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恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~  作者: 菊池まりな


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6/30

第6話 システムエラー発生

文化祭当日。


 俺──田中優太は、ついに歩美への告白計画を実行する時が来た。


 数週間にわたるデータ収集、AI解析、行動シミュレーション。すべての工程は完璧に準備した。


 歩美が文化祭で研究発表を終えるタイミング。


 そのあと彼女が向かうであろう学内カフェ。


 人混みが途切れるベストスポット。


「……ふふ、完璧だ。これぞ"恋愛アルゴリズム"の最終形態……!」


 俺はポケットの中に忍ばせた小さなプレゼントを確認した。


 可愛いストラップ付きのUSBメモリ──「勉強で役立つかも」という口実で渡す予定だが、本命はそのあとだ。


 すなわち、俺の全データと努力の結晶──告白。


朝から俺は綿密にスケジュールを確認していた。


【文化祭作戦 Final Version】


09:30 研究室到着、最終確認

10:15歩美の心理学研究発表見学(関心をアピール)

11:00発表後に感想を述べる(知的な印象を与える)

12:30 昼食時間、カフェでの偶然の遭遇を演出

13:15USBメモリプレゼント+告白実行


「気象情報も確認済み。降水確率5%。問題なし」


 俺は自信満々で家を出た。これまでの失敗をすべて糧にした、完璧なプランだ。



 心理学科の展示エリアに向かうと、歩美が白衣を着て真剣に発表準備をしていた。


「恋愛における認知バイアス研究」というテーマ。なんという偶然だろう。


「石倉さん、おはようございます」


「あ、田中先輩! 来てくださったんですね」


「ええ、心理学に興味があるので」


 これは嘘ではない。俺の恋愛アルゴリズムにも心理学的要素は重要だった。


 歩美の発表は非常に興味深いものだった。人間は恋愛において様々なバイアスにかかりやすく、客観的判断が困難になるという内容。


「つまり、恋愛感情は論理的思考を阻害するということですね?」


 俺の質問に、歩美は嬉しそうに答えた。


「そうです! 特に『ハロー効果』や『確証バイアス』が顕著に現れます」


「確証バイアス……自分の仮説に都合の良い情報ばかりを集めてしまう現象ですね」


「さすが田中先輩、よくご存知で」


 我ながら良いスタートだった。学術的な会話なら緊張せずに済む。




 発表後、俺は計画通り感想を述べた。


「とても興味深い研究でした。特に恋愛における意思決定プロセスの分析が印象的で」


「ありがとうございます。実は、身近な人の恋愛観察からヒントを得たんです」


「身近な人?」


「はい。とても真面目で一生懸命なんですけど、ちょっと論理的すぎる人がいて……」


 歩美が苦笑いする。まさか俺のことを言っているのだろうか?


「その人を見ていて、恋愛も研究みたいにアプローチしてる姿が面白くて」


 完全に俺だった。俺は研究対象にされていたのだ。


《Warning:自身が観察対象となっていることが判明》


「そ、そうですか……」


「でも、その真面目さがとても素敵だと思うんです」


 歩美は優しく微笑んだ。これは好感触?それとも同情?




