表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/30

第4話 データ至上主義の落とし穴

翌日、研究室。


 俺──田中優太は、冷蔵庫の前で深呼吸をしていた。


「よし……落ち着け、田中優太。今日こそ"第一次接触作戦"を実行するのだ」


 冷蔵庫には、俺が朝コンビニで買ったカフェラテが二本。


 そう、俺は歩美が"週三で飲んでいる"という観察データをもとに、差し入れ用のカフェラテを用意してきたのだ。


 ターゲット──後輩の石倉歩美。


 社交的で明るいが、繊細さを隠し持つ文学少女系心理学女子。


 俺が一目惚れして以来、観察と記録を続けてきた。


 今日はついに、"偶然を装って差し入れる"フェーズに突入する。


「データは揃った。台詞もマニュアルから選定済み。完璧だ……!」


 俺はスマホのメモを確認する。


 今日のセリフは──


『研究の合間に糖分補給すると効率が上がるらしいよ。


よかったらこれ、どうぞ』


 無難かつ気配りをアピールできる一文だ。


 さらに声のトーン、間の取り方まで練習済み。


「ふっ……勝ったな」




 俺がにやけていると、研究室のドアが開いた。


 現れたのは、長い黒髪をポニーテールにした後輩、石倉歩美。


「おはようございます、田中先輩!」


 その笑顔。


 その声。


 その瞬間、俺の心拍数は急上昇し、体内でエラーログが乱舞した。


《WARNING:心拍数が危険域に達しています》


《ERROR:呼吸制御に失敗しました》


「お、おお……おはよ」


「? どうしたんですか、顔赤いですよ?」


「な、なんでもない!」


 やばい、早速挙動不審だ。


 落ち着け、優太。今は作戦実行のタイミングだ。


 俺は冷蔵庫からカフェラテを取り出し、歩美に近づく。


「えっと……歩美」


「はい?」


「け、研究の合間に……糖分補給……すると……効率が……あがる……らしい……よ」


 棒読み。


 しかも間が不自然すぎる。


 さらに震え声。


《ERROR:感情表現ライブラリが見つかりません》


「……よかったら、これ、どうぞ」


 ゴトッ。


 俺は机にカフェラテを置いた。


 歩美は一瞬固まり、それから困ったように笑った。


「あ、ありがとうございます……田中先輩」


「い、いや、その……」




 ここで返すべきセリフは何だった?


 マニュアルでは──「俺も同じの飲んでるから、一緒に休憩しよう」だ。


 だが口から出たのは。


「俺も……糖分補給する」


 ゴクッ。


 俺は自分用のカフェラテを無言で飲み干した。


 気まずすぎる沈黙。


 歩美は小首をかしげ、気遣うように微笑んだ。


「……先輩って、優しいんですね」


「っ……!」


 その一言に、脳内で爆発音が鳴った。


 あ、あれ? これ、意外と成功してるのでは?


《INFO:思わぬ好感度ポイントが加算されました》


 俺が勝利の確信を得かけたその時。


「……ぷっ」


 後ろから吹き出す声がした。


 振り向くと、研究室の隅で資料を整理していた田村麻衣──歩美の友人が、肩を震わせて笑っていた。


「な、なんだ」


「いえ……田中先輩、台本棒読みみたいで……つい」


「っ……!」


 心にクリティカルヒット。


 羞恥の炎が俺を包み込む。


「ち、違う! 俺は別に……!」


「ふふっ、ごめんなさい。歩美、優しい先輩に好かれていいね」


「ちょっ、田村っ!? な、なに言ってるのよ!」


 歩美が真っ赤になって慌てる。


 俺も真っ赤だ。


《FATAL ERROR:羞恨心が限界値を突破しました》




 俺はその場から逃げるように自席に戻り、ノートPCを開いた。


 しかし、ただ落ち込んでいるだけでは進歩がない。俺は科学者だ。失敗も貴重なデータとして活用しなければならない。


「よし……これで、歩美の"好感度"を数値化できるはずだ」


 俺は新しいExcelファイルを作成した。


 タイトルは【石倉歩美・好感度推定システム ver1.2】。


 カラムにはこう書かれている。


笑顔の回数(1回=+2pt)


会話中に名前を呼ばれた回数(1回=+3pt)


ありがとうと言われた回数(1回=+5pt)


困惑した表情(1回=-4pt)


棒読み指摘(1回=-10pt)


