通された部屋は…
通された部屋は、南向きで柔らかい陽光が降り注いでいた。
壁には花々の意匠が施され、窓から入る風はほのかに甘い香りを運んでくる。
(ここは……公爵夫人のお部屋……?
どうして……どうして私なんかが……)
フローラは胸元を押さえ、驚きと戸惑いで立ち尽くした。
屋根裏の薄暗い空気しか知らなかった彼女には、眩しすぎる空間だった。
白いカーテン。
絹の寝具。
専属侍女が控えていて、どんな要望にも応えられるよう準備が整っている。
(……夢みたい。
でも……怖いくらい……優しすぎる)
そんな静かな混乱の中――
――公爵レオ側。
レオは廊下の陰で、ガッツポーズを決めていた。
「よしっ……!」
執事長は感極まり、鼻をかんでいた。
「坊っちゃまが……ついに……!
正式に……迎える日が……!」
影は壁にもたれながら、心底安堵の息を吐く。
(ああ……“あの部屋”じゃなくて……本当に良かった……!
全方位で安全かつ優しすぎる部屋の方に通してくださって……心臓がもたん……)
レオは胸に手を当て、深呼吸を繰り返していた。
「……今夜は “初夜” だ」
執事長はすぐに姿勢を正す。
「滞りなく準備しております。
灯り、緊張を解すお香、オイルなど
主寝室を整えてございます」
影も頷いた。
「すべての逃走経路、強化しておきました。
万が一、フローラ様が混乱されても安心してお過ごしいただけるよう」
レオは微かに笑った。
「あの日、涙をこらえていた彼女を――
やっと…やっと……俺の手で…
泣かせることができる…!!」
胸の鼓動は速い。
待ち望んだ瞬間まであと少し……




