表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第4話 囁きの理由



翌晩もまた、彼は穴に目を寄せていた。

まるで引き寄せられるように。


彼女はいつも通り、ゆっくりとした仕草で部屋を歩く。

薄手のワンピースの裾が、かすかに揺れるたび、彼の喉が渇いた。

——だが、その夜は何かが違った。


鏡の前に立った彼女は、ふと笑みを浮かべ、こちらに背を向ける。

そして小さく囁いた。


「……ねえ、どうして見てるの?」


彼の心臓が跳ねる。

まるで問いかけが、直接耳に届いたかのように鮮明だった。


彼女は続ける。

「でも、いいのよ。私は“見られたい”から」

その声は甘やかで、同時にどこか冷たい。


ワンピースの肩紐を指で落とし、肌を露わにしながら、彼女はベッドに腰を下ろした。

その姿は明らかに挑発でありながら、どこか儀式めいてもいた。

視線の先に見えるのは、ただの女の官能ではなく——もっと深い、何か隠された意図。


「……あなたに、全部見届けてほしいの」


彼女の囁きに、彼の背筋を冷たいものが這い上がる。

それは欲望を刺激する甘美な声でありながら、同時に抗いがたい恐怖を呼び覚ます響きでもあった。


なぜ彼女は、見せるのか?

なぜ彼に、覗かせるのか?

——その理由を知ったとき、自分はもう戻れなくなる。


彼はそう直感しながらも、穴から目を離すことはできなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