 先日の「第一次接触作戦」の結果を入力したところ、トータルは「-2」だった。


「おかしい……『優しい』と言われたのに、なぜマイナスなんだ……?」


 俺は頭を抱えた。


 データ分析は俺の得意分野だ。統計解析も機械学習も自在に扱える。


 だが──人間の感情は、どうにも定義が難しい。





 ちょうどその時、親友の鈴木大輔が顔を出した。


「お、優太。また数字いじってんのか?」


「いじってるんじゃない。これは歩美の感情を数値化する重要な研究だ」


「はぁ……。なぁ、恋愛を点数で計算してる時点でアウトだと思うけど?」


「バカを言うな。数値化すれば傾向が見える。傾向が見えれば対策ができる。対策ができれば──」


「勝てる、か?」


「……ああ」


 俺が真剣に答えると、大輔は呆れたように笑った。


「お前ってほんっと、こじらせてんな」


 うるさい。


 だが、俺は俺のやり方で攻略してみせる。


「でもさ、優太。お前のそのExcel、ちょっと見せてみろよ」


 大輔が画面を覗き込む。


「『困惑した表情マイナス4点』って……お前、石倉さんが困った顔したら減点してんのかよ」


「当然だ。困惑は好感度低下のサインだからな」


「いやいや、困惑にもいろいろあるだろ。『嬉しくて困っちゃう』みたいなのもあるし」


「そ、そんな細分化は……」


「だからダメなんだよ。人の気持ちってそんな単純じゃないって」



継続的な観察とデータ蓄積


 翌日。


 俺は観察と記録を続けていた。


「笑顔回数……本日三回。ありがとうはゼロ。困惑表情は……二回。ああ、マイナスだ」


 Excelにデータを打ち込みながら、ため息を漏らす。


 横で歩美が友人の田村と楽しそうに話している。


 俺のアプローチは空回りしてばかりだ。


「ねぇ、歩美。あんた、なんで田中先輩ってあんな不自然なの?」


「し、静かに! 本人に聞こえちゃうでしょ!」


「だって、見るからに"何か企んでる顔"なんだもん」


 ──聞こえてます。


 耳に刺さる二人の会話を、俺は必死に無視する。


《WARNING:精神耐久値が低下しています》


 ダメだ。データだけじゃなく、心まで削れていく……。


「あー、でも田中先輩って、なんだかんだ言って真面目よね」


「え?」


「ほら、カフェラテくれた時とか、すごく一生懸命だったし」


「ああ……確かに」


 歩美の声が少し柔らかくなった。


「ちょっと不器用だけど、優しい人だと思うわ」


 その言葉に、俺の心が少し温かくなった。



 その日の夕方。


 気分転換に図書館へ寄ると、静香がカウンターにいた。


「あ、田中さん。また来たんですね」


「……ああ」


「元気ないですね。研究、行き詰まってます?」


「まぁ……そんなところだ」


 俺は思わず愚痴をこぼしてしまった。


「人の感情を数値化しようとしてるんだが……全然、思った通りにならない」


「ふふっ」


「な、なんだ?」


「いえ……人の気持ちを数字で表そうとするなんて、田中さんらしいなって」


 静香は笑みを浮かべながら、少し真剣な目をした。


「でもね、人って"同じ笑顔"でも意味が違ったりするんですよ。


 楽しい笑顔と、誤魔化す笑顔。感謝のありがとうと、社交辞令のありがとう。


 そういうの、数字じゃ拾えないんじゃないかな」


「……!」


 俺は言葉を失った。


 データに夢中になって見落としていた。


 "同じイベント"にも文脈がある──それを理解できなければ、ただのノイズになる。


「田中さんって、ちょっと不器用ですけど……相手のことを見ようとしてるのは伝わりますよ」


「……そうか」


「だから、数字ばっかりじゃなくて、"歩美さんの気持ち"そのものを見てあげたらどうですか?」


 静香の言葉は、俺の心に妙にすっと染み込んできた。


「それに……」


「ん?」


「田中さんの真面目さって、きっと素敵だと思う人もいると思いますよ」


 静香は優しく微笑んだ。なぜか彼女の前では、心拍数が正常値を保っていた。



 翌日、研究室で高橋先輩に相談してみた。


「田中くん、恋愛を数値化ですか……面白いアプローチですね」


「面白くても結果が出ないんです」


「うーん、でも数値化自体は悪くないと思いますよ。ただ……」


「ただ?」


「変数の設定に問題があるのでは? 人間の感情は多次元データですから、単純な加減算では表現しきれません」


「多次元……」


「そうです。例えば、同じ『笑顔』でも、『嬉しい笑顔』『困った笑顔』『社交的な笑顔』『照れた笑顔』など、ベクトルの方向が全然違うんです」


 高橋先輩の言葉に、俺は衝撃を受けた。


「つまり、俺のシステムは……」


「次元数が足りないんです。もっと複雑なモデルが必要かもしれませんね」




 その夜。


 俺はPCの前で新しいセルを追加した。


相手の気持ち:???(数値化不可)


「……未知の変数、か」


 俺は苦笑した。


 完璧にシステム化できると思っていた恋愛に、どうやら予想外の"バグ"が潜んでいるらしい。


 だが──そのバグにこそ、本当の攻略法が隠されているのかもしれない。


《INFO:新しいアルゴリズムの必要性が検出されました》


 そんな時、スマホにメッセージが届いた。


 送り主は……山田静香。


『お疲れさまです。今日は相談に乗ってもらって、ありがとうございました。田中さんの研究、応援しています!』


 短いメッセージだったが、なぜか心が軽くなった。


「山田さん……」


 彼女との会話を思い返してみる。緊張せずに自然に話せた。数値化なんて考えずに、ただ会話を楽しめた。


「もしかして……」


 俺の中で新しい仮説が生まれた。


 恋愛における最重要な変数は、『自然体でいられるかどうか』なのではないか?


【恋愛アルゴリズム ver.2.0 開発方針】


1. 数値化は補助ツールとして活用


2. 相手の感情の「文脈」を重視


3. 自然体でのコミュニケーションを基本とする


参考事例:山田静香との関係性


「よし……次回はもう少し自然なアプローチを試してみよう」


 俺は決意を新たにした。


 しかし、この時の俺はまだ気づいていなかった。


 真の攻略対象が、実は目の前にいることに。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