劇場は嗤う
美女を抱き起こしたウィルは、観客の視線に気づきながらも必死に声を張り上げた。
「真実の愛を……俺は見誤っていた!
運命の人は……彼女だったんだ!!」
劇場中が一瞬静まり返る。
舞台上の俳優すら、セリフを忘れて固まった。
「はぁ? ふざけないでよ!!」
ルキナの怒声が、静寂を裂いた。
頬は真っ赤、目には涙、肩は震えている。
「私の身体を見て鼻の下伸ばしてたくせに!!
急に“運命の人”とか言い出して……バカじゃないの!?」
観客席から「おぉ……」と微妙な声が漏れた。
ウィルの顔がみるみる青ざめる。
「なっ……なにを、馬鹿なことをっ……!
き、君が悪いんだ! 淑女としてまるでなっていない!
そ、それに……こ、婚外子風情が!!」
息を呑む音があちこちで上がった。
ルキナの瞳が大きく揺れ、瞬間的にしぼむ。
「……ひ、ひどい……」
ぽた、と涙が落ちた。
「う……うわぁああああんっ!!
うぇえええええん……!!
しんじらんないぃ……ウィルのばかぁぁぁ!!」
彼女が泣き崩れると、周囲で小さく囁く声が湧き始める。
ヒソヒソ
「あの方……例の後妻の娘よね……?」
「まぁ……親も親なら子も……なんてこと……」
ルキナはその声を聞いてさらに泣き、
ウィルは美女を抱いたまま蒼白になり、
美女は「や、やめてください……」と蚊の鳴くような声。
まさに泥沼。
――そして二階席。
レオは立ち上がり、惜しみなく拍手を送った。
「素晴らしい!!」
パン、パン、パンッ!!
その拍手の気品と力強さが劇場に響き、
観客たちは思わずそちらを振り返る。
舞台よりも鮮烈な悲喜劇。
“真実の愛”の崩壊は、王都中に瞬時に伝わるだろう。
レオは満足げに微笑んだ。
(さて……残るは伯爵アレス。そして――フローラを迎える準備だ)
夜はまだ、終わらない。




