!?
真実の愛を捧げるって言ったじゃない!!」
叫びは虚しく空気に吸われていく。
「……呼ばれてるんだ。早く仕事につけ」
「いや……いやよ……!!
こんな……こんなの……!!」
劇場で声を響かせたあの日のように、
今日もよく 鳴いた 。
――その様子を、影が黙って見ていた。
(……報告書に今日の分をまとめて……
あの泣き顔の人相、しっかり模写しておくか……
今日の相手は…ひときわ激しいな…役得役得。)
影は静かに筆を走らせる。
かつて“真実の愛”を騙り、
他者を踏み台にした少女の末路は、
誰にも気づかれない隅で静かに落ちていった。




