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第3話 再び、夜
その夜。
彼はベッドに横たわりながらも、眠れるはずがなかった。
朝の廊下での彼女の視線が、ずっと脳裏に焼き付いている。
——知っている。
あの瞳は、そう言っていた。
気づけば彼はまた、壁の穴に顔を寄せていた。
明かりの漏れる向こう側、彼女の部屋。
そこに立つ彼女は、まるで待っていたかのように、鏡の前に腰を下ろす。
彼女はゆっくりとブラウスのボタンを外していった。
ひとつ、またひとつ。
布地が滑り落ちるたび、白い肌が覗き、わざと穴の方に身体を傾ける。
——見せている。
間違いない。
彼女の手がうなじをなぞり、髪をすくい上げる。
その動きは艶やかで、しかし何より挑発的だった。
耳元で小さく笑う声がする。
「……また、見てるんでしょう?」
彼の背筋が熱くなる。
返事をすることはできない。
ただ穴越しに、彼女がこちらに投げかける視線を受け止めるしかなかった。
彼女はゆっくりとベッドに横たわると、ランプを消した。
だが闇の中からもなお、彼にははっきりと感じられた。
「見ていてほしい」という彼女の気配と、「見続けたい」という自分の衝動が、壁一枚を隔てて重なり合っていることを——。