 しかし。


 自然は、俺の計算に従ってはくれなかった。


「……え?」


 空を見上げた瞬間、大粒の雨が降り始めた。


 しかもどんどん強くなっていく。


「ま、まさか……!?」


 俺のノートPCの画面には、事前に作っておいたシミュレーションが映っている。


【前提条件:晴れ】

【リスクファクター:雨天確率5% → 無視】


「そんなバカな……雨天確率を切り捨てた……だと……!?」


 雨は容赦なく降りしきり、通行人は一斉に傘を開く。


 歩美の姿も、傘に隠れて見えなくなった。


「システムエラー……完全に狂った……」


 俺は立ち尽くした。


 全身がずぶ濡れになりながら、ポケットのUSBを握りしめる。


 告白のチャンスは、雨に流された。




「……田中さん?」


 ふいに声がして振り向くと、そこには山田静香が立っていた。


 図書館のアルバイト帰りだろうか、手には落ち着いた色合いの折りたたみ傘。


「な、なんでここに……」


「帰り道です。……田中さん、傘ないんですか?」


「……ああ」


「ほら、入ってください」


 そう言って静香は、何のためらいもなく傘を差し出してきた。


 彼女の肩に寄ると、ほんのりとシャンプーの匂いがした。


「……悪いな」


「気にしないでください。雨の日って、意外と悪くないですよ」


 静香は微笑みながら空を見上げる。


 雨粒が街灯に照らされ、キラキラと揺れていた。


「悪くない……?」


「はい。空気が澄んでるし、足元の水たまりに映る景色もきれいです。……ほら、あそこ」


 指差す先には、水面に揺れる学内のイルミネーション。


 俺は言葉を失った。


 シミュレーションも、データも、AIも──こんな景色を計算に入れたことはなかった。




 その後、二人で小さな屋根の下に避難した。


 雨音が心地よいリズムを刻む中、静香がぽつりと口を開く。


「田中さんって、いつも"完璧"を目指してますよね」


「……まあな。完璧にすれば、失敗しないから」


「でも、雨が降ったらどうします?」


「……今日みたいに、システムエラーだ」


「ふふっ。じゃあ、人生ってエラーだらけですね」


 静香の笑い声は、雨音に混じって不思議と心地よかった。


「エラーもバグも、全部避けようとするから疲れるんですよ。たまには、失敗込みで楽しんでもいいんじゃないですか?」


 俺は思わず黙り込んだ。


 確かに、今日の計画は大失敗だった。


 でも、その失敗がなければ、こうして静香と相合傘をすることもなかった。


「田中さんは、なんでそんなに完璧を求めるんですか?」


「……俺は不器用だから。計画通りにやらないと、何もうまくいかない」


「そうかな? 今日だって、計画なしで私と自然に話せてるじゃないですか」


 静香の指摘に、俺は驚いた。確かに彼女の前では、緊張することなく会話ができている。


「それって、とても素敵なことだと思います」




 雨が小やみになった頃、大輔が傘を差してやってきた。


「優太! お前、ずぶ濡れじゃねーか!」


「ああ……計画が台無しになった」


「計画? ああ、石倉さんへの告白のやつか」


 大輔は静香に気づいて、慌てて口を覆った。


「あ、すみません。俺、鈴木大輔です」


「山田静香です。いつもお世話になっています」


 静香は丁寧に挨拶した。


「で、優太。告白はどうなったんだ?」


「雨で中止だ……」


「中止って……雨が降ったくらいで諦めんなよ」


「だが計画では──」


「計画、計画って! お前、もっと自然体でいけよ」


 大輔の言葉に、静香が小さく頷いた。


「私も同じことを思います。田中さんらしさを活かせばいいのに」


「俺らしさ……」




 その時、歩美が傘を差して近づいてきた。


「田中先輩! 大丈夫ですか? びしょ濡れじゃないですか」


「あ、歩美……」


「急に雨が降り出して、みんな大変でしたね。でも私、先輩の発表への質問、とても嬉しかったです」


 歩美は本当に喜んでいるようだった。


「真剣に聞いてくれる人がいると、発表も楽しくなります」


「そ、そうか……」


「それに、先輩の研究への姿勢を見ていると、私ももっと頑張ろうって思えるんです」


 歩美の言葉に、俺は胸が熱くなった。


「ただ……」


「ただ?」


「もう少し、自然体でもいいと思います。先輩はそのままでも十分素敵ですから」



 データには残らない"偶然"こそ、本当に大切な変数なのかもしれない。


「……田中さん?」


「ああ、いや……ありがとう。なんか救われた気がする」


「救うだなんて、大げさですよ」


「いや、本当に」


 静香の横顔を見ながら、俺は初めて"計算できない温かさ"を実感した。


《INFO:新しいアルゴリズムが検出されました》


 頭の中に、そんなメッセージが浮かぶ。


 それは俺のAIではなく──心の中の声だった。



 その日、俺は結局、歩美に告白できなかった。


 けれど、心のどこかでこう思っていた。


 ──これもまた、一つの"最適解"なのかもしれない。


 家に帰った俺は、新しいファイルを作成した。


【恋愛アルゴリズム ver.3.0 - 自然体理論】


基本概念:

- 完璧な計画より、素直な気持ちを優先

- 失敗を恐れず、偶然を受け入れる

- 相手との自然な関係性を重視


重要な発見:

- 山田静香との関係:緊張せずに自然体でいられる

- 歩美からの評価:「そのままでも十分素敵」

- 雨という予期せぬ出来事から生まれた新たな体験


「そうか……俺はずっと『完璧な恋愛』を目指していたが、本当に大切なのは『自然な関係』だったんだ」


 窓の外では雨がまだ降っている。


 でも今日の雨は、俺にとって大切な何かを運んできてくれた気がした。




 翌日、研究室で俺は静香にお礼を言った。


「昨日はありがとう。傘を貸してくれて」


「お役に立てて良かったです」


「それと……君の言葉で、いろいろ気づくことができた」


「私なんて、大したことは言ってませんよ」


「いや、とても大切なことを教えてもらった」


 静香は少し照れたように微笑んだ。


「田中さんが元気になってくれれば、それで十分です」


 そんな静香を見ていると、俺の心に新しい感情が芽生えていることに気づいた。


 それは歩美への憧れとは違う、もっと温かくて自然な感情だった。


「……もしかして」


 俺の恋愛アルゴリズムに、重大なバグ──いや、新機能が追加されようとしていた。




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